銀杖のティスタ

マー

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31 魔術学院へ

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 ティスタ先生の見守る中、僕は考える。

 何もないこの場所から、どうやって目的地へと進むのか。目の前には真っ白な雪原。建物は全く見当たらない。

 5分ほど悩んでいると、ティスタ先生が僕にヒントをくれた。

「魔術学院への道は二重の結界に守られて、その存在を一般人には秘匿されています。1枚目の結界は、物理的な障壁。魔力の無い人間の力では通ることも破ることもできません。例外もありますが、魔力を持つ者以外はまず通り抜けることはできないのです。では、2枚目は?」

「……同じような結界を2枚作っても意味がないですよね。1枚目が破られた時のことを考えるなら、それとはまったく違うものを作った方がいい」

「その通りです。二重ロックの金庫を同じ暗証番号にしていたら意味がありませんからね」

 1枚目の結界は物理的な拒絶。それなら、2枚目は――

「もしかして、認識を変えるタイプの魔術でしょうか」

「正解! あとはその攻略法だけですね」

 先生は嬉しそうに頷きながら、僕が答えを導き出すのを待っていてくれている。寒いのが苦手な先生をこんな雪原の真ん中で待たせるわけにもいかない。

 認識を変えているのは、学院の周囲。出入口があると考えるなら、先生が連れてきてくれたこの場所に違いない。その出入り口の場所を暴かなくてはいけない。

「そういえば、この通行証……」

 先生が出発前に渡してくれた銀のプレートは、通行証としての役割があると言っていた。これを使うのは間違いない。鏡のように磨き上げられた銀のプレートには、雪景色が写り込んでいる。

「もしかして、これを?」

 鏡を正面に向けてみるけれど、何も起きない。それなら、鏡に映り込んだものはどうだろうか。鏡に映る背後の景色を見ながら、その場でクルリと回って観察してみる。

「…………あっ!?」

 鏡に映り込んだのは、空間の隙間。カーテンのような膜に覆われた先に何かが見えた。しかし、背後を振り向くと何もない。この銀のプレートを利用した方法でしか出入り口を認識できない仕組みになっていたらしい。

「ヒントひとつでよく見つけました。さすが我が弟子です」

 一番嬉しい言葉を貰えた。どうやら正解だったらしい。

「それでは、いよいよ学院です。気を引き締めてくださいね」

 先生はそう言うと、僕が見つけた空間の裂け目をカーテンを開くかのように結界を手で簡単にこじ開けた。

「先生、見えていたんですか?」

「練度の高い感知魔術なら、その通行証を使わなくても出入り口は発見できますよ。キミも慣れれば出来るようになるはずです」

 やっぱり先生は色々と規格外らしい。僕がこの人のような魔術師になれるまで、いったいどれほどの時間を費やせばいいのだろうか。



 ……………



 結界を超えると、目の前には大きな洋館が建っていた。鉄の塀に囲まれたその場所は、学院というよりも豪邸のように見える。

 大きな鉄の門を開けて敷地内へと入ると、洋館の中から灰色の外套に身を包んだ白髪頭の初老の男性がこちらへ歩いてくるのが見えた。

「ティスタ様、柊 冬也様、ようこそおいでくださいました」

「久しぶりです、エドガー。無理を聞いてくださってありがとうございます」

 この男性は魔術教師のエドガーさん。ティスタ先生とは昔から面識があったようで、こちらに向けて丁寧にお辞儀をした後、恐縮した様子でティスタ先生に話し掛けている。

「正直、お話を頂いた時は大変驚きました。ティスタ様が弟子を取られるなんて、いつ以来でしょうか」

「彼のような逸材を目の前にしてしまったら、放っておくわけにもいきませんからね。この学院で、同性代の見習い魔術師達と一緒に魔術を学ばせてあげてほしいのです」

「それはありがたい。あの「銀杖のティスタ」様のお弟子様と一緒に授業を受けれるなんて、生徒達も喜ぶと思います」

 なんだか、僕はずいぶんと過大評価されてしまっているらしい。僕は先生に弟子入りしているだけで、まだまだ未熟なのだから。

「ではトーヤ君、またあとで。私はここで特別授業をする準備をしてきますので」

「え、先生がここで授業をしてくれるんですか?」

「特別講師ということでね。便利屋稼業のひとつですので、ちゃーんとお金も頂いております!」

 便利屋として抜かり無し。普通は魔術学院という場所でしか使えないような魔術も見れるそうなので、僕としても大変ありがたい話だ。



 ……………



「冬也様、こちらへ」

 魔術教師のエドガーさんは、学院内の案内をしてくれた。洋館のような見た目に反して、普通の廊下に普通の教室。少し違うのは、天井の明かりが青白い魔力光ということ。

 人間社会に流通している普通の蛍光灯に見えるけれど、何か違うように思える。僕が不思議そうに天井の青白い光を見ていると、エドガーさんは僕に説明をしてくれた。

「ああいった蛍光灯や電球など、電力で稼働するものも少しの手間を掛ければ魔力で動かしたり光らせたりできるのです」

「そんな技術があるんですね」

「いわゆる魔道具、あるいは魔動具と呼ばれる代物です。この学院では、そういったものを作る授業もあります」

 ここではあらゆるものを電力の代わりに魔力で動かしているそうで、驚くことに人間が作った電化製品もある程度の専門知識があれば魔力で動かせるように出来るらしい。

 魔力・魔術に関して、やっぱりまだまだ知らないことがたくさんある。今から授業が楽しみで仕方が無い。それに、ティスタ先生の特別な授業の内容も気になる。

 魔術学院への1週間の短期留学、その初日――僕は期待に胸を躍らせながら、他の生徒達がいる教室へと向かった。
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