離別から始まるシェフと勇者の物語【旧:異世界転移してきた勇者にパーティを追放されたのでシェフになります】

名無し@無名

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確執と過去

 
 ▪️過去への干渉

「会っていかなくて、いいの?」
「ああ、構わないさ」

 城を出た後、街を歩きながら莉緒はに問い掛ける。
 城に楓矢とミリアが来ている事は聞かされていたが、今の段階で会うべきでは無いとオルクスは判断した。
 魔王である莉緒の存在はもちろんだが、自分自身の未熟さを拭きれない内は顔を合わさないと決めていた。料理人として、また冒険者としての経験を積み、真っ向から楓矢に挑むその時までは。

「アイツらにはアイツらの、俺達には俺達のやるべき事がある」
「……うん、分かった」

 莉緒はそれ以上は言及せず、視線を賑わう街中へと移した。
 魔神討伐の報告を受けてか、何処も賑わいを取り戻している。恐らく、王国側は騎士団が半壊した件を伏せているとみて間違いないだろう。
 騎士団の現状を知れば住民達の混乱は避けられない。オルクスも妥当な判断だと納得した。そしてふと、徐に顎に手を添えて立ち止まる。

「莉緒はどう思う?」
「……なにが?」
「リナリーさんの話さ。あの人の母親が何を思い、どう考え動いたのか。単に私欲の為にクリスさんをそのまま送り出したと考えるのは短絡過ぎると思ってな」
「……うん。でもリナリーさんの言葉だけでは判断できないと思う」
「またそうだな。本人は酷く母親を嫌っているみたいだが、恐らくその後にクラウディオさんが出て行った理由もそこにあるのだろう」

 別れ際に聞いた話によると、クラウディオとリナリーが共に過ごした期間は約六年ほどらしい。リナリーは兄を大層頼りにしており、血は半分しか繋がっていなくとも強い信頼で結ばれていた。
 そんな兄が屋敷を出る理由がクリスだとすれば、ナタリーが母親を恨むのは自然の道理だろう。

「分からない事が多いが、あまり詮索も出来ないとなると直接自分の目で確かめる他に無いな」
「……オルクスにとっても、大切な人?」
「ああ、俺が冒険者になると決めたのはクラウディオさんのお陰だ。あれは俺が孤児院からギルドへ移り住んで間もない頃だったーーーー」

 遠い過去の記憶を手繰り寄せると、当時の話を莉緒に語った。


 ーーーーあれは十一年前。

 オルクスとミリアがまだ六歳前後で、孤児院を出てギルドに働きに出た頃だった。
 僅かな賃金でも稼いでくるとシスターに告げると、無理を言ってウォルフに住み込みで働ける様に頼み込んだのを覚えている。
 ギルドの雑用を手伝う名目だったが、実際はギルド周辺の掃除と皿洗いくらいの簡単な仕事だった。
 働き始めて三日が過ぎた頃、庭先の掃除をしている二人はとある冒険者と出会った。
 どうやら長期の依頼をこなしていたらしく始めて見る顔ーーーー耳がやや長く肌の白い男性。目は切れ長で威圧感はあるが、どこか不思議な雰囲気を纏う人物だった。
 タグを見れば冒険者だとすぐに分かったが、男性は二人の姿を見るや「なんだお前ら、ギルドの掃除してんのか?」と気さくに声を掛けてきた。
 耳の長さ、肌の雰囲気から幼い俺でもエルフ族だとすぐに分かった。
 だがしかし、直接亜人を見た事が無いオルクスは唖然とし、ミリアは魔族であると理解すると警戒の色を濃くした。
 ミリアは家族を魔物に殺されている。人間とほぼ同じ外見のハーフエルフと言えどそれは例外ではない。すぐにギルド内に逃げ込んだが、オルクスはその男性ーーーークラウディオに無意識に惹かれるものがあった。

「その剣で、魔物と戦うの?」
「なんだボウズ、剣に興味あるのか?」
「……う、うん。いつか皆んなを守れるようになりたい、から」
「ほほう。ガキンチョのクセに大した意気込みだ。よっしゃ、ウォルフさんに内緒で稽古をつけてやろう」
「ほんと!?」

 予想外の食い付きにクラウディオは機嫌を良くした。

「本当だとも。ただしロロアちゃんにも内緒だぞ? あの子、ああ見えてウォルフさん似で怖いから。ちなみに俺の名前はクラウディオだ」
「オルクス……オルクス・フェルゼンです」
「フェルゼン……っていうと孤児院で使われている共通の姓だよな? そうか、お前は孤児院の出なのか」
「うん。少しでも働いてシスターを助けたいから」
「!? ますます気に入った! なんだお前、無茶苦茶いいヤツだな」
「え、ちょっと……クラウディオ、さん!?」
「今時珍しいぜ、俺は筋の通ったヤツが大好きだ」

 端正な見た目と違い荒々しい接し方をするクラウディオにオルクスは戸惑いながらも笑みを溢した。
 孤児院育ちは少なからず他人から下に見らる事が多い。しかし、クラウディオはオルクスを生い立ちなどでは判断せず、ひとりのオルクス・フェルゼンとして見てくれた。
 当時は分からなかったが、これはクラウディオ自身が亜人だからに違いない。魔族の混血は忌み嫌われる。これまでに色々な事があったのだろう。
 結局、ミリアはクラウディオさんを拒絶したままだったが、オルクスは翌日からクラウディオと共に剣の鍛錬を始めた。

「ふッ! えいっ!」
「脇が甘いぞオルクス。もっと引き締めてーーーーこうだ!」
「は、早くて見えないよ」
「目だけでなくフィーリングで感じるんだよこんなモンは。あと振り抜く時に力み過ぎな」
「……はい!」
「よっしゃもう一回だ」

 クラウディオの鍛錬は至極シンプルなもので、簡単な素振りから始まり型を教えるというものだった。
 どこの流派なのかは分からないが、剣を握って間もないオルクスにとっては全てが新鮮で充実した日々となっていた。そしていつしかクラウディオを歳の離れた兄の様に慕った。

 ◆

「ねえオルクス」
「なんだよミリア」

 ギルドの裏で顔を洗うオルクスに対し、二階の自室から顔を出したミリアが問いかける。

「もうやめなよ、危ないよ」
「……強くなる為さ、構うもんか」
「あの人もなんか怪しいしさ」
「クラウディオさんを悪く言うな」
「私はオルクスが心配でーーーー」
「ほっといてくれ。俺はあの人と強くなるんだ」
「!? オルクスなんかもう知らないよ!」
「…………何だよ、ミリアのやつ」

 ミリアの過去を知ってはいたが、ハーフエルフが魔族だからと毛嫌いするのが許せなかった。
 話してみて、接してみて分かるクラウディオの本質を知らないまま否定しないでくれとオルクスは不貞腐れた。

「さてと、クラウディオさんが帰ってくるまで素振りでもするか」

 それから半年が経過するまで、クラウディオによるオルクスの剣技指導は続いた。
 元々の素質が有ったのか、オルクスの上達速度は目を見張るものがあった。そしてクラウディオから距離を置いていたミリアも遠巻きに様子を伺い続けた結果、クラウディオの人間性を知る事で心を開きつつあった。
 いつしかミリアも訓練を眺めつつ、回復魔法の鍛錬を初めるに至る。いつかオルクスが剣士となった時に自分が側にいられる様に。
 二人が切磋琢磨する光景を見るのがクラウディオの楽しみになっていた。結局ウォルフにバレてしまったが、手伝いとはいえギルドに所属している手前、今更辞めろとは言わなかった。

 こうしてギルドマスター公認となった二人は、十二歳を迎える頃には冒険者としてのライセンスを取得した。
 やがてクラウディオがリーダーを務める三人パーティを組むのだが、彼は二人が上手く立ち回れる様にと絶妙な距離感でサポートを続けた。
 その結果、二人は若年層の冒険者としては異例の速度でランクを上げ続けた。
 オルクスの剣技もそうだが、ミリアも類い稀なる才能を開花させた。回復と補助魔法を体得し、状況を見極めて使用する。一見簡単に思えるが、この頃はオルクスが無茶をする場面が多く、息の合った連携の殆どはミリアによるコントロールだった。
 冒険者ランクがCに到達する頃には、互いの性格を理解した戦闘スタイルを確立させた。

「いやー凄いわお前ら」

 ギルドの隅の席で酒を飲みながらクラウディオは上機嫌だった。
 依頼の達成と同時に感じた二人の成長。まるで親心とも呼べるそれは、彼の生き甲斐にもなりつつあった。

「俺はまだまだ強くなれるぞ」
「もう、オルクスはすぐに調子に乗るんだから。悪いクセだよまったく」
「うんうん、相変わらず仲が良くてけっこう」
「それよりクラウディオさん、明日はどの依頼を受けるんだ? そろそろBランクも視野に入れてもいいよな?」
「ばーか、気が早いっての。いいかオルクス、人間は死んだら終わりだ」
「当たり前だろう」
「いや解ってねえ。ミリアは自覚しているだろうが、冒険者は常に死と隣り合わせだ。慢心と過信がどれだけ危険なのかはーーーー」
「はいはい、もう何回も聞いたって」

 プイと顔を背けてグラスを口にする。
 その光景にため息を吐いたミリアは食べ掛けのハンバーグを頬張りながら満面の笑みを浮かべた。

「もぐもぐ……子供だよねオルクスは。こうして美味しいご飯が食べられる幸せをもっと噛み締めるべきだよ」
「なんだと?」
「もっと言ってやれミリア。まったく、俺が居ないとお前はすぐにおっ死にそうだぜ」
「大丈夫だよ。クラウディオさんは俺達おずっと一緒にパーティ組んでくれるんだろう?」
「…………」
「クラウディオさん?」

 グラスの氷がカラリと音を立てると、クラウディオはハッと我に返った。

「お、おう! お前がSランクになるまでは離れる訳にはいかねぇな!」


 ◆


「ーーーーーあの時、クラウディオさんの違和感に気付くべきだった」

 再び視線を莉緒に戻したオルクスは、後悔の念を表情に貼り付けて続けた。

「その日の朝に、クラウディオさんは姿を消した。俺とミリアは慌てて周辺を探したけれど、結局あの人を見つける事は出来ないまま時間だけが過ぎた」
「理由も無く、出て行ったの?」

 莉緒の言葉に、オルクスは首を縦に振る。

「それから俺達は現実を受け入れられないまま、依頼をこなし続けてSランクまで登り詰めた。様々な街を巡りクラウディオさんの手掛かりを探したが、いつまでも情報は手に入らなかった」

 そしていつしか、クラウディオとの記憶を頭の奥底へと沈める事で前に進もうと心に決めた。

「だがこうして手掛かりを得た今、俺は改めてあの人に会いたいと思う。色々と言いたい事もあるし、何よりあの日の真意を確かめたい」
「……オルクス」
「だから莉緒、もしかすると危険な目に合わせるかも知れないがーーーー」
「私は大丈夫、今はオルクスの側しか、居場所がないから」
「……そうか、ありがとう」

 魔王化については不確定要素が多いが、それでもクラウディオの情報は確かめずには居られなかった。
 裏ギルドの噂は黒いものが多いが、本当にそこにクラウディオが関わっているのかーーーー不安は拭い切れないが、オルクスは進むだけだと自分に言い聞かせた。
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