吸血鬼を愛してしまった女剣士

守 秀斗

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第13話:人間が治める国モラヴィア王国から贈られた水まきの機械

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 次の日。
 私はメイド長のカミーユ様に中庭に来るよう言われた。

 何の用だろうと中庭に行くと、カミーユ様の他に、ポール様と執事のブレソール様がいた。

 ポール様のお顔を見て、また思い出してしまった。
 昨夜、全裸でオナニーをしているところを見られてしまったこと。
 恥ずかしくて、情けなくて。

 私は、つい、頬を赤く染めて、うつむいてしまった。
 ああ、いまだに恥ずかしい。

 一生、恥ずかしいのかなあ。
 すると、ポール様が近寄って来て、私の肩をバシッと叩く。

「おい、もう気にすんなよ、フランソワーズ。あんなこと誰でもやってるって、やらない奴はそれこそ変態だよ」
「は、はい……申し訳ありません……」

 するとメイド長のカミーユ様がポール様に聞いている。

「フランソワーズに何か重大な落ち度でもあったのですか、ポール様。国王陛下に報告する必要はありますか」
「い、いや、何でもないよ、兄貴に報告なんてする必要ない。たいしたことじゃないよ。俺も今、忘れたぞ、あはは」

 ああ、たいしたことじゃないと思いたいけど、やっぱり恥ずかしい。
 鏡の前で全裸でオナニー、情けない。

 さて、中庭には長方形の大きい茶色の四角い箱が置いてある。
 下には車が付いていて、わりと簡単に移動させることができるようだ。
 私はポール様に聞いた。

「あの、これは何でしょうか」
「これはなあ、人間の国モラヴィア王国から、友好の証として贈られてきたもんなんだ。モラヴィア王国は例の兄貴暗殺未遂事件を起こしたウロホリー王国と仲が悪いんだ。だから、もしかしたら俺たちの国にウロホリー王国を牽制してもらいたいかもしれないな。それで、この機械なんだけど、水がいっぱい出て、花壇の花に水をやることができるみたいだな。後、火で沸騰させて霧を出すことが出来るようだ、水蒸気だね。その霧も冷たくしたり温かくしたりできるようだ」

「霧を出して、どうするんですか」
「室内で使用すれば冬場の乾燥を防ぐことが出来るそうだ。まあ、今は夏だから関係ないけど」

「それで、あの、私はなぜ呼ばれたんでしょうか」
「うーん、俺は君にはやらせたくはなかったんだがなあ。兄貴に怒られちゃうよ」
「どういうことでしょうか」

「贈り物とか言っても、結局、モラヴィア王国も人間たちが治める国だからなあ。人間たちがこの機械で俺たち吸血鬼に何か攻撃を仕掛けるんじゃないかと思ってなあ。いきなり銀の矢が大量に発射されるとかさあ。それで、かなり内部の構造を調べたんだけど、特に怪しい点はなかったよ。ただ、念には念を入れようってことで、この吸血鬼城で人間は君だけなんでなあ。ブレソールが、フランソワーズにこの機械を操作させてみようって言い出してさ」

 すると、ブレソール様がポール様に言った。

「この機械で何か、吸血鬼だけにしか効果が無い攻撃を仕掛けてくる可能性があると私は思ったんです。この城で人間はこのメイドだけです。だから、この女に操作させて、我々は離れて様子を見れば、この機械に問題があるかないかわかるかと思ったわけです」
「まあ、そうだけどさあ、でも、やめようかなあ、フランソワーズに何かあったら兄貴にぶん殴られて、この吸血鬼城からはるか彼方までふっ飛ばされそうだよ」

 そこへ、カミーユ様がポール様に文句を言った。

「ポール様、フランソワーズはあくまでメイド、使用人ですよ。あんまりひいきすると他の使用人が不愉快な気分になるのですが」
「あはは、まあまあ、怒んないでよ、カミーユ」

