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第2話:巨大なワニに襲われる
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俺たちは、いかだの後部と川岸の木を縄でつなげた後、食料や水、荷物、それに川岸に捨ててあったいかだを操る櫂を運び込んだ。そして、八名全員がいかだに乗る。特にいかだは沈むこともなく異常は無いようだ。
「じゃあ、縄を外すぞ」
カミアキンがいかだから体を乗り出して、木に縛っていた縄を解いた。出発したのはもう昼過ぎだ。蒸し暑く、ほとんど風は吹かない。川の緩やかな流れに乗って、いかだが動き始めた。人が早歩きするくらいのゆったりとした速度だ。円滑に川の上を進んでいくいかだにご満悦そうなカミアキンに俺は念を押した。
「本当に、この速度で川を下って行って、三日で目的地の遺跡に到着するのか」
「ああ、原住民はそう言ってた。しかも、特に急流などの危ない場所も無いようだ。観光気分で行こうぜ」
相変わらずニヤニヤ笑いのカミアキン。何だか軽薄っぽい奴でもあるなあと俺は思った。
俺とカミアキンが話していると、後方の便所の扉が開いた。俺たちのパーティー最年少のチャドが出てきた。こいつは、いつも冒険用のカバンを斜め掛けにしている。職業はシーフだが、食事当番で雇ったようなもんだ。腕に妙な刺青をしているのが、冒険服の袖口から見える。
カミアキンがそのチャドに声をかけた。
「使い心地はどうだった。俺の作った便所は」
「便所って、穴が開いてるだけでしてたけど」
俺はちょっと気になって、カミアキンがいかだの後方に作った便所の扉を開けてみた。中は屋根の隙間から日が差すくらいで暗く、小さいいかだ一枚分の大きさだ。いや、ちょっと狭いか。扉には大きい石が縄でついていて、開けると石が持ち上がり、手を離すと石が落ちて閉まる。ずいぶん凝ったものを作ったなあと俺は思った。下を見ると穴が開いていて、濁った川の流れが見える。後ろからカミアキンが俺に言った。
「その穴に排泄して川に流すのさ。それとも座ることの出来る便座とかも欲しかったか」
「そんなものいらんよ、別に貴婦人が乗って来るわけでもないし。俺たちは冒険者だぜ」
「そうだったな」
またニヤニヤ笑いで答えるカミアキン。何がそんなに面白いのだろうか。それとも、生まれつきそういう顔なのかなと俺は思った。
いかだはゆっくりと進んでいく。左右の端っこには交代で櫂を漕ぐ人員を配置して、いかだがまっすぐ進むようにした。ゆったりと川の上を進んでいくいかだに乗っていると、冒険していると言うより、カミアキンの言う通り観光でもしている気分になった。
下流に進んでいくにつれて、川岸が見えなくなり、木が水底から生えて水面から飛び出ているようになった。川の幅がどんどん広がっていき、陸地が遠くなっていく。そこで、俺はカミアキンが言っていた『狂える獣の群れ』という言葉が気になった。この辺りには危険なモンスターは出現しないとの事だったが、原住民たちが逃げ出したのは何かしらのモンスターを見たからそういう伝説を作ったのではないだろうか。そこで、カミアキンに再度聞こうと思った途端、後方から悲鳴があがった。
「ウギャア!」
水しぶきが上がる。誰かいかだから落ちたようだ。見回すとカミアキンがいない。後方にいたチャドが叫ぶ。
「大変ですよ、カミアキンさんが何かに足を引っ張られて、川に転落しました!」
チャドが川の後方を指差した。俺が川に落ちたカミアキンを助けようと近づくと大型の動物がいかだに這い登って来た。人間の大人二人分かと思えるほどの巨大なワニだ。こいつがカミアキンを水の中に引きずり込んだらしい。観光気分が一瞬で消えた。巨大ワニの重さでいかだの後部が少し沈んで斜めになる。俺は慌てて、剣を抜いた。ワニがデカい口を開けて襲いかかって来た。
「この野郎!」
俺は咄嗟にワニの攻撃をよけて、胴体に剣を突き立てた。かなり深く突き立てたつもりだったのだが、ワニの奴はいかだの上を転げまわる。危うく尻尾で吹っ飛ばされそうになった。他の連中も剣や弓矢で対抗するが、ワニはなかなかしぶとく、俺たちを襲おうと迫ってくる。硬い鱗で覆われたワニの体はかなり頑丈そうだ。
「俺にまかせろ!」
ウォリアーで巨体のジェイスンが叫ぶと、ワニの脳天に大きい斧を打ち込んだ。斧で頭部を潰されたワニは痙攣して、やっと動かなくなった。
「カミアキンはどうなったんだ、リーダー」
