海上都市の機甲女 ~a point of change~

ケニーさん

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第一機

二年前

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「あの……。一つ伺ってもよろしいですか?」

 何かな? と水瀬は珈琲メーカーにスイッチを入れながら言葉を返す。
 機械から蒸気が吹き出されて珈琲が二つのカップへと注がれていく。蒸気と共に香ばしい香りが部屋を満たす。それは決して嫌なものではなく心を落ち着かせた。

「篤さんはどんな方なんですか?」

 どんな方? と水瀬さんは答える。

「今まであったことがないような人なので……」

「今までにあったことがないような人? それは具体的に?」

 忙しく動いていた珈琲メーカーが大人しくなったころにはカップに八割がた満たされた。

「私のような機械人形アンドロイドに対してとても優しくしてくれます。そんな人初めて会ったので……」

「ツバキちゃんは珈琲に何か入れるかい?」

 お砂糖を、と答えると水瀬は私と同じだ、と言いながら両方のカップに角砂糖をひとつずつ落とした。滑らかな動きでカップの中をかき混ぜる。カップを手にツバキ元へと戻り机にコップを置いた。
 頂きます、と入れてくれたことに感謝し、口をつける。ツバキの口の中は、苦みと旨味が支配していく。珈琲を久方ぶりに口にしてじっくり味わう。

「おいしいです。珈琲……久しぶりに飲みました」

 そうか、と嬉しそうな声色で返して続ける。

「何故、篤君がツバキちゃんに優しくするか……それは彼にとって君たちは命の恩人だからだよ」

 どこか遠い目をしながら水瀬は語り始めた。

「二年前と言えばツバキちゃんは何を思い出す?」

 水瀬の突然の問いにツバキはカップに入った珈琲を見て思い出した。

「水害」

「そう、二年前の七月二十六日。まぁ、海上都市である以上避けては通れない事だがあの日だけは違った。余りの波の高さに町が沈んだ。そして、救出のために機甲警察が任務に当たった。それに当然篤くんも参加していた。時間が経つにつれてニュースでカウントされる死者の数が一人、二人と増えていく。そんな中、彼は荒れた海の中で男の子を見つけた」

「男の子ですか? でも、あの日の荒れた海じゃぁ」

「そう、当然助けられるはずもない。助けに行ったところで二次被害が生まれるだけだ。でも彼は考えるよりも先に海に飛び込んだ」

「そんな無茶なことをしたんですか」

「彼はね……優しすぎるんだよ。誰かが困っていたら後先考えないで助ける。彼の中では自分の命より他人の命を優先するんだ。彼は間違っていることを知っている。それでも変えられなかった」

「それで男の子と篤さんはどうなったんですか?」

「彼は男の子を何とか助けたが、彼自身が危険な状態となった。でも彼を廃棄された機械人形が海に飛び込んで助けた。後日その機械人形アンドロイドが回収されて私の元へ来た。そして機械人形アンドロイドの記憶を見て私は今話したことを知った。それから助かった彼は機械人形アンドロイドをただの機械と思えなくなった。そのころから彼は考えなしに動くことがなくなった」

 話を終えた水瀬は珈琲を口に含んで深呼吸をした。

(私はこの話を聞いてよかったのだろうか? 彼の優しさの先にそんなことがあったなんて……)

 ツバキは微かな後悔を覚えた。
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