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大変だ、地震が起きたぞ! 大変っすね
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俺と相棒、二人組の冒険者パーティー。
普段はスライム退治専門のしょぼいパーティーだ。
今日も冴えないスライム退治で一日が終わり、わずかな報酬を受け取って安宿に泊ることにした。
宿の階段を上ると、二階の廊下に部屋が三つ並んでいる。
俺たちの泊る部屋は一番手前、中はかなり狭い。
ベッドが二台置いてあるだけ。
何もすることないので、さっさと寝ることにした。
すると、深夜。
ベッドが揺れている。
いや、地震だ。
俺は飛び起きた。
相棒に呼びかける。
「おい、大変だ、地震が起きたぞ!」
「……大変っすね」
隣のベッドで目を瞑って、寝たままの相棒。
「おい、あわてるなよ」
「別にあわててないすよ」
依然として、寝たままの相棒。
「おい、地震が起きたのに、なにのんびり寝てるんだよ。こういう時は上から何か落ちてくるかもしれないから、ベッドの下に潜り込め」
「上から落ちてくるって、何も上にないじゃないすか」
「いいか、冒険者となったら、あらゆる危険な状