プラカーシュの首

守 秀斗

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第2話:プラカーシュを襲う

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 翌日。

 朝から大雨だ。
 びしょ濡れになってグエンはカイの家に行くと、大きい荷車が置いてある。

「お! 来たな、グエン」

 カイが声をかけてきた。
 その隣には、目つきの悪い背の高い男が立っていた。

 ダンの奴だ。
 分厚い外套を着ていて、なにやらボロボロの布袋を持っている。
 気になったグエンが聞く。

「その袋は何だよ」
「……着替えが入っている」

 ダンが不愛想に答えた。
 逃げる時に着替えるのかとグエンは思った。

 それにしても、こいつはいつも無表情で何を考えているかわからない。
 粗暴なクズ野郎って事は知っているが。
 
 カイが説明した。

「この荷車の台の上においた桶の中の一つにダンが隠れるんだ」
「この荷車、大きすぎて俺一人じゃ、引っ張れないぞ」
「俺も手伝うよ、と言うかそれを口実に俺も一緒に石窟寺院の門を通り抜けるつもりさ」

 荷車に置いてある桶の中にダンが隠れた。
 桶の中が臭いとブツブツ文句を言ってやがる。

 人糞を運んでいるんだから臭いのは当たり前だろ。
 グエンが荷車の取っ手を引っ張り、カイが後ろから押していくことにした。

 貧民街を抜け出て、わりと裕福な連中が住む街を通る。
 道がちゃんと舗装してあり荷車を運ぶには楽なのだが。

 石造りの立派な家の前の道で荷車を運んでいると、それを見ていたガキが石を投げつけやがった。
 その石がグエンの背中に当たった。

「痛い!」

 ガキはゲラゲラと笑ってやがる。
 クソ、馬鹿にしやがって。
 そのガキを捕まえてぶん殴ってやりたかったが、どんな仕返しをされるかわからないのでグエンは我慢した。

 俺たちのような貧民街に住んでいる人間なんて、裕福な奴らから見たら害虫以下だ。
 害虫を殺しても罪にはならない。

 イライラしながらも、大雨の中、グエンは荷車を引っ張った。
 
 壮麗な寺院が見えてきた。
 隣には政府の役人が働く豪華な建物の役場もある。

 俺たち貧乏人を安い賃金でこき使って建てたもんだ。
 グエンはこの建物を見るだけで、いつもむかついていた。

 その建物とは少し離れた場所に昔からある石窟寺院がある。
 荷車を押して裏口に行く。
 
 到着すると、グエンは知り合いの門番にカイを紹介した。

「カイと言います。友人です。いつも使っている荷車が壊れて、今日は大きい荷車で運んできたので重くて助っ人を頼みました」

 門番は雨が降る中、面倒くさそうにカイの身体検査をした後、あっさりと通してくれた。

 石窟寺院に近づいていく。
 一番端っこに汲み取り便所があり、いつもはそこで人糞を回収する。

 そして、石窟寺院の中に入る玄関にはいつも護衛士が立っているのだが、その姿が見えない。
 プラカーシュが瞑想修行をしているのだろう。
 どうやらカイの情報は正しかったようだ。

 ダンが桶から出てきて、周りの様子をうかがう。
 雨がかなり降ってきた。
 風も強い。

 グエンがダンに言った。

「じゃあ、俺はここで待っている」

 しかし、ダンが無表情でグエンに命令する。

「お前も来い」
「何で俺も行く必要があるんだよ。お前とカイでやるんだろ」
「裏切られて、金目当てで警備の奴らに通報されたら嫌なんでな」

 ダンは相変わらず無表情だ。
 強引にグエンを引っ張っていく。
 カイの奴は、何だかおどおどしているが黙っている。

 この頭のおかしい奴に逆らうとどんな目に遭うかわからない。
 渋々グエンもついて行くことになった。

 ダンを先頭に、カイ、グエンと続いて石窟寺院の中に入る。
 人の気配がしない。

 プラカーシュは石窟寺院の奥にいるはずだ。
 瞑想修行中に護衛も弟子も誰も近づけないというのは本当のようだ。
 
 グエンはダンを見て、変だなと思った。
 布袋から剣を取り出した。
 その剣の柄を握る手が震えている。

 何で剣を持ってきたんだ。
 プラカーシュを脅すためだろうか。

 蝋燭の光が洞窟の中を照らしていて、奥の方に質素な袈裟を着て座禅を組んだ老人がいる。
 グエンはその顔を見てプラカーシュだと気づいた。

 人の気配に気づいたプラカーシュは瞑っていた目を開けた。
 温和な表情で微笑んでいる。

「何用かな、お若いの」

 プラカーシュが、そう問いかけた瞬間。
 いきなりダンが剣を振り、プラカーシュの首を刎ねた。

 プラカーシュの体が倒れて首が床に転がる。
 首を切断された胴体から血が噴き出し、側にいたグエンは全身に血を浴びる羽目になった。

 血まみれになったグエンは剣の血糊を自分の服の裾で拭いているダンに叫んだ。

「おい、プラカーシュを殺すなんて聞いてないぞ!」
「殺すと言ったら案内してくれないだろ」

 ダンは無表情だ。
 カイも仰天しているのか、呆然として一言も口に出せない。

 グエンはダンに抗議した。

「額に付けている宝石だけ奪うって話じゃなかったのか」
「首がないとプラカーシュが付けていた宝石だと分からないじゃないかよ」

 ダンはまた無表情で答えた。
 しかし、ダンは平然としているようだが、どこかしら体が震えている。
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