 ヘラヘラしながら、ポール様はカミーユ様をいなしている。そして、執事のブレソール様は私を相変わらず汚い物を見るような顔をしている。やっぱり嫌われているんだなあと私は憂鬱になった。確かに、執事が国王陛下を暗殺に来た女を許すわけがない。この機械を操作して、何か仕掛けがあってそれが作動して、私が死ねばいいとか思っているかもしれない。

 私はポール様に申し出た。

「あの、私、別にかまいませんが。と言うか、私は使用人なので是非やらせてください」
「そうか、じゃあ、頼むよ、フランソワーズ」

 ポール様たちが離れて、私一人だけで花壇の前に置いてあるその装置を動かしてみた。ハンドルがついていて、箱の先端にホースのようなものが付いている。回してみると、けっこう広い範囲で水をまくことが出来る。次に下部の箱で木材を燃やしてみると、箱の上部の格子状の隙間から霧のようなものがたくさん出てきた。それもかなりの範囲の中庭全体にあっという間に広がった。

「ポール様、特に異常はないように思えますが」

 ポール様たちが近づいてきた。

「ふーむ、やはり単なる水まきの機械かな。それにこの霧ってけっこう気分がいいね、この暑さだと。冬の乾燥用じゃなくて、夏にも使えそうだなあ」

 ブレソール様がポール様に聞いている。

「では、とりあえずこのモラヴィア王国からの機械は花壇の水まき用と言うことでこの中庭に置いておくということでよろしいでしょうか」
「いいんじゃないの。じゃあ、フランソワーズ、ありがとね」

 また、ヘラヘラしながら飄々と中庭を出て行くポール様。ブレソール様も私をにらみつけながら城の中へ入っていく。そして、カミーユ様からは嫌味を言われた。

「この機械があれば花壇への水まきも楽になるわね。あなたも、また国王陛下をたぶらかす、はしたないことを考える暇ができてよかったわね」
「す、すみません……」

 こう嫌味を言われたり、憎しみのまなざしで見られたりすると私は疲れてしまう。
 ああ、早く、アラン様に戻ってきてほしい。
 そして、私を抱いてほしい……愛してほしい……。

 夕方。
 私は仕事も終わり、自分の部屋に戻った。
 一人寂しく、食事を取る。

 そして、机の上の薔薇を眺める。
 もう、頭の中はアラン様のことばかり。

 机の引き出しからタバコケースを取り出す。
 いつ、渡そうかなあ。

 そもそも受け取ってくれるかどうかもわからないけど。
 鏡をくれたお礼ってことで渡そうかなあ。

 そして、私の頭の中ではアラン様との夜の行為が思い出されてくる。
 あそこが熱くなる。

 どうしよう、あそこが疼く。またオナニーしたくなった。ああん、我慢できない。スカートをめくってあそこに手がいってしまう。ああ、だめ、だめよ、こんなはしたないことをしてはいけないわ。そう思いながらもあそこをまさぐろうとする私、ああ、アラン様、早く、私を抱いてほしい。

 私は我慢できなくなり、裸になって、ベッドに潜り込む。
 そして、激しく胸を揉みしだき、あそこを擦り始めた。

(ああ、アラン様、アラン様、私を愛してほしい、私の身も心もアラン様のもの、私の全てを捧げます、ああ、私を犯して、征服して、支配して、あそこに精液を注ぎ込んで、そして、快感で全てを忘れさせてえ!)

「あ、あああ、い、いく、いくううう!!!」

 身体を震わせて、絶頂へ達する私。

 そして、その後の空しさと妙な罪悪感。
 後、情けない気分にもなった。

 私って、淫らでいやらしい女だなあ。
 元々、そういう女だったのかしら。
 ぼんやりと薄汚れた天井を見る私。
 
 そして、また、頭の中はアラン様のことでいっぱいになってきた。
 アラン様に抱かれたい、愛されたい。

 ああん、アラン様、早く戻って来てえ。
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