吸血鬼を愛してしまった女剣士

守 秀斗

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第4話:お使いで村道を歩く

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 翌朝。

 気が付くと、午前十時。
 私は裸のままアラン様の寝室のベッドで眠っていた。

 私は焦って、ベッドを出てメイド服を着る。
 アラン様はすでに寝室にいない。

 ここの吸血鬼たちは、基本的に深夜に活動とかはしない。
 人間と同じような生活だ。

 太陽光線を浴びても全然大丈夫。
 そもそも、吸血鬼って太陽の光を浴びても別に平気らしい。
 主に昼間に活動している。

 私はアラン様の執務室の前に立った。
 ノックをする。

 扉が開く。
 目の前には執事のブレソール様が立っていた。

「何の用かね」
「あの、アラン様にご挨拶と、その寝坊したのでお詫びに参りました」

 すると、部屋の奥の豪華な机に座っているアラン様が私に声をかける。

「おはよう、フランソワーズ」
「おはようございます、アラン様」
「別に寝坊したことは気にしないでいいよ、責任は私にあるからね」

 笑ってくれるアラン様。
 やはり、やさしいお方だ。

「そういうことだ、フランソワーズ。さっさと持ち場に行きなさい」
「はい、わかりました……」

 執事のブレソール様も私を汚い物のように見る。
 私は吸血鬼たちから嫌われている。

 娼婦扱いで淫らな女と思われているのだろう。
 実際、ベッドの上では激しく乱れているけど。

 もう少し、アラン様とお話がしたかったが、仕方がない。
 私は引き下がった。

 私は急いで、メイド長のカミーユ様の部屋に行った。

「申し訳ありません。あの、寝坊いたしまして……」

 カミーユ様がじろっと私を見る。
 この方も私を嫌っている。

「まあ、あんたは国王陛下のお気に入りだから仕方がないわね」
「……すみません……」

「もう清掃は終わったから、他の用事を頼みたいんだけど」
「はい、何でしょうか」

「平民街に行って、塗装用の塗料を買って来てほしいの。色は黒ね」
「あの、何に使用するのでしょうか」

「国王様の馬車が何かに当たって、表面がはげているのよ。そこでとりあえず黒い塗料を塗ろうってことにしたの」
「新しい馬車を購入とかはしないんですか」
「国王様から税金の無駄遣いはやめろって言われているのよ」

 真面目な王様だと私は思った。
 税金使い放題で、国民は貧しい生活をしているのをほっておいて、贅沢三昧の日々を贈っている人間の国の王様はいくらでもいるのに。

「わかりました。では、行ってまいります」

 私は城を出て、吸血鬼の平民街に向かう。
 この吸血鬼に支配された国は治安が良い。
 平民の吸血鬼たちも、人間たちも平和に暮らしている。

 ただ、それでも、ごくたまに追いはぎなどが現れることもある。
 そのため、私も、一応護身用に銀製のナイフを所持している。
 私の出身地、ウロホリー王国から持ってきたものだ。

 しかし、今までこの国で武器を使ったことはない。
 アラン様暗殺作戦の時以外は。

 私の頭にまたあの時の仲間クロードの絶叫が響いてきた。

「助けてくれ! フランソワーズ!」

 あの時、吊り橋から落ちそうな彼を引っ張りあげることは確実に出来たはず。
 しかし、卑怯者の私は逃げた。

 そして、後ろを少し振り向いた。
 吊り橋から絶叫をあげて落ちていくクロード。
 忘れようとしても忘れられない。

 一生背負っていくんだろうなあと私はまた憂鬱になった。

 村道を歩く。
 のどかな風景だ。

 ここら辺は平民階級の吸血鬼が農場を経営している。
 本来、吸血鬼に必要な人間の血液の代わりになる果物を栽培している。

 そのおかげでここの吸血鬼は人間を襲うことはない。
 では、なぜ私が元住んでいた人間が支配するウロホリー王国のペラシ国王は、アラン様暗殺を企てたのか。

 私は人間を襲う吸血鬼退治と思っていたのだが。
 トランシルヴァニア王国で人間たちが酷い目に遭っていると教えられていた。

 しかし、ペラシ国王は、どうやらアラン様の国の領土が欲しかっただけようだ。
 私たち暗殺部隊はペラシ国王の野望に利用されただけだった。

 そのことを知ったとき、私はすっかり落ち込んでしまった。
 王様に騙されたあげく、仲間のクロードを見殺しにしてしまった。

 私は人間の国に戻るつもりはない。
 一生、この吸血鬼が支配する国で過ごすつもりだ。

 そして、出来れば、アラン様の側にずっといたい。
 もちろん、アラン様も私を相手にしてくれるのは若い時だけだろう。

 それでもいい。
 相手にしてくれなくても、ただ、側にいるだけでいい。

 アラン様を愛してしまった。
 アラン様の顔を遠くから見るだけでいい。
 城の使用人として一生過ごしたいのだけど。

 今度、頼んでみるつもりだ。
 けど、聞いてくれるかなあ……。

 アラン様が言うには、二十代を過ぎたら、私の特異体質の効果がなくなるようだ。
 そしたら、私は人間が住んでいる村へと移らなければいけない。

 不自由な生活はさせないとアラン様は約束してくれた。
 真面目なアラン様の言うことなので、信じていいだろう。

 そんなことを考えながら村道を歩いていると、後ろから声をかけられた。
 アラン様の弟のポール様だった。

「よお、フランソワーズ」
「こんにちは、ポール様」

 いつも飄々した感じでヘラヘラと笑っているポール様。
 貴族なのに、今日も村人みたいな格好をしている。

「フランソワーズはどこへ行くんだい」
「あの、平民街に塗料を買いに行くんです」
「なんで塗料が必要なんだ」

 私は事情を話した。

「兄貴もケチくさいね。馬車なんて新しくすればいいのに。今の馬車、だいぶ古いぞ。いつ車輪の軸が折れるかどうかって感じだぞ」
「税金の無駄遣いは出来ないって言っておられるそうです」
「ケチケチばっかしてると、経済は発展しないぞ。まあ、俺、国王じゃないからいいけどさ」

 ポール様は普段は、吸血鬼城の防衛の設備管理などをまかされている。
 けど、名目上みたい。
 ほとんど遊んでいるとこしか見たことがない。

「ところで、ポール様はどちらに行かれるんですか」
「君と同じ、平民街さ。嫁さんに頼まれて、趣味の刺繍用の糸を買って来いって言われてね」

「あの、刺繍用の糸を買いに行くなんて、私たち使用人にまかせればいいのではないでしょうか」
「いや、要するに暇つぶしさ。何せ仕事は全て優秀な兄貴がやっちまうんだから、俺は暇でしょうがないんだよ」

 そんなわけで、私はポール様と一緒に吸血鬼の平民街へ行くことになった。
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