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第七機
時間稼ぎ 【篤・ツバキ】 9
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突然重力を感じた。自由落下。目は機能を失っていて見ることができないがナヅナは落下を感じた。そして落ち行く体を誰かに支えられた。
優しく包み込むように受け止めた腕は翠間のものではないと理解した。何より腕に触れる柔らかな女性特有のもの。そしてこのタイミングでの登場にナヅナはやっと来たと安心した。
「遅くなってごめんなさい。ナヅナちゃんしっかりして、篤さんと助けに来たよ」
ナヅナを救い出したのはツバキだった。自分に刺さるランスが動かないようにと必死に抑えていた部分は回転し始めて、ナヅナの手と削りあって細くなり、その部分だけがもろくなった。
それを見つけたツバキは跳躍からの踵落として折ったのだ。
「――み――ま――――いじ――ぶ?」
壊れた声で懸命にツバキに伝えようとする。すべてを理解することはできなかったが思いだけはシッカリと受け取った。
「翠間さんには篤さんがついているから大丈夫。今から安全な場所に移動するから少し揺れるけどごめんね」
ランスを折られたというのに全く動く気配のないロボットに背を向けながらも注意しつつ最小限の揺れに抑えながら移動しる。
篤は倒れている翠間を起こした。
「無事か?」
「お前か……来るならもっと早く来い」
痛みを堪えながらいつものように悪態をつく。それを聞いて篤は安堵のため息をつく。
遠くから翠間の行動の一部始終を見ていた篤は翠間の意外な行動と言動にいざというときに同じ行動がとれたらと尊敬の眼差しを向ける。
「何だ……その目、気持ち悪いからこっちに向けるな」
「いや、嬉しくてな。遅くなって悪い。ナヅナちゃんは何とか無事だけど危険な状態であるのは確かだ。ヘリで水瀬さんと医師がこっちに向かっている。ツバキと一緒にナヅナちゃんの応急処置をして欲しい。俺はそっちの知識は無い。でも翠間は知識があると聞いた」
「けが人の俺に無茶を言いやがる。それ以上に無茶なのがあの兵器を一人で止めようとするお前だ。見たところ、他に仲間はいないんだろ」
体を起こすのを手伝おうとする篤にいいと手で合図して、自らの力だけで立ち上がる。
「倒すとまでは思ってない。時間を稼ぐだけだ。それにしても何故あれは動かない?」
ロボットの方に体の向きを変えて、翠間に一番の疑問を問う。こうして二人が会話をしている間も微動だにせず、最初からそこに存在するモニュメントのように居座っている。ツバキの攻撃に対して迎撃をしないのはあまりにもおかしい。
「あいつはどこか損傷をする度にああやって、突然停止する。時間が経つと形状を変えて攻撃してくる。ッ……よ、よくはわからないが敵の戦闘スタイルに順応していくらしい。ちょっと前までは、四足歩行をしていたやつが今はタイヤで動きやがる。もう少しすればあいつまた動き出すぞ。さっきよりも強くなってな。そんなやつ相手に時間稼ぎを一人でするなんてただの馬鹿としか思えない」
喋るのに熱が入りすぎて、ケガに響いて肋骨のあたりを押さえる。
「なら、翠間も馬鹿の一人だ」
翠間はあっけりとられる。
「今さっきまで時間稼ぎをしていたんだ。なら翠間も馬鹿の一人だろ?」
「俺は一人で時間稼ぎをしていたわけじゃない。二十もいたペアが数十分で全滅だぞ! 俺が馬鹿ならお前はイカれ野郎だ」
ヘリの音が耳に届いて――
(水瀬さん、何とかヘリを用意できたのか……よかった)
「翠間さん、ナヅナちゃんが危険な状態なんです。手伝っていただけませんか?」
ツバキはここへ到着する直前の翠間の叫び声で、引き受けてくれると確信していた。
「あぁ、それは構わない。本当にお前人でやるのか?」
「ツバキの力は確かに借りたい。でも――」
篤はツバキに視線を向けて問う。
「ツバキがいないと、ナヅナちゃんは助からないんだろ?」
「はい……」
申し訳なさそうに俯きながら答える。
「なら答えは簡単だ。一人でやる。それしかない。それに何より、逃げるって選択肢はない。ここで逃げれば、どれだけの死人が出るかわからない。時間を稼ぐにしても決着をつけるにしてもここしかない」
篤はまだ動かないロボットの方へと歩みを進める。
「ツバキ……ナヅナちゃんをよろしく。それと、お互いあまり無茶をしない。以上だ」
「はい!」
ツバキと翠間は③とペイントされた倉庫へと向かった。
静かな空気間の中にヘリのプロペラが空を切る音と海上都市に打ち付ける波の音だけがする。海がすぐそばにあるために海水の独特な匂いと硝煙の匂いが鼻を刺激する。
下には大量の空薬莢が散らばっていて、戦闘の激しさを感じ取れる。
篤はロボットに対して現状恐怖心なの微塵も感じていない。ただ、悩んでいた。迷っていた。
(力を使わないと、時間稼ぎどころか死んでしまう。最後に自分の意志で力を使ったのはいつだっただろうか? 月下の日か)
左腕を見て、ゆっくりと拳を作る。正常に動く腕。しかし篤にとっての正常とは力を除いたもので、篤からすると正常とは言えない。
優しく包み込むように受け止めた腕は翠間のものではないと理解した。何より腕に触れる柔らかな女性特有のもの。そしてこのタイミングでの登場にナヅナはやっと来たと安心した。
「遅くなってごめんなさい。ナヅナちゃんしっかりして、篤さんと助けに来たよ」
ナヅナを救い出したのはツバキだった。自分に刺さるランスが動かないようにと必死に抑えていた部分は回転し始めて、ナヅナの手と削りあって細くなり、その部分だけがもろくなった。
それを見つけたツバキは跳躍からの踵落として折ったのだ。
「――み――ま――――いじ――ぶ?」
壊れた声で懸命にツバキに伝えようとする。すべてを理解することはできなかったが思いだけはシッカリと受け取った。
「翠間さんには篤さんがついているから大丈夫。今から安全な場所に移動するから少し揺れるけどごめんね」
ランスを折られたというのに全く動く気配のないロボットに背を向けながらも注意しつつ最小限の揺れに抑えながら移動しる。
篤は倒れている翠間を起こした。
「無事か?」
「お前か……来るならもっと早く来い」
痛みを堪えながらいつものように悪態をつく。それを聞いて篤は安堵のため息をつく。
遠くから翠間の行動の一部始終を見ていた篤は翠間の意外な行動と言動にいざというときに同じ行動がとれたらと尊敬の眼差しを向ける。
「何だ……その目、気持ち悪いからこっちに向けるな」
「いや、嬉しくてな。遅くなって悪い。ナヅナちゃんは何とか無事だけど危険な状態であるのは確かだ。ヘリで水瀬さんと医師がこっちに向かっている。ツバキと一緒にナヅナちゃんの応急処置をして欲しい。俺はそっちの知識は無い。でも翠間は知識があると聞いた」
「けが人の俺に無茶を言いやがる。それ以上に無茶なのがあの兵器を一人で止めようとするお前だ。見たところ、他に仲間はいないんだろ」
体を起こすのを手伝おうとする篤にいいと手で合図して、自らの力だけで立ち上がる。
「倒すとまでは思ってない。時間を稼ぐだけだ。それにしても何故あれは動かない?」
ロボットの方に体の向きを変えて、翠間に一番の疑問を問う。こうして二人が会話をしている間も微動だにせず、最初からそこに存在するモニュメントのように居座っている。ツバキの攻撃に対して迎撃をしないのはあまりにもおかしい。
「あいつはどこか損傷をする度にああやって、突然停止する。時間が経つと形状を変えて攻撃してくる。ッ……よ、よくはわからないが敵の戦闘スタイルに順応していくらしい。ちょっと前までは、四足歩行をしていたやつが今はタイヤで動きやがる。もう少しすればあいつまた動き出すぞ。さっきよりも強くなってな。そんなやつ相手に時間稼ぎを一人でするなんてただの馬鹿としか思えない」
喋るのに熱が入りすぎて、ケガに響いて肋骨のあたりを押さえる。
「なら、翠間も馬鹿の一人だ」
翠間はあっけりとられる。
「今さっきまで時間稼ぎをしていたんだ。なら翠間も馬鹿の一人だろ?」
「俺は一人で時間稼ぎをしていたわけじゃない。二十もいたペアが数十分で全滅だぞ! 俺が馬鹿ならお前はイカれ野郎だ」
ヘリの音が耳に届いて――
(水瀬さん、何とかヘリを用意できたのか……よかった)
「翠間さん、ナヅナちゃんが危険な状態なんです。手伝っていただけませんか?」
ツバキはここへ到着する直前の翠間の叫び声で、引き受けてくれると確信していた。
「あぁ、それは構わない。本当にお前人でやるのか?」
「ツバキの力は確かに借りたい。でも――」
篤はツバキに視線を向けて問う。
「ツバキがいないと、ナヅナちゃんは助からないんだろ?」
「はい……」
申し訳なさそうに俯きながら答える。
「なら答えは簡単だ。一人でやる。それしかない。それに何より、逃げるって選択肢はない。ここで逃げれば、どれだけの死人が出るかわからない。時間を稼ぐにしても決着をつけるにしてもここしかない」
篤はまだ動かないロボットの方へと歩みを進める。
「ツバキ……ナヅナちゃんをよろしく。それと、お互いあまり無茶をしない。以上だ」
「はい!」
ツバキと翠間は③とペイントされた倉庫へと向かった。
静かな空気間の中にヘリのプロペラが空を切る音と海上都市に打ち付ける波の音だけがする。海がすぐそばにあるために海水の独特な匂いと硝煙の匂いが鼻を刺激する。
下には大量の空薬莢が散らばっていて、戦闘の激しさを感じ取れる。
篤はロボットに対して現状恐怖心なの微塵も感じていない。ただ、悩んでいた。迷っていた。
(力を使わないと、時間稼ぎどころか死んでしまう。最後に自分の意志で力を使ったのはいつだっただろうか? 月下の日か)
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