ジェイスンにそう言われて、思わず、後方を見る。すると、少し離れた川の表面が血で真っ赤だ。カミアキンの血なのか。ワニに殺されたのか。
「どうする。いかだを皆で漕いで、カミアキンを助けるために戻るか」
ジェイスンに聞かれたが、しかし、巨大ワニと戦っている間に、いかだがかなり下流に進んでしまった。川を逆流して行くのは無理だろう。俺は皆に言った。
「いかだを木に括りつけて、陸地を伝ってカミアキンが転落した場所まで行こう」
とりあえず、俺たちは邪魔なワニの死骸を川に放り込んだ。すると、すぐに水面が激しく動き出した。チャドが指差して叫ぶ。
「ワニが食われてますよ。小さい魚が集団で襲ってる」
どうやらこの川には肉食のかなり狂暴な魚までいるらしい。川に落ちたら、あっという間にあの魚の餌食か。これはカミアキンも食われてしまったんだろう。後方の水面に漂っている赤い血を見ながら、戻っても仕方がないかと俺は思った。
「ここから見てもカミアキンの姿は全然見えない。多分、あいつは魚に食われてしまったんだろう。助けることは無理だと思う。埋葬も出来ないな。カミアキンには悪いが、とにかく、このまま進んでいくしかない。ただ、あんな巨大なワニが生息しているとは思わなかった。以後は周りに目を配って、注意深く行くしかない。後、三日で到着するって話だからな。とにかく川の中には入るな。危険だ」
「勘弁してくださいよ。魚に食われて死にたくないですよ。こんな川じゃなくて、山を登って通常の道を使って目的地に行ったほうがよかったんじゃないですか」
もう一人の弓使いのカールに文句を言われる。ひょろっとした痩せた男だ。お前だって、食費を削って余ったお金を受け取っただろと言おうと思ったがここは我慢することにした。ただ、こんな危険な川だっていう事を調べなかったのはリーダーとしてはまずいかなとも思った。しかし、もう戻ろうにも出発地点からだいぶ離れてしまっている。
それに、この仕事はカミアキンが持ち込んできたもので、俺もこの辺りの地理には詳しくない。俺はカミアキンを失って不安になった。いや、カミアキン本人も詳しくなかったんじゃないのかとも思った。あいつは大した仕事じゃないとなめてかかっていたような感じだった。いきなりワニに川に引きずり込まれて、魚に食われるとは全く予想していなかっただろう。俺も、相手はゴブリン数匹と思っていたので、ろくに事前調査もしていない。俺はカールや皆に言った。
「とにかく、このまま行くしかないだろう。後、三日で到着だ。我慢してくれ」
「じゃあ、縄を外すぞ」
カミアキンがいかだから体を乗り出して、木に縛っていた縄を解いた。出発したのはもう昼過ぎだ。蒸し暑く、ほとんど風は吹かない。川の緩やかな流れに乗って、いかだが動き始めた。人が早歩きするくらいのゆったりとした速度だ。円滑に川の上を進んでいくいかだにご満悦そうなカミアキンに俺は念を押した。
「本当に、この速度で川を下って行って、三日で目的地の遺跡に到着するのか」
「ああ、原住民はそう言ってた。しかも、特に急流などの危ない場所も無いようだ。観光気分で行こうぜ」
相変わらずニヤニヤ笑いのカミアキン。何だか軽薄っぽい奴でもあるなあと俺は思った。
俺とカミアキンが話していると、後方の便所の扉が開いた。俺たちのパーティー最年少のチャドが出てきた。こいつは、いつも冒険用のカバンを斜め掛けにしている。職業はシーフだが、食事当番で雇ったようなもんだ。腕に妙な刺青をしているのが、冒険服の袖口から見える。
カミアキンがそのチャドに声をかけた。
「使い心地はどうだった。俺の作った便所は」
「便所って、穴が開いてるだけでしてたけど」
俺はちょっと気になって、カミアキンがいかだの後方に作った便所の扉を開けてみた。中は屋根の隙間から日が差すくらいで暗く、小さいいかだ一枚分の大きさだ。いや、ちょっと狭いか。扉には大きい石が縄でついていて、開けると石が持ち上がり、手を離すと石が落ちて閉まる。ずいぶん凝ったものを作ったなあと俺は思った。下を見ると穴が開いていて、濁った川の流れが見える。後ろからカミアキンが俺に言った。
「その穴に排泄して川に流すのさ。それとも座ることの出来る便座とかも欲しかったか」
「そんなものいらんよ、別に貴婦人が乗って来るわけでもないし。俺たちは冒険者だぜ」
「そうだったな」
またニヤニヤ笑いで答えるカミアキン。何がそんなに面白いのだろうか。それとも、生まれつきそういう顔なのかなと俺は思った。
いかだはゆっくりと進んでいく。左右の端っこには交代で櫂を漕ぐ人員を配置して、いかだがまっすぐ進むようにした。ゆったりと川の上を進んでいくいかだに乗っていると、冒険していると言うより、カミアキンの言う通り観光でもしている気分になった。
下流に進んでいくにつれて、川岸が見えなくなり、木が水底から生えて水面から飛び出ているようになった。川の幅がどんどん広がっていき、陸地が遠くなっていく。そこで、俺はカミアキンが言っていた『狂える獣の群れ』という言葉が気になった。この辺りには危険なモンスターは出現しないとの事だったが、原住民たちが逃げ出したのは何かしらのモンスターを見たからそういう伝説を作ったのではないだろうか。そこで、カミアキンに再度聞こうと思った途端、後方から悲鳴があがった。
「ウギャア!」
水しぶきが上がる。誰かいかだから落ちたようだ。見回すとカミアキンがいない。後方にいたチャドが叫ぶ。
「大変ですよ、カミアキンさんが何かに足を引っ張られて、川に転落しました!」
チャドが川の後方を指差した。俺が川に落ちたカミアキンを助けようと近づくと大型の動物がいかだに這い登って来た。人間の大人二人分かと思えるほどの巨大なワニだ。こいつがカミアキンを水の中に引きずり込んだらしい。観光気分が一瞬で消えた。巨大ワニの重さでいかだの後部が少し沈んで斜めになる。俺は慌てて、剣を抜いた。ワニがデカい口を開けて襲いかかって来た。
「この野郎!」
俺は咄嗟にワニの攻撃をよけて、胴体に剣を突き立てた。かなり深く突き立てたつもりだったのだが、ワニの奴はいかだの上を転げまわる。危うく尻尾で吹っ飛ばされそうになった。他の連中も剣や弓矢で対抗するが、ワニはなかなかしぶとく、俺たちを襲おうと迫ってくる。硬い鱗で覆われたワニの体はかなり頑丈そうだ。
「俺にまかせろ!」
ウォリアーで巨体のジェイスンが叫ぶと、ワニの脳天に大きい斧を打ち込んだ。斧で頭部を潰されたワニは痙攣して、やっと動かなくなった。
「カミアキンはどうなったんだ、リーダー」
ジェイスンにそう言われて、思わず、後方を見る。すると、少し離れた川の表面が血で真っ赤だ。カミアキンの血なのか。ワニに殺されたのか。
「どうする。いかだを皆で漕いで、カミアキンを助けるために戻るか」
ジェイスンに聞かれたが、しかし、巨大ワニと戦っている間に、いかだがかなり下流に進んでしまった。川を逆流して行くのは無理だろう。俺は皆に言った。
「いかだを木に括りつけて、陸地を伝ってカミアキンが転落した場所まで行こう」
とりあえず、俺たちは邪魔なワニの死骸を川に放り込んだ。すると、すぐに水面が激しく動き出した。チャドが指差して叫ぶ。
「ワニが食われてますよ。小さい魚が集団で襲ってる」
どうやらこの川には肉食のかなり狂暴な魚までいるらしい。川に落ちたら、あっという間にあの魚の餌食か。これはカミアキンも食われてしまったんだろう。後方の水面に漂っている赤い血を見ながら、戻っても仕方がないかと俺は思った。
「ここから見てもカミアキンの姿は全然見えない。多分、あいつは魚に食われてしまったんだろう。助けることは無理だと思う。埋葬も出来ないな。カミアキンには悪いが、とにかく、このまま進んでいくしかない。ただ、あんな巨大なワニが生息しているとは思わなかった。以後は周りに目を配って、注意深く行くしかない。後、三日で到着するって話だからな。とにかく川の中には入るな。危険だ」
「勘弁してくださいよ。魚に食われて死にたくないですよ。こんな川じゃなくて、山を登って通常の道を使って目的地に行ったほうがよかったんじゃないですか」
もう一人の弓使いのカールに文句を言われる。ひょろっとした痩せた男だ。お前だって、食費を削って余ったお金を受け取っただろと言おうと思ったがここは我慢することにした。ただ、こんな危険な川だっていう事を調べなかったのはリーダーとしてはまずいかなとも思った。しかし、もう戻ろうにも出発地点からだいぶ離れてしまっている。
それに、この仕事はカミアキンが持ち込んできたもので、俺もこの辺りの地理には詳しくない。俺はカミアキンを失って不安になった。いや、カミアキン本人も詳しくなかったんじゃないのかとも思った。あいつは大した仕事じゃないとなめてかかっていたような感じだった。いきなりワニに川に引きずり込まれて、魚に食われるとは全く予想していなかっただろう。俺も、相手はゴブリン数匹と思っていたので、ろくに事前調査もしていない。俺はカールや皆に言った。
「とにかく、このまま行くしかないだろう。後、三日で到着だ。我慢してくれ」
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