愛しているなら拘束してほしい

守 秀斗

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第15話:新道の家を訪ねる

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 翌日。

 朝にまた更衣室で土田課長に会った。何だか恥ずかしそうな顔をしている。清楚な土田課長に戻ったなあと理奈子は思った。人間って不思議と思った。清楚な人が淫乱になったりするんだから。

「あの、昨日はごめんなさい。私、かなり酔って変なこといっぱい言ったわよね」
「えーと、いえ、気にしてません」
「それで、どうする。あの、新道さんに頼む件。やめとく?」

(新道さんとは仲良くなりたい、恋人になりたいってのが本音なんだけどなあ。でも、土田課長が言ってた、緊縛するとすごく気持ちいいって言葉にも興味がある。新道さんの家に行って、緊縛される。ああ、どうしようかしら。私、新道さんのことが好きなんだから。近くにいるだけでいいって感じよ。だから同じ係で仕事してるだけでもいいんだけど……でも、やっぱり恋人関係になりたい。それに、あの何とも恥ずかしい裸を見られたし。あそこから足首までいやらしい液で濡れてた。こうなったら、もう、告白あるのみよ……好きって言っちゃおうかしら……緊縛を理由にお近づきになって、それで恋仲になる、おかしいかしらね、SM行為で恋仲になるなんて、嫌われないかしら、どうしよう、ああ、でも緊縛にも興味があるのよ……土田課長に言わせると全然危険じゃないってことだし……それに、新道さんに恋人がいるかどうかも探ってみたい……ああ、頭が混乱してくる、私、恋の病に罹ってしまったわって、かっこよすぎるかしら……)

 迷った末、理奈子は土田課長に言った。

「……あの、新道さんにご紹介よろしくお願いいたします……」

……………………………………………………

 昼休みに理奈子は新道に会議室へ呼び出された。誰も居ない会議室。新道と二人きりになって、ドキドキしてしまうと同時に裸を見られたことをまた思い出して恥ずかしくなってしまう。

「……あの、美夜本さん……」
「は、はい」
「課長から言われたんですけど、美夜本さんを、その、緊縛とか拘束してほしいって」

(どうしようかしら。新道さん、あなたが好きなんですって言いたいんだけど。でも、私、言えないのよ……もし、新道さんに恋人がいたらと思うと、怖くて言えないの)

「えーと、その、はい、してください。緊縛に興味があるんです……」
「……そうですか……じゃあ、明日、土曜休日に僕の自宅へ来てくれますか」
「ええ、わかりました。あの、お金はいくら払うのでしょうか」
「無料でいいですよ。でも、僕がこんな副業しているってことは秘密にしてください」
「はい、絶対、誰にも言いません」

 その日、仕事は通常業務。自分も土田課長も新道も普段通りだ。土田課長もいつものやさしくて頭の良い清楚で上品な女性。新道は、これまた普通の穏やかな男性。でも、理奈子にはあの二人の淫らな行為がまた頭に浮かんで来る。

(人間が生まれてくるにはセックスは必要よねえ。でも、何にも考えずにただ入れて終わりってわけじゃないわよね。みんな、何を考えているんだろう。それとも何も考えずに本能のまま、行動しているのかしら、そんなことはないわよねえ。誰でも何かしら妄想を抱えていると思う。でも、そんな風に考えてしまうのは、事実上、処女で、それをこじらせて妙な妄想をしている私だけかしらね。仕事で手一杯の人もいるだろうし、そんなこと考えてばかりなわけないって笑われそうだわ。でも、ネットではポルノが蔓延しているようにも感じる。人間、そのことばかり考えているような気もするなあ。いったい、どっちなのかしら)

 就業時間が終わり、理奈子は帰宅することにした。残業している新道に挨拶する。いつもの通り、小さい声で返事がくる。そして、土田課長を見ると、何だかこっちを見て少し笑った。でも、そんなにいやらしさは感じなかった。元の清楚な課長に戻ったみたいと理奈子は思った。あの変態行為をしていた女性とはやっぱり思えない。やはり人間って不思議と思った。

 帰りの電車の中。
 明日、自分は新道の自宅へ行って、緊縛される。でも、よく考えるとやはり変だなあと思ってしまう。

(新道さんのことが好きなんだから、好きって言えばいいのに、緊縛してくださいって、私、おかしいわ。でも、新道さんに恋人がいて、失恋ってのがすごく嫌なのよねえ、告白して振られたら……多分、新道さんは異動してきたばかりだから、後、一、二年は一緒に仕事するんじゃないかしら。振られた相手とその後も同じ部屋、しかも同じ係、目の前に座っている状況で仕事って、すごくつらいわよ。もう、針の筵状態よ。そんなの嫌よ、SMより痛そう。やはり、ちょっと、探りをいれないとね)

 でも、緊縛ってどんなことをされるんだろうかと少し不安になりつつも、妙な期待もしてしまう。これをきっかけに新道と仲良くなれるかもと思ってしまう。理奈子はデジタルカメラを持って行くことにした。土田課長をスマホで撮影していたのを思い出したからだ。でも、スマホは普段使うから、まずいと思った。

(新道さんに恋人になれなくても、私の恥ずかしい姿を撮影してほしい。もう、いやらしい姿を撮影してほしいの。私は支配されたいの、好きな人に征服されたい、撮影されると、そういう気分になるんじゃないかしらね。ああ、こんなことを考える私って、やっぱりいやらしい女なのかなあ)

……………………………………………………

 次の休日。

 東京の隣の県。昼間の住宅街を歩く理奈子。

(こんな閑静な場所で緊縛とかSMとかしているのかなあ)

 指定された新道の家の前に立つ理奈子。ごく普通の一軒家。二階建て。大きくはない。実は理奈子は自分がオナニーで妄想していた大きな西洋風のお屋敷みたいなのを想像していた。チャイムを押すとすぐに新道が出てきた。

「こんにちは、美夜本さん」
「こ、こんにちは」

 ポロシャツにズボン姿。ごく普通の格好をしている新道。変なSM衣装で新道が出てきたらどう対応すればいいのだろうかと理奈子は思っていた。

「じゃあ、お入りください」
「はい、お邪魔します」
「今日も暑いですね。冷たい麦茶とか飲みますか」
「ええ、お願いいたします」

 今から緊縛なんて変態行為をされるというのに、何とも普通の会話をして、妙な気分になる。居間に通されるが、ごく普通の畳部屋。麦茶を飲みながら、理奈子は新道に聞いた。

「新道さんはこの家にお一人で住んでいるんですか」
「そうですね。昔は家族で住んでたんですけど、親が都内のマンション買って、家族で引っ越しました。でも、僕はこの県の大学に進学したので、近いからそのまま住み続けたんです」
「あの、土田課長から聞いたんですが、その、SMクラブの後継者にされるところだったって聞いたんですけど」
「そうなんですよね。でも、あんまり気が進まなくて。一応、まともな経営、まあ、やっていることは世間的に言えば猥褻行為かもしれませんけどね。でも、暴力団とか反社会的勢力とは関係ないんですよ。ただ、僕は普通に暮らしたいと思って」
「それで、弟さんが後継者になるってことなんですか」
「そうですね。でも、まだ、弟は学生なんですよ。来年、卒業したら、まあ、親父の下で働くようですね」
「新道さんは、このまま、うちの会社で勤務するってことですか」
「そのつもりです。このバイトもそろそろやめるつもりです。縄やロープで縛るなんて練習すれば誰にもできますしね」

 つまり、まともな社会人になるってことだなあと理奈子は思った。そして、肝心の恋人はいますかって聞こうかしら、どうしようと思っていたのだが。

 ああ、勇気が出ないわ。

「じゃあ、始めますか。一時間ほどで」
「え、あ、はい、わかりました」

(まあ、いきなり告白するより、ちょっと様子見でいいかなあ……)
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