旅の仲間は皆死んだ

守 秀斗

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第1話:いかだを作る

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 鬱蒼とした森の中を徒歩で進んでいくと大きな川が見えてきた。かなり幅が広く、流れもゆったりとしている。この川に到達するまでに二日かかったが、特にモンスターなどは出現しなかったので、今のところ俺たち冒険者パーティー八名は全員元気だ。

「リーダー、後はこの川を下って行けば、三日で目的地に到着できるぜ。夜は危険かもしれないので、昼に移動するだけだがな」
「危険って、どんなモンスターが出るんだ」
「いや、モンスターとかは出ないようだ。ワニがいるってのは聞いている。まあ、わざわざ人間が何人も乗っているいかだには近づかないだろう」

 浅黒い肌でユニークな顔をした男がニヤニヤ笑いをしながら俺に言った。こいつの名前はカミアキンと言う。職業は剣士。この川までの案内役を買って出た男だ。今までも、何度かモンスター退治の仕事に一緒に参加したことがある。割と剣の使い方がうまく、状況判断も適格だ。ただ、ちょっと小狡いところもあったような覚えがある。まあ、仕事の時だけの付き合いなんで、こいつの私生活はよく知らない。カミアキンだけでなく、残りの六名も今回の仕事のために臨時で集めたので、お互いの事をよく知らない。寄せ集めのパーティーとも言っていい。

 今回、俺がリーダーを務めるこの冒険者パーティーの目的は、ある古代神殿の廃墟に出現したゴブリンたちから、考古学者たちを護衛すること。ただ、ゴブリンたちも大して数も多くないし、学者さんたちでも撃退できる程度の連中みたいだ。けっこう大勢の人数で調査しているらしい。

 要するに遺跡調査の邪魔になるので、俺たち冒険者たちに調査隊の警護をしてもらいたいというのが依頼の内容だった。この仕事はカミアキンが持ってきたものだ。その遺跡はかなり大昔からあるもので、すでに俺たちのような冒険者が欲しがるような財宝などはすっかり盗掘されているようだ。学者さんにとっては貴重なものでも俺たちヤクザな冒険者には特に魅力のある場所ではない。

 相手は少数のゴブリンだし、遺跡での警護の仕事なんて大した事はないだろうと俺は判断した。メンバーは剣士が四名にウォリアーが一名、弓使いが二名、シーフが一名。ゴブリン相手ならこれで充分だろう。但し、場所が遠く、本来なら高い山々を上り下りして、危険な道を通らないとその遺跡までは到着できない。普通に行けば二週間はかかる。依頼された時に食料の費用などは先に貰ったようだ。ただ、そこで例のカミアキンがある事を言い出した。

「近道があるんだよ。川を下って行く方法だ。それなら遺跡まで五日もかからないし、食料を積む馬車も必要無し。だからその分の経費をいただいてしまおうぜ」

 食料をけちるのは、まずいんじゃないかと思ったが、所詮、相手はゴブリン数匹。それに、現地に到着すれば調査隊が数か月分の食料を準備しているらしいので大丈夫かなと俺は思い、結局、パーティー全員で余ったお金を山分けしてしまった。そして、食料はおのおのが背中に背負った。徒歩で森の中を難なく走破して、今、川岸にいる。近くに荒れ果てた小屋が何軒かあるが誰もいない。そして、小さい平らないかだが何枚も放置されている。丸太を縄で結びつけただけの単純な造りのいかだ。カミアキンの話では、それらをつなげて、俺たち八人が乗れる大きないかだを作る計画らしい。しかし、俺は疑問に思ってカミアキンに聞いた。

「何で、あんたはいかだがここにあるのを知ってたんだ」
「この川沿いには原住民の部族が住んでたんだよ。前は大勢住んでたらしいが、国に反抗してかなり成敗されたらしいな。その後、ここら辺で細々と暮らしていたようなんだが、最近になって、『狂える獣の群れ』が復活するって噂が立って全員逃げ出したんだってことだ。いかだは生活に使っていたようだが、それもほったらかしにして、こことは全然別の場所、外国へ移住したらしい」
「何だよ、『狂える獣』って」
「知らないよ。何でもこの国を滅ぼしてしまう化け物の大群らしい。まあ、下らん伝説だな。その『狂える獣』を祀っていたのが、今回の遺跡調査をしている場所みたいだ」
 
 もう廃墟同然の遺跡に『狂える獣』だか何だか知らないが、そんなものが出るわけないじゃないかと俺は思った。

「あの遺跡はもうかなり前から盗掘されていたらしい。そんな事されたら、『狂える獣』とやらも怒って、とっくの昔に復活してんじゃないのか」
「まあ、原住民たちは下らん言い伝えに怯えていたようだがね。そして、俺は逃げて来た原住民の男に聞いて、どうやら遺跡には、わざわざ山を越えなくても川を下れば簡単に行けるってことを教えてもらったってわけさ。それで、これは経費の節約なると思ったわけだ」

 依然としてニヤニヤ笑いのカミアキンを見てお金に汚い感じがする奴だなと俺は思った。しかし、俺の方もすでに分け前をいただいてしまったんだから人の悪口は言えない。

 カミアキンが他のパーティーの連中に声をかける。

「ここにある小さいいかだを縄で結び付けよう。十五枚くらいつなげれば、八人くらい乗れるだろう」

 カミアキンの指示で川岸に捨ててあったいかだをそれぞれ縄で結びつけて、大きい長方形ののいかだを作る。そして、中央には木を切り倒して、四本の柱を立てて、その上にわらぶきの簡単な屋根を付けた。壁はなく吹きさらしだ。この辺りは、突然、雨が降り出すことが多く、一度降り出すと何日も続くようだ。三日で到着とは言え、その間ずっと雨に降られてずぶ濡れの状態になるのは避けたいので、俺はカミアキンのする事には反対しなかった。そして、完成したいかだはけっこう大型なものになった。そのいかだを見ながら、俺はカミアキンに聞いた。

「ずいぶん大きいいかだになったが、これで目的地まで行けるのか。途中で川幅が狭くなったら通れなくなってしまうことにはならないのか」
「この川はかなり奥地までずっと幅が広いらしいから平気さ」

 俺は大丈夫かなと思ったが、川の流れは緩やかだ。それに、何か月も乗っているわけではないし、もし、不測の事態が起きても陸路で戻ってくればいいかなと思った。

「それじゃあ、推進式といくか」

 カミアキンの号令で、下に置いた丸太棒の上を滑らせて、作ったいかだを川に浮かべてみる。すると、いかだが前方の方から沈んでいく。

「おい、まずいぞ。転覆してしまう」

 俺がカミアキンに声をかけると、奴は苦笑いして答えた。

「どうも前方につなげたいかだの方が重いみたいだな。つり合いが取れていないようだ。縄を引っ張って川岸に戻そう」

 いかだの後方に縛りつけてある縄を皆で引っ張り、一旦、いかだを地上に戻す。カミアキンは後方にもう一枚いかだをつなげてつりあいを取るつもりのようだ。そして、もう誰も住んでいない掘っ立て小屋の木の壁を壊して、それで小さいいかだを囲んで、俺たちの作った大型のいかだの後方につなげた。その囲いには屋根や扉まで付いている。

「カミアキン、その囲いは何だよ」
「この後ろにつけた囲いは便所さ。用を足しているところを見られたくはないだろ」

 相変わらずニヤニヤ笑いのカミアキンが答える。そこに俺とカミアキンの会話に弓使いのブレントが間に入って、カミアキンに質問してきた。このブレントって奴は、年齢は俺より下だが、何度も修羅場を乗り越えた、ちょっとベテランっぽい冒険者だ。ただ、少し偏屈っぽい感じもする。

「俺たちは男だけなんだから、そんな囲いや屋根まで作って便所をこさえることもないんじゃないのか。このいかだも使うのは三日間だけだし」
「まあ、木の板を重ねて置くだけでも釣り合いが取れるが、どうせなら便所でも作ってみようかなと思ってな」
「大工仕事が好きなのか、あんたは」
「まあ、そんなところだ。じゃあ、再び進水式と行くか」

 再度、カミアキンが指示して、大型いかだを川までコロを使って運んでいく。川に浮かべてみると先程と違って、水面にしっかりと浮かんでいる。そのいかだを見て、カミアキンは満足気な表情を見せる。

「じゃあ、奥地へ冒険と行きますか」

 カミアキンがニヤニヤ笑いで皆に言った。
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