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第六機
お見舞い【ナヅナ】 7
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一番早く食べ終わったのはツバキだった。
ツバキは椅子から腰を上げて、背筋を伸ばして立つ。その姿は規律正しい軍人のようで少し堅苦しくもある。
「まだちゃんとした挨拶をした言葉ありませんでしたね。私は無所属で篤二等官とペアを組んでいるツバキです。これからよろしくね、ナヅナちゃん」
「はい。わたしは第七課所属翠間二等保官のペア、ナヅナです。こちらこそよろしくおねがいします」
早速二人は打ち解けたようで、食べ物の話をしている。
ツバキと違いナヅナを管理している翠間はナヅナの体が必要とするエネルギーを機械人形用のもので補っている。それはどれだけ見積もっても食べ物とは言えないもので、ナヅナにとって今口にしているケーキは贅沢品……データの産物でしかなかった。
「パンケーキっておいしいの?」
ナヅナの質問にツバキは答える。
「最近食べましたけど、ふわふわしていて、甘くておいしいです」
「アイスは?」
ツバキは三文字の言葉に誰が見てもわかるほど大きく反応した。
アイス――これはツバキにとって楽しい記憶とともに悲しい記憶を一挙に思い出させるもので、胸が苦しくなった。
最近謎の裏組織から離れて、篤達と過ごす中で少しずつ感情の起伏も落ち着きだしていた。それどころか笑顔を見せることが増えた。それでもヤヤに関係が深い話が持ち上がると、時折乱れてしまう。それを押さえつけようとすればする程反抗するように強くなる一方。
(約束……。冷たくて、甘いアイス。一緒に食べたかった……どうして、どうして……いなくなっちゃったの?)
突然虚脱状態になったツバキを見て篤が名前を呼びかけながら体を揺らして、外部からの刺激を与える。それに反応して内に潜っていた意識が外に向けられて、表情が落ち着く。
「どうしたんですか?」
「どうしたじゃない。それはこっちのセリフだ」
「ごめんなさい……少しぼーっとしてしまって」
篤はツバキを気にかけながらナヅナに訊く。
「今日は翠間来るのか? 今日の昼には復帰できるんだろ?」
「はい。森下さんのおかげで予定より早くふっきできます。翠間さんをあまり待たせることがなくてよかった。ナヅナがもっとじょうずに盾の役割を果たせていたら……翠間さんの理想のナヅナにはまだまでです」
「そんなことはない。ここに運び込まれてきたナヅナちゃんの体を見ればよく分かる。ナヅナちゃんは翠間に対して甘すぎる。すべて翠間の命令を聞けばいいわけじゃない。時には自らの意思で行動しないと駄目だ」
篤は少しの間を置いて最後に言った。
「そうでなければ、ただの人形だ」
篤は椅子から立ち上がって、病室を出ようとしたところで立ち止まった。
ツバキは椅子から腰を上げて、背筋を伸ばして立つ。その姿は規律正しい軍人のようで少し堅苦しくもある。
「まだちゃんとした挨拶をした言葉ありませんでしたね。私は無所属で篤二等官とペアを組んでいるツバキです。これからよろしくね、ナヅナちゃん」
「はい。わたしは第七課所属翠間二等保官のペア、ナヅナです。こちらこそよろしくおねがいします」
早速二人は打ち解けたようで、食べ物の話をしている。
ツバキと違いナヅナを管理している翠間はナヅナの体が必要とするエネルギーを機械人形用のもので補っている。それはどれだけ見積もっても食べ物とは言えないもので、ナヅナにとって今口にしているケーキは贅沢品……データの産物でしかなかった。
「パンケーキっておいしいの?」
ナヅナの質問にツバキは答える。
「最近食べましたけど、ふわふわしていて、甘くておいしいです」
「アイスは?」
ツバキは三文字の言葉に誰が見てもわかるほど大きく反応した。
アイス――これはツバキにとって楽しい記憶とともに悲しい記憶を一挙に思い出させるもので、胸が苦しくなった。
最近謎の裏組織から離れて、篤達と過ごす中で少しずつ感情の起伏も落ち着きだしていた。それどころか笑顔を見せることが増えた。それでもヤヤに関係が深い話が持ち上がると、時折乱れてしまう。それを押さえつけようとすればする程反抗するように強くなる一方。
(約束……。冷たくて、甘いアイス。一緒に食べたかった……どうして、どうして……いなくなっちゃったの?)
突然虚脱状態になったツバキを見て篤が名前を呼びかけながら体を揺らして、外部からの刺激を与える。それに反応して内に潜っていた意識が外に向けられて、表情が落ち着く。
「どうしたんですか?」
「どうしたじゃない。それはこっちのセリフだ」
「ごめんなさい……少しぼーっとしてしまって」
篤はツバキを気にかけながらナヅナに訊く。
「今日は翠間来るのか? 今日の昼には復帰できるんだろ?」
「はい。森下さんのおかげで予定より早くふっきできます。翠間さんをあまり待たせることがなくてよかった。ナヅナがもっとじょうずに盾の役割を果たせていたら……翠間さんの理想のナヅナにはまだまでです」
「そんなことはない。ここに運び込まれてきたナヅナちゃんの体を見ればよく分かる。ナヅナちゃんは翠間に対して甘すぎる。すべて翠間の命令を聞けばいいわけじゃない。時には自らの意思で行動しないと駄目だ」
篤は少しの間を置いて最後に言った。
「そうでなければ、ただの人形だ」
篤は椅子から立ち上がって、病室を出ようとしたところで立ち止まった。
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