ドラゴンキラーと呼ばれた女/プルムの恋と大冒険

守 秀斗

文字の大きさ
33 / 82

第33話:狼男退治

しおりを挟む
 ひえ、オガストの奴、もう来たのか! 
 すっかり怯えるあたし。

 警備隊庁舎に残っているのは、あたしの分隊の六人とジェラルド小隊長、あとはルチオ教授、カルロさん、アナスタシアさんの計十名しかいない。
 みんなも一階に降りてきた。

 電話で応援を呼ぼうとしたが繋がらん。

「電話線を切られたんじゃねーすか」

 ロベルトがヘラヘラしている。
 ヘラヘラすんなよ、チャラ男!
 狙われてんのは、あたしだぞ!

 あたしは焦って、ルチオ教授に聞いた。
 
「教授、今日は新月だから狼男は出ないんですよね」
「そうじゃなあ」

 例によってのんびりと葉巻を吸ってる教授。
 正面玄関近くから、教授と一緒に外を見る。

 しかし、メガホンを持ってるオガストの後ろに大勢の人影が、十五人くらいいるぞ。
 よく見ると皆、顔面に毛が生えていて、顔が犬みたいに変形している。
 狼男じゃん。

 建物から逃げようかと思ってたけど、捕まって八つ裂きにされたくない。
 怯えるあたし。

「どうなってんですか、狼男じゃないですか!」
「ふーむ、これは興味深い現象じゃのう、面白い」

 爺さん、あたしの命がかかっているのに、面白がってる。
 もう、頼りにならん!

 涙目でジェラルド小隊長に相談する。

「ジェラルド小隊長殿、どうすればいいんですか」
「この建物は窓がいっぱいあるから、どこから狼男が入り込んでくるか分からないし、一つの部屋に立てこもると逃げられなくなる可能性がありますね。全ての部屋の入口の鉄扉を閉めて、廊下で応戦しましょう。正面玄関と裏口だけを守ればいいし」
「そ、そうしましょう」

 あたしは焦りながらもみんなに手伝ってもらって、会議室のでかいテーブルをいくつか正面玄関と裏口に置いてバリケードを作った。

 正面玄関には、あたしとロベルト、サビーナちゃん、カルロさん。
 それにルチオ教授。
 ジェラルド小隊長は連絡役。
 残りは裏口を守る。

「五分経った! こっちから行くぞ!」

 オガストが怒鳴ってる。
 狼男が大勢、正門玄関前の階段を上ってきた。

 一応、狼だからもっと敏捷に動いて、突撃してくるかと思ったんだけど、意外にも狼男たちはダラダラしながらゆっくりと階段を上ってくる。
 何だかやる気無さそう。

 ルチオ教授が正面玄関でウロウロしているので、あたしは注意した。

「ルチオ教授、危ないですよ。上の階に避難してください」
「いやあ、研究の参考になるからここにいるよ」

 葉巻の煙をくゆらせている教授。
 ルチオ教授、研究熱心なのはいいけど、危ないっちゅーの。

「あの、危険ですからなるべく端っこに居て下さい」

 あたしが爺さんに言ってる間に、ロベルトが興奮して「ヒャッハー!」と叫んで、バリケードを乗り越えてライフルを撃ちまくる。
 ある意味、狼男より危ない奴だな。

 銀の弾丸が当たって、何人かの狼男は倒れた。
 しかし、すぐに立ち上がる。

 狼男の体にめり込んでいた銃弾がポロポロと落ちた。
 狼男たちは全然元気だ。

「やばいっす!」

 慌ててバリケードまで逃げ戻るロベルト。
 教授に向かって叫ぶ。

「銀の弾丸、狼男に効かないっすよ!」
「うーん、おかしいなあ」

 のんびりと答える爺さん。
 のんびりすんな!

 あれ、この銃弾、よく見ると表面の銀が剥げてる。

「カルロさん、この銃弾、ホントに銀製なんですか」
「大学から研究費削減されちゃって、しょうがないから普通の銃弾に銀メッキするしかなかったんですよ。まいったなあ」

 きまりの悪い顔するカルロさんなんだけど、おいおい、ふざけてんのか。
 そんなカルロさんをルチオ教授が怒鳴りつける。

「おい、カルロ! 銀メッキの銃弾じゃあ、ほんの少し傷つけるだけだぞ。致命傷を与えることは出来ない。お前は落第したいのか!」
「だいたい研究費を使って、教授が新品の蒸気自動車なんか購入するから金が無くなったんじゃないですか!」
「お前も研究費を使って、コスプレとか言うわけのわからない事に変な服を買ってるじゃろうが!」

 カルロさんとルチオ教授が怒鳴り合いしてる。
 もう、教授もカルロさんも、あたしを遥かに超えて、いい加減過ぎ!

