27 / 71
26 師匠が語る真実②
しおりを挟む「まず、話を進めるうえで呪術という異能の特性に関して理解をしておく必要があります。簡単に説明しますね」
僕は静かに頷いた。ティスタ先生は魔術師でありながら、呪術の知識もあるらしい。呪術師の千歳さんと一緒に行動していたからかもしれない。
「呪術とは、大きくふたつに分類されます。呪いと呪い。これらは表裏一体です」
簡単に考えると、呪いは自身に作用させる異能。呪いは他人に作用させる異能。血の呪術を扱っていた千歳さんの場合、呪術としては前者らしい。
「千歳さんが使用しているような肉体などに作用する呪い。これは特定の条件付きで肉体の強化や特殊な力を扱うための異能です。千歳さんの場合、自傷行為と出血をトリガーに血液を操る呪いを使えます」
そしてもうひとつ。呪いの方は大変厄介なものらしい。
「この国では、古くから丑の刻参りなんて手法も存在していますよね。あれを実用的にしたものです。ジワジワと嬲り殺しにしたり、その場で即死させたりすることもできます」
古来より人間の扱ってきた呪いには、ある特性がある。それは「呪いは強力だが、いつか必ず自分へと跳ね返ってくる」というものだ。
人を呪わば穴二つという言葉の通り、他人へ与えた呪いは必ず行使者の元へと戻ってきて、災いをもたらすという。
「ここまでは呪術に関する説明です。理解が出来ましたか?」
「はい。呪いは自分へかけるもの。呪いは他者にかけるもの、ということですよね」
「そうです。それだけ覚えておいてくれれば、これから話すことはきっと理解できるはずです。ここからちょっとスケールの大きなお話になりますけれど、ついてきてくださいね」
そして、ここからは魔界の戦争の話。
「今から約150年前、人間の世界のとある天才学者が「魔界」という異なる次元に存在する世界の観測に成功しました。魔力という異能の力を備えた魔族の存在を知った人間は「魔族が将来的に人間の脅威になるかもしれない」という理由で、一方的に魔界へと攻め込みました」
「それだけ、ですか? 当時はまだ何もされていないのに?」
「それだけです。本当にそれだけで、魔界を滅ぼしたんです。魔族を滅ぼす過程で、生物兵器や化学兵器、果ては核兵器も実験も兼ねて使用されました。人間にとって魔界は、あらゆる大量破壊兵器や殺戮兵器の実験場と化していたんです」
「…………」
僕は魔界を直接見たことは無い。エルフだった母が残していた写真だけだ。それでも到底許容できるようなことではない。自分の祖先たちがどれほど酷い目にあってきたのか、今の話だけで理解できる。
滅亡へと向かう魔界へ、人間は更に追い打ちをかけた。
「人間が作り出した兵器の中でも最も恐ろしいものが、呪害兵器と呼ばれるものでした。簡単にいうと「魔族は死ね」というシンプルな呪いを詰め込んだ爆弾です。その呪いがトドメとなって、魔界は滅んで、大半の魔族が死に絶えました」
「……あの、ちょっといいでしょうか。さっき呪いは返ってくると先生は仰いましたよね。それじゃあ、魔界で広がった呪いって――」
「跳ね返ってきた呪いがどのような形になるか、どのタイミングになるかはわかりませんが、いつか必ず全ての人間達に跳ね返ってきます。なにせ、魔界の魔族は大半が死に絶えたのです。そのしっぺ返しで人類の9割が死滅するというのが私達魔術師の見解です」
「は? 9、割……?」
ティスタ先生は淡々と恐ろしいことを口にした。話のスケールが大きすぎて、現実味がまるで無い。
「呪いで魔族を殺した分、何らかの形で人間も死ぬという事です。それが1年後か、10年後か、100年後か……人類の危機がいつ来るのかはわかりませんけれどね」」
その呪いの形は、疫病や戦争、あるいは人間には対処できないほどの自然災害になるかもしれない。
「難しい話ではないのですよ。簡単に言えば「過去のやらかしの報いがいつか来る」ということ、そして「もうそれはどうしようもない」ということ」
冷めてしまったコーヒーを飲みながら、ティスタ先生は碧い瞳を曇らせながら溜息を吐いた。
(あぁ、これがティスタ先生が……魔術師達が現実から目を背けてしまった理由……)
今話してくれた先生の話以外にも、多くの魔術師が人間への不信感を抱く理由になった数々の出来事がいくつもあったのだという。
魔界から人間の世界へ返ってくる呪いへの対処を提案しても、人間はこの先本当に起きるかもわからない人類の危機に対して楽観的で、魔術師の意見のほとんどは適当に聞き流されてしまった。
その後、現実味の無い人類の危機を吹聴する魔術師を人間は迫害するようになった。それが「魔女狩り」という法的手続きを経ない私刑にまで発展して、ティスタ先生を含めた「銀魔氏族」という魔術師一族は壊滅させられた。
「その後のことは、キミも千歳さんからちょっとは聞いていますよね。私は家族や友人の多くを喪って、半ば自暴自棄のまま千歳さんと三日三晩の殺し合い……今後の魔族や魔術師の行く末を決める戦いへと赴きました。決闘なんて古臭い方法でしたが、あの時はそれ以外に周囲の納得を得た上で犠牲を抑える方法が無かったのです」
激しい戦いを経て、千歳さんと意気投合したティスタ先生は、今までとは違うやり方で世間からの魔術師や魔族への偏見を変えようとしたらしい。便利屋という職業を始めたのも、その活動の一環だった。
「でもね、ダメだったんですよ。大人になっていくうちに、私のような魔術師が世の中を変えようなんて無理なんだって、そんな現実に叩きのめされちゃったんです。あとはトーヤ君の知る通り、ろくでもない不良魔術師となった私が偶然キミと出会って、今に至ります」
僕と先生が初めて出会った、あの時……いや、今でもこんな感情を抱え込んでいたのだ。弟子として近くで彼女のことを見てきたというのに、僕は何も気付いてあげることができなかった。自分が情けない。
「最近でいうと、某国で確認された未知の肺炎のウイルスとか……案外、もう人間は滅びに向かっているのかもしれませんね。アレは多分、近いうちにパンデミックが起きますよ。キミも気を付けてくださいね」
淡々とそう言ったティスタ先生は、静かに瞳を伏せた。
0
あなたにおすすめの小説
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
お妃さま誕生物語
すみれ
ファンタジー
シーリアは公爵令嬢で王太子の婚約者だったが、婚約破棄をされる。それは、シーリアを見染めた商人リヒトール・マクレンジーが裏で糸をひくものだった。リヒトールはシーリアを手に入れるために貴族を没落させ、爵位を得るだけでなく、国さえも手に入れようとする。そしてシーリアもお妃教育で、世界はきれいごとだけではないと知っていた。
小説家になろうサイトで連載していたものを漢字等微修正して公開しております。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
盾の間違った使い方
KeyBow
ファンタジー
その日は快晴で、DIY日和だった。
まさかあんな形で日常が終わるだなんて、誰に想像できただろうか。
マンションの屋上から落ちてきた女子高生と、運が悪く――いや、悪すぎることに激突して、俺は死んだはずだった。
しかし、当たった次の瞬間。
気がつけば、今にも動き出しそうなドラゴンの骨の前にいた。
周囲は白骨死体だらけ。
慌てて武器になりそうなものを探すが、剣はすべて折れ曲がり、鎧は胸に大穴が空いたりひしゃげたりしている。
仏様から脱がすのは、物理的にも気持ち的にも無理だった。
ここは――
多分、ボス部屋。
しかもこの部屋には入り口しかなく、本来ドラゴンを倒すために進んできた道を、逆進行するしかなかった。
与えられた能力は、現代日本の商品を異世界に取り寄せる
【異世界ショッピング】。
一見チートだが、完成された日用品も、人が口にできる食べ物も飲料水もない。買えるのは素材と道具、作業関連品、農作業関連の品や種、苗等だ。
魔物を倒して魔石をポイントに換えなければ、
水一滴すら買えない。
ダンジョン最奥スタートの、ハード・・・どころか鬼モードだった。
そんな中、盾だけが違った。
傷はあっても、バンドの残った盾はいくつも使えた。
両手に円盾、背中に大盾、そして両肩に装着したL字型とスパイク付きのそれは、俺をリアルザクに仕立てた。
盾で殴り
盾で守り
腹が減れば・・・盾で焼く。
フライパン代わりにし、竈の一部にし、用途は盛大に間違っているが、生きるためには、それが正解だった。
ボス部屋手前のセーフエリアを拠点に、俺はひとりダンジョンを生き延びていく。
――そんなある日。
聞こえるはずのない女性の悲鳴が、ボス部屋から響いた。
盾のまちがった使い方から始まる異世界サバイバル、ここに開幕。
【AIの使用について】
本作は執筆補助ツールとして生成AIを使用しています。
主な用途は「誤字脱字のチェック」「表現の推敲」「壁打ち(アイデア出しの補助)」です。
ストーリー構成および本文の執筆は作者自身が行っております。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【完結】ある二人の皇女
つくも茄子
ファンタジー
美しき姉妹の皇女がいた。
姉は物静か淑やかな美女、妹は勝気で闊達な美女。
成長した二人は同じ夫・皇太子に嫁ぐ。
最初に嫁いだ姉であったが、皇后になったのは妹。
何故か?
それは夫が皇帝に即位する前に姉が亡くなったからである。
皇后には息子が一人いた。
ライバルは亡き姉の忘れ形見の皇子。
不穏な空気が漂う中で謀反が起こる。
我が子に隠された秘密を皇后が知るのは全てが終わった時であった。
他のサイトにも公開中。
ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜
KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞
ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。
諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。
そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。
捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。
腕には、守るべきメイドの少女。
眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。
―――それは、ただの不運な落下のはずだった。
崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。
その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。
死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。
だが、その力の代償は、あまりにも大きい。
彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”――
つまり平和で自堕落な生活そのものだった。
これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、
守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、
いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。
―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる