輪廻転生∞俺の未来は英雄とのことなので異世界に召喚される!?

ケニーさん

文字の大きさ
5 / 9
一章 (日常)

しおりを挟む
 開店時刻まであと二十分となって、本日のおすすめを黒板にチョークで文字とイラストをかいていく。

「ほんとにいつもありがとうね。私絵が下手だから……言葉だけで全てを伝えるのは難しいからね。たける君が絵をかいてくれてからお客さんが増えたし」

「それはきっかけだけですよ。美代子さんの入れてくれるコーヒーや料理がおいしいからまた来てくれるんです。俺もこの店は好きですし、あと美代子さんの人柄ですかねやっぱり」

「たける君は女性を褒めるのが上手ね。なんだか照れちゃう」

 黒板にかき終えて、お店の外へ置くために扉を開けるとすでにお客さんが待っていた。

「おはようございます。一段と寒くなりましたね」

 常連の四十代前半のサラリーマン。近くの会社で働いているとのことで俺が働く前から通っているそうだ。

「そうだね。今日のおすすめは何かな?」

「コーヒにサッパリソースの海老カツサンドイッチのセットです」

 黒板を見せながら伝える。

「それはいいねー」

 黒板を見ながら言うと体を震わせた。
 流石に開店時間まで外で待っていてもらうのは――後十分もあるし。

「外は寒いですし、入ってもらっていいか店主に確認してみますね」

「わるいね」

「いいえ」

 黒板をイーゼル型ディスプレイスタンドに立てかけて、店内に入る。

「美代子さん。お客さんがもう来ているんですけど、寒いですし開店してもいいですか?」

「はい、お願いします」

 お店はこうして十分ほど早く開店。

「いらっしゃいませ。お好きな席にどうぞ」

 午前中はそれほど忙しくはない。このお店で最も忙しいのは正午の前後一時間、二時間だ。初めて働いたときは呼吸するのを忘れてしまう程だった。
 忙しくなる理由の大きな要因はオフィス街だと言うのに周りに一切飲食店がないことにある。あるとすればコンビニが数件。毎日コンビニ弁当では飽きてしまうし、何よりコンビニ弁当なんかよりもこのお店の方が断然おいしい。
 午前中のピークを越えて、ゆったりとした時間が流れ始める。この時間がこのお店で働く者たちの少しばかり早い昼食となる。

「今日は俺の担当でしたね」

「何を作ってくれるのかな?」

 給食を待つ小学生のような眼をこっちに向けてくる美代子さん――グッジョブ‼
 そんな美代子さんに何を作るかだけど……

 _【本日のメニュー】_ 
|・ガーリックバケット |
|・お手軽グラタン   |
|・シーッザーサラダ  |
|・トマトスープ    |
|・アップルパイ    |
  ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 実はある程度下準備はしてあるので、たいして時間はかからない。
 料理を作っている間、美代子さんは俺の料理姿を見ながらコーヒーを飲んでいた。
 これはいつものことで、美代子さんが料理をしているときは俺が美代子さんを見ながらコーヒーを飲んでいる。
 決して美代子さんだけを見ているわけではない。料理の腕を盗むために見ているのであって、そのような邪なことは一切ありま……ありま……少しばかりはあります。
 これは仕方のないことだ。魅力的な美代子さんを前に平然としていられる人間がいたらその顔を見てみたいくらいだ。
 そう言えば……

「美代子さん前に夢には意味があるって言っていましたよね。それって、本当なんですか?」

「絶対ではないけれどそうだね……。前には話さなかったけれど、夢とは未来余地のようなものなんだよ」

「未来予知ですか?」

「そう。漫画とかで未来視の力を持ったキャラクターとかいるでしょ。そういったものと同じなの。未来視ていうのは一種の情報処理から導き出された可能性でそれと似たようなことを人は常にしているの」

 まるで教師と生徒になった気分だ。悪くない。

「それが夢ってことですね。なら、あの夢は……」

 いったいどんな意味が? 荒野とか全くいい未来ではない気がする。

「あの夢?」

 美代子さんが興味津々のようで、身を乗り出している。本当にかわいい人ですね。一体実年齢は何歳なのだろうか? まぁそんなことどうでもいいや。

「変な夢で、見知らぬ男が荒野の中で大きな石に腰を下ろしてる姿を後ろから俺が見ている夢なんですけど……どんな意味があるんですかね?」

「そうですね……石は強さを表すものなので、それに座っていた男の人は強い人間ということですね。荒野とは具体的にどんな状態なの?」

「砂漠ですね。あと壊れたビルがいくつかありました」

「砂漠は絶望的な状況を表すもので、孤独、不安、逃げられないとかかな」

 よくないことがずらりと並べられて心が痛い。俺の未来はお先真っ暗度というのか……誰か救いの手を。

「用心したほうがいいかもね。でも……その男の人って誰なのかな?」

「強いといえば……その男、戦闘系アニメのキャラクターが来ているような服装だったような。まぁたぶん、夢の中で中二病を拗らせただけかもしれませんね。――お待たせしました。お昼にしましょう」

 お昼を二人で食べて、片付けが終わるころにはまたお腹を空かせたお客さんがやってくる。
 最も忙しい時間。でも、この時間は嫌いではない。
 最も忙しい時間を乗り越えた後、のんびりと仕事をこなしていく。
 時刻が十七時を迎えた。

「今日もありがとうね。それと明日もよろしく」

「はい。また明日」

 私服に着替えて外へ出ると雪が降っていて、一面雪景色。息を吐く度に白くなる。
 確か人の体温であたためられた空気が息として吐き出されて冷たい外気にふれて、水蒸気が急激に冷やされることで目視できる程の水の粒になったのが白い息の招待だったけ?
 寒い。マフラーとか手袋を持ってくるべきだった。

「寒いと思ったら雪が降っていたの」

 後ろからひょっこり顔を出して外を見る美代子さん。

「ごめんなさい。開けっ放しにしてしまって」

「いいのよ。その恰好じゃ寒くない? 防寒具は?」

「寒いです。今ちょうど後悔していたところです」

「ちょっと待っててね」

 そういって店の奥へと姿を消した美代子さん。待つこと数分。

「ごめんね。はい、これ!」

 美代子さんに手渡されたのはマフラーと手袋。どちらとも真新しい。

「これは?」

「だいぶ早いけど私からのクリスマスプレゼント。手作りだからデザイン気に入ってくれるといいけど……」

「ありがとうございます。すごくうれしいです」

「よかった」

 心の底から喜んでいる美代子さん。早速マフラーと手袋を身に着ける。暖かい。

「手袋きつくない?」

「いいえ。ぴったりです。それに暖かいです」

「それとこれ、妹さんに」

 巾着袋のようなもの。

「これは何に使うものですか?」

「妹さんは陸上競技やっているんでしょ。だからシューズ袋にと思って、どうかな?」

「妹も喜ぶと思います。それにしても器用ですね。市販品のものかと思いましたよ」

「ほんとうに褒め上手なんだから……それじゃぁね」

「はい。これ、ありがとうございます。大切に使いますね」

 街は白。別の世界にいるような感じがする。
 何となく空の写真を撮りたくなって、スマホを取り出してパシャリ。
 レンズの部分に雪が下りた為にぼやけた写真。
 おやおや、馬のデザインが刻み込まれたジッポライターを見つけてしまった。きっと誰かの落とし物だろう。小さい子が触ったりしては危ないし、交番へ。

『――――英雄よ――』

 ? 何か遠くから声が……。

『――我がもとに、我が力に……』

 ? いったいどこから?
 取り敢えずライターを拾う。

『――我が血と死後の安らぎをにえに』

 ? 女の子の声。死後の安らぎ? 何て儀式めいた言葉。

『――流れ行く時の輪に刻まれる。めぐるめぐるめぐる

 何だか目眩が……。

『――我はいる。夢の中で彷徨う想いを手に……叶えたまえ!!』

 見える世界が……歪む。
 あれ? 疲れているのかな? 変な夢も見たし――

『お願い……助けて』

 俺は雪の上に倒れた。
 冷たい。
 寒い。
 眠い。
 お休みなさい。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

転生したら名家の次男になりましたが、俺は汚点らしいです

NEXTブレイブ
ファンタジー
ただの人間、野上良は名家であるグリモワール家の次男に転生したが、その次男には名家の人間でありながら、汚点であるが、兄、姉、母からは愛されていたが、父親からは嫌われていた

少し冷めた村人少年の冒険記

mizuno sei
ファンタジー
 辺境の村に生まれた少年トーマ。実は日本でシステムエンジニアとして働き、過労死した三十前の男の生まれ変わりだった。  トーマの家は貧しい農家で、神から授かった能力も、村の人たちからは「はずれギフト」とさげすまれるわけの分からないものだった。  優しい家族のために、自分の食い扶持を減らそうと家を出る決心をしたトーマは、唯一無二の相棒、「心の声」である〈ナビ〉とともに、未知の世界へと旅立つのであった。

つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました

蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈ 絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。 絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!! 聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ! ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!! +++++ ・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)

オバちゃんだからこそ ~45歳の異世界珍道中~

鉄 主水
ファンタジー
子育ても一段落した40過ぎの訳あり主婦、里子。 そんなオバちゃん主人公が、突然……異世界へ――。 そこで里子を待ち構えていたのは……今まで見たことのない奇抜な珍獣であった。  「何がどうして、なぜこうなった! でも……せっかくの異世界だ! 思いっ切り楽しんじゃうぞ!」 オバちゃんパワーとオタクパワーを武器に、オバちゃんは我が道を行く! ラブはないけど……笑いあり、涙ありの異世界ドタバタ珍道中。 いざ……はじまり、はじまり……。 ※この作品は、エブリスタ様、小説家になろう様でも投稿しています。

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜

一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m ✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。 【あらすじ】 神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!   そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!  事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます! カクヨム(吉野 ひな)にて、先行投稿しています。

捨て子の僕が公爵家の跡取り⁉~喋る聖剣とモフモフに助けられて波乱の人生を生きてます~

伽羅
ファンタジー
 物心がついた頃から孤児院で育った僕は高熱を出して寝込んだ後で自分が転生者だと思い出した。そして10歳の時に孤児院で火事に遭遇する。もう駄目だ! と思った時に助けてくれたのは、不思議な聖剣だった。その聖剣が言うにはどうやら僕は公爵家の跡取りらしい。孤児院を逃げ出した僕は聖剣とモフモフに助けられながら生家を目指す。

神様の忘れ物

mizuno sei
ファンタジー
 仕事中に急死した三十二歳の独身OLが、前世の記憶を持ったまま異世界に転生した。  わりとお気楽で、ポジティブな主人公が、異世界で懸命に生きる中で巻き起こされる、笑いあり、涙あり(?)の珍騒動記。

処理中です...