 そこにジェラルド小隊長が報告しにきた。

「裏口の方は全く侵入して来る気配がないぞ」
 
 なぜか狼男たちは正面玄関からしか突入しようとしてこないようだ。
 あたしは爺さん教授に聞いた。

「教授、どう思いますか」
「うむ、分かったぞ。あれは本物の狼男じゃないな、一般市民が狼男にされてるんじゃよ。オガストがネクロノミカンを使って、操っているんじゃないかな。それで、最初の命令だけで動いているんじゃろう。だから満月でもないのに狼男になっているんじゃ」

 ルチオ教授が説明してくれる。

 え! 一般市民だと。
 あれ、それじゃあ、殺したらまずくね。
 お、ひらめいたぞ。

 この銀メッキの銃弾は少ししか傷つけない。
 この場合はそのほうがいい。

 よし! 怖いけど外に出るぞ!

「みんな、撃つ場合は威嚇か、急所は外して撃って」

 そう叫んで、あたしは廊下から小隊室へ入り、そっと窓から出る。
 玄関から少し離れて、側面からニセ狼男たちの足首を狙って射撃する。

 一人の狼男の足首に当てると、転んでうまく立ち上がれない。
 これは、効果ありだぞ。

 十六人いるニセ狼男たちの足首のアキレス腱を狙って、完璧に当てる。
 我ながら、すごい。
 狼男たちは全員転倒。

「すごーい、プルムさん!」

 サビーナちゃんがぴょんぴょん飛んで拍手している。
 ぴょんぴょん飛んでる場合じゃないと思うけど。

 狼男たちは全員転倒したが、それでも、正面玄関にのろのろと腕だけで、這って進んできた。
 バリケードを越えようとするのは、ライフルの銃床でぶん殴って、後退させる。
 みんなで狼男たちを銃床でぶん殴っているところを、葉巻を吸いながらのん気に見物しているルチオ教授にあたしは声をかけた。

「ニセの狼男たちを普通の人間に戻すにはどうするんですか」
「ネクロノミカンを閉じれば戻るじゃろ。さっきの鍵を使えばよい」

「それだけでいいんですか」
「多分な。まあ、わしの勘じゃ」

 爺さんの勘で行動せなあかんのかい。
 けど、案ずるより生むが易しよ!

「よくも狼男たちにひどい目をあわせたな。今度は私自ら行くぞ!」

 オガストが階段の下でメガホンで怒鳴っている。 
 オガスト・ダレスが路上にネクロノミカンを置いて、また何やらわけのわからない呪文を唱える。

「クトゥルフ、クトゥルフ、イサダクテー、シンマガデンー、ナトウロシー、ネスデイナー、クロシモオガー、リートスー、チイマイー!」

 オガスト本人が狼男になった。
 顔が犬のように変形し、毛むくじゃらになり、体が二倍くらいに膨れ上がる。

 バリケードに突進してくる。
 けど、あたしが外にいることに気づいていないようだ。

 そっと、オガストに気づかれずに階段の下まで降りる。
 狼男オガストがバリケードの机を持ち上げて、振り回して、ロベルトを吹っ飛ばした。

「ヒエー!」

 ロベルトが壁に叩きつけられる。

「プルム・ピコロッティは何処だ! 鍵を返せ!」

 オガストが喚いている。
 その隙にあたしは、階段の下に置いてあるネクロノミカンに、例のヤカンの蓋みたいな鍵を表紙に当てる。

 するとあっさりと本が閉まった。
 するすると普通のおっさんに戻るオガスト。

「くそ、本を閉めやがったな」

 オガストが慌てて逃げ出したところを、階段の下で待ちかまえる。

「オガスト、覚悟!」と叫んで、セルジョ小隊長の仇だとあたしはパワー全開でオガストの股間を蹴り上げる。
 オガストは悲鳴も上げる間もなく、気絶。
 手錠をかけて逮捕してやった。
 他の狼男たちも人間に戻った。

 みんな、足首をおさえて痛い痛いと叫んでる。
 ごめんなさい。

 ちょっと、ネクロノミカンの鍵の仕組みを見る。
 泥棒なんで興味があるんよ。

 本のカバーに付いていた鍵だけど、ダイヤル式かと思っていた円周上のくぼみは、ヤカンの蓋の端に付いている出っ張りを突き立てるだけだった。
 単純な鍵だ。

 一度、ヤカンの蓋を表紙の円周上のくぼみに被せると本が開いて、背表紙が後ろに下りて支えになり、表と裏の表紙も使って本を立てることができる。

 まるで、本が自ら立ち上がったように見せるためかな。
 それで、もう一度被せると、元に戻って本が閉じる。
 大したからくりではないな。

 ルチオ教授が葉巻を吸いながら、階段をゆっくりと降りてくる。

「お疲れさん。大活躍でしたな、プルム隊長」
「はあ、ご協力ありがとうございました」

 まあ、ルチオ爺さんは、多少役に立ったんで、クラウディアさんを騙した事は黙っておいてやるか。そんな風にあたしが考えていると、突然よろめいて、階段に手をつくルチオ爺さん。

「うっ!」
「だ、大丈夫ですか、教授」

 慌てるあたし。

「いや、腰が痛くてな」

 そこへカルロさんが近づいて来た。

「教授、ゴルフのやり過ぎですよ。研究費で高級ゴルフクラブの会員権やらゴルフ用品を買ってますもんね」

 嫌味を言うカルロさんに怒る教授。

「お前もボクシングのグローブとか買ってるだろ!」

 吸血鬼との戦いで腰を痛めたんじゃないのかよ。
 今回も本当の狼男だったらどーすんじゃ。

 泥棒でさぼり魔のあたしに言われたくないかもしれんけど、この人たち、マジ、税金ドロボーじゃん。
 そりゃ、研究費減らされるのも当然だよ!
 
 さて、一応、事件は解決。
 壁に叩きつけられたロベルトは、たいしたケガはしてなかった。

 他の人たちも無事。
 まあ、狼男に変身させられた市民は、当分松葉杖状態だけど、許してよん。

 オガスト・ダレスは刑務所行き。
 ネクロノミカンは危険なので、鍵と一緒に魔法高等官アイーダ様のとこで厳重に保管することになった。

 ちなみに、オガストはネクロノミカンは親の形見だとか言ってたけど、それはウソだった。
 何だかダークスーツを着た男から貰ったそうだ。
 誰だろうね?

 ダークスーツ着てる人なんていくらでもいるからね。
 どうでもいいか。

 そして、ある日の事。
 サビーナちゃんから言われた。

「プルムさん、大隊長殿がお呼びですよ」

 ひえ! 赤ひげのおっさんに呼びつけられた。
 けど、もう怒ってないよね。

「失礼します」

 大隊長室に入ると、紙飛行機が空中を舞っている。
 スイーと飛んで回って、あたしの足元に落ちた。

「以上だ!」と赤ひげのおっさんはそれだけ言って、またまた、あたしに野良猫を追い払うような仕草をする。
 やな奴だな、赤ひげ!

 ふざけやがってと思いながら、紙飛行機を拾って部屋を出る。
 それを広げると辞令があった。

『小隊長に昇進させる』

 えっ、小隊長? 
 何ですと?
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

屋上の合鍵

守 秀斗
恋愛
夫と家庭内離婚状態の進藤理央。二十五才。ある日、満たされない肉体を職場のビルの地下倉庫で慰めていると、それを同僚の鈴木哲也に見られてしまうのだが……。

敵に貞操を奪われて癒しの力を失うはずだった聖女ですが、なぜか前より漲っています

藤谷 要
恋愛
サルサン国の聖女たちは、隣国に征服される際に自国の王の命で殺されそうになった。ところが、侵略軍将帥のマトルヘル侯爵に助けられた。それから聖女たちは侵略国に仕えるようになったが、一か月後に筆頭聖女だったルミネラは命の恩人の侯爵へ嫁ぐように国王から命じられる。 結婚披露宴では、陛下に側妃として嫁いだ旧サルサン国王女が出席していたが、彼女は侯爵に腕を絡めて「陛下の手がつかなかったら一年後に妻にしてほしい」と頼んでいた。しかも、侯爵はその手を振り払いもしない。 聖女は愛のない交わりで神の加護を失うとされているので、当然白い結婚だと思っていたが、初夜に侯爵のメイアスから体の関係を迫られる。彼は命の恩人だったので、ルミネラはそのまま彼を受け入れた。 侯爵がかつての恋人に似ていたとはいえ、侯爵と孤児だった彼は全く別人。愛のない交わりだったので、当然力を失うと思っていたが、なぜか以前よりも力が漲っていた。 ※全11話 2万字程度の話です。

愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗
恋愛
会社員の美夜本理奈子(24才)。ある日、仕事が終わって会社の玄関まで行くと大雨が降っている。びしょ濡れになるのが嫌なので、地下の狭い通路を使って、隣の駅ビルまで行くことにした。すると、途中の部屋でいかがわしい行為をしている二人の男女を見てしまうのだが……。

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

眠り剣士

守 秀斗
ファンタジー
剣と魔法の国、アルファポリス王国。眠っている時は最強、起きている時は最弱の剣士アントン。特異体質のアントンをこき使って、兄のボリスと恋人のスヴェトラーナはお気楽に暮らしていたが、ある日、アントンがうまく眠れなくなった。そこで、他人を眠らせる魔法を使えるマリアを仲間にしたのだが……。

処理中です...