39 / 71
38 迫る脅威
しおりを挟む短期留学を終えた僕は、1週間ぶりに便利屋事務所へと向かっていた。
留学を経て大きく成長したというわけではないけれど、新しい友人も出来たし、初めて学ぶこともたくさんあって有意義な時間を過ごすことが出来た。
無事に帰ってきた報告をしようと便利屋の扉を開けて元気に挨拶をしようとすると、足元に人影が見えた。黒いスーツ姿の男性がティスタ先生に向けて渾身の土下座をしていたのだ。
「……兄弟子?」
土下座をしていたのは、僕の兄弟子である金井さん。深々と頭を下げる彼の姿をティスタ先生は立ったまま見下ろしていた。なんだか以前にも似たような光景を見た気がする。
「どうか、もう一度チャンスをくださいっ……!!」
金井さんはティスタ先生に向けて何か懇願をしている様子。状況が飲み込めずにいると、ティスタ先生は僕に説明をしてくれた。
「彼、また私の元で魔術を学びたいそうなのです。ですが、一度出奔した者の言葉を信じてよいものかと悩んでいましてね」
先生からしてみれば、逃げ出した弟子など面倒を見る義理は無い。でも、兄弟子の必死な様子を見ていると、見捨てることもできない。ティスタ先生はやっぱり優しい。
「一応、見習い魔術師に戻りたい理由を聞いておきましょうか」
兄弟子は、土下座をしたまま魔術師復帰の理由を語りはじめた。
「頑張っているトーヤさんやティスタさんの姿を見ていたら、オレもまた1からやり直せないかなって……そう思って……」
「んん……」
兄弟子の言葉を聞いて、ティスタ先生の心は揺れ動いている。もう一押しと言ったところなので、僕の方からもお願いをしてみた。
「先生、僕からもお願いします。兄弟子は千歳さんとの実戦訓練の時、僕のことを身体を張って守ってくれました。だから――」
僕の最後の一押しが聞いたのか、ティスタ先生は渋々了承してくれた。
「……わかりました。ただし、しばらくは事務所の雑用ですよ。そうでなければ、今の弟子への示しがつきませんから」
「はい、ありがとうございます!」
無事に兄弟子の金井さんは魔術師として復帰して、便利屋 宝生は4人体制での業務が可能となった。仕事が楽になるだけではなく、魔術の修練をする時間も増える。僕にとってはとてもありがたい増員だ。
……………
それから、本日の業務を終えた後に金井さんの歓迎会をすることになった。所長の千歳さんが出前を取ってくれたお寿司を食べながら歓迎会を楽しんだ後、今後のことについて話し合う事になった。
例の「魔術師殺し」の件について、情報を共有しておかなくてはいけない。
「……そうか。あのヤロウ、遂に尻尾を出したな。しかし、今まで何をしていたんだ?」
かつて魔術師殺しと戦った経験のある千歳さんは、苦虫を嚙み潰したような顔をしている。呪術師にとっても大変厄介な魔術師らしい。
「わかりません。ただ、思い当たることがあります。トーヤ君を襲った半グレ集団が「魔符」を持っていたことが不可解でした。あれは魔力を持たない人間には作り出せないし、本来なら表に出るような代物ではありません。関連があるのではないかと思っています」
ティスタ先生と千歳さんが言うには、特殊な魔符は裏の世界では高く売れるそうで、日本での資金繰りをするために半グレにまで魔符を売り捌いていたのではないかというのが見解らしい。
魔術師殺しのガーユスといえば魔術師界隈では有名な危険人物らしく、魔術師をしばらく辞めていた兄弟子ですらも知っているとのこと。
「見習い魔術師に復帰してすぐに一番ヤベー奴の話が出るなんて……あぁ……」
兄弟子は苦笑いしながら真っ青な顔をしている。僕の想像している以上の危険人物であるに違いない。
「得意とするのは熱と炎の魔術を操る魔術。魔力量や使える魔術の数も凄まじいですが、ガーユスという男の厄介な点は「殺しに容赦が無いこと」と「近代兵器も躊躇なく利用すること」です。私が最初にあの男と戦った時、拳銃で思わぬ反撃を受けて取り逃してしまいました。あの男は、魔術と近代兵器を組み合わせた戦術・戦略が得意で、魔術師を殺すことに長けています」
他にもプラスチック爆弾や対人地雷といった近代兵器へ魔力を込めて、より殺傷能力を高めたものを使用することもあったらしい。
しかも、それらの魔力を込めた兵器を世界各国の様々な組織へ売り捌いている武器商人のようなこともしているのだとか。国際指名手配をされるのが納得の経歴だった。
「そんな危険人物が日本に……」
「日本にはスパイを取り締まる法律が無いので、この国の重要な情報は彼によって他の国へ駄々洩れになるでしょうね。魔術師界隈だけではなく、様々なところで大騒ぎになっていますよ」
僕の思っている以上に、この日本に危機的な状況が近付いている。常軌を逸した魔術師の本性や犯罪歴を聞いて、僕の背中を嫌な汗が伝う。
「いざという時は、トーヤ君を含めた全ての見習い魔術師とそのご家族は、安全な場所へ避難してもらいます。そうならないように、日本の警察には頑張って頂きたいですね」
「先生達は、その魔術師殺しと戦うんですか?」
「そうなるかもしれません。相手が相手ですからね。万が一、ガーユスに遭遇してしまった際には「何も考えずに即逃走する」ということを頭に入れておいてください。一見すると普通の男性ですが、話の通じる相手ではありません」
「そこまで……」
「自分のやっていることが正しいと思い込んでいる狂人ほど、始末に負えない者はいませんよ。ガーユスという男は、自分の思想に共感しない魔術師と魔力を持たない人間のことを生き物として見ないのです」
僕は会ったこともないけれど、ティスタ先生たちの様子を見ていると相手にしてはいけない人物であるということだけはよく理解できた。
「大丈夫、キミのことは私が守りますから」
ティスタ先生はそう言いながら、僕の頭を優しく撫でてくれた。
先生に無理をして欲しくはないけれど、見習い魔術師である僕には、何も手伝えることは無い。……でもそれは、僕が「見習いのままだったら」の話だ。
師匠の師匠、リリさんから渡された魔導書――この解読、及び記された魔術の解析が出来れば、僕は正式に魔術師として認めてもらうことになっている。
あの魔導書に何が記されているのかわからない。僕の遠い祖先は、どうして同じ種族の者しか読み解けない仕組みを作ったのか。わからないことばかりだけれど、まず手始めに魔界文字の翻訳から始めなくてはいけない。
魔界で生きたエルフ達は、いったい何を思って人間の世界に魔導書を遺したのだろうか――。
0
あなたにおすすめの小説
春の雨はあたたかいー家出JKがオッサンの嫁になって女子大生になるまでのお話
登夢
恋愛
春の雨の夜に出会った訳あり家出JKと真面目な独身サラリーマンの1年間の同居生活を綴ったラブストーリーです。私は家出JKで春の雨の日の夜に駅前にいたところオッサンに拾われて家に連れ帰ってもらった。家出の訳を聞いたオッサンは、自分と同じに境遇に同情して私を同居させてくれた。同居の代わりに私は家事を引き受けることにしたが、真面目なオッサンは私を抱こうとしなかった。18歳になったときオッサンにプロポーズされる。
お妃さま誕生物語
すみれ
ファンタジー
シーリアは公爵令嬢で王太子の婚約者だったが、婚約破棄をされる。それは、シーリアを見染めた商人リヒトール・マクレンジーが裏で糸をひくものだった。リヒトールはシーリアを手に入れるために貴族を没落させ、爵位を得るだけでなく、国さえも手に入れようとする。そしてシーリアもお妃教育で、世界はきれいごとだけではないと知っていた。
小説家になろうサイトで連載していたものを漢字等微修正して公開しております。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
盾の間違った使い方
KeyBow
ファンタジー
その日は快晴で、DIY日和だった。
まさかあんな形で日常が終わるだなんて、誰に想像できただろうか。
マンションの屋上から落ちてきた女子高生と、運が悪く――いや、悪すぎることに激突して、俺は死んだはずだった。
しかし、当たった次の瞬間。
気がつけば、今にも動き出しそうなドラゴンの骨の前にいた。
周囲は白骨死体だらけ。
慌てて武器になりそうなものを探すが、剣はすべて折れ曲がり、鎧は胸に大穴が空いたりひしゃげたりしている。
仏様から脱がすのは、物理的にも気持ち的にも無理だった。
ここは――
多分、ボス部屋。
しかもこの部屋には入り口しかなく、本来ドラゴンを倒すために進んできた道を、逆進行するしかなかった。
与えられた能力は、現代日本の商品を異世界に取り寄せる
【異世界ショッピング】。
一見チートだが、完成された日用品も、人が口にできる食べ物も飲料水もない。買えるのは素材と道具、作業関連品、農作業関連の品や種、苗等だ。
魔物を倒して魔石をポイントに換えなければ、
水一滴すら買えない。
ダンジョン最奥スタートの、ハード・・・どころか鬼モードだった。
そんな中、盾だけが違った。
傷はあっても、バンドの残った盾はいくつも使えた。
両手に円盾、背中に大盾、そして両肩に装着したL字型とスパイク付きのそれは、俺をリアルザクに仕立てた。
盾で殴り
盾で守り
腹が減れば・・・盾で焼く。
フライパン代わりにし、竈の一部にし、用途は盛大に間違っているが、生きるためには、それが正解だった。
ボス部屋手前のセーフエリアを拠点に、俺はひとりダンジョンを生き延びていく。
――そんなある日。
聞こえるはずのない女性の悲鳴が、ボス部屋から響いた。
盾のまちがった使い方から始まる異世界サバイバル、ここに開幕。
【AIの使用について】
本作は執筆補助ツールとして生成AIを使用しています。
主な用途は「誤字脱字のチェック」「表現の推敲」「壁打ち(アイデア出しの補助)」です。
ストーリー構成および本文の執筆は作者自身が行っております。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【完結】ある二人の皇女
つくも茄子
ファンタジー
美しき姉妹の皇女がいた。
姉は物静か淑やかな美女、妹は勝気で闊達な美女。
成長した二人は同じ夫・皇太子に嫁ぐ。
最初に嫁いだ姉であったが、皇后になったのは妹。
何故か?
それは夫が皇帝に即位する前に姉が亡くなったからである。
皇后には息子が一人いた。
ライバルは亡き姉の忘れ形見の皇子。
不穏な空気が漂う中で謀反が起こる。
我が子に隠された秘密を皇后が知るのは全てが終わった時であった。
他のサイトにも公開中。
ラストアタック!〜御者のオッサン、棚ぼたで最強になる〜
KeyBow
ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞奨励賞受賞
ディノッゾ、36歳。職業、馬車の御者。
諸国を旅するのを生き甲斐としながらも、その実態は、酒と女が好きで、いつかは楽して暮らしたいと願う、どこにでもいる平凡なオッサンだ。
そんな男が、ある日、傲慢なSランクパーティーが挑むドラゴンの討伐に、くじ引きによって理不尽な捨て駒として巻き込まれる。
捨て駒として先行させられたディノッゾの馬車。竜との遭遇地点として聞かされていた場所より、遥か手前でそれは起こった。天を覆う巨大な影―――ドラゴンの襲撃。馬車は木っ端微塵に砕け散り、ディノッゾは、同乗していたメイドの少女リリアと共に、死の淵へと叩き落された―――はずだった。
腕には、守るべきメイドの少女。
眼下には、Sランクパーティーさえも圧倒する、伝説のドラゴン。
―――それは、ただの不運な落下のはずだった。
崩れ落ちる崖から転落する際、杖代わりにしていただけの槍が、本当に、ただ偶然にも、ドラゴンのたった一つの弱点である『逆鱗』を貫いた。
その、あまりにも幸運な事故こそが、竜の命を絶つ『最後の一撃(ラストアタック)』となったことを、彼はまだ知らない。
死の淵から生還した彼が手に入れたのは、神の如き規格外の力と、彼を「師」と慕う、新たな仲間たちだった。
だが、その力の代償は、あまりにも大きい。
彼が何よりも愛していた“酒と女と気楽な旅”――
つまり平和で自堕落な生活そのものだった。
これは、英雄になるつもりのなかった「ただのオッサン」が、
守るべき者たちのため、そして亡き友との誓いのために、
いつしか、世界を救う伝説へと祭り上げられていく物語。
―――その勘違いと優しさが、やがて世界を揺るがす。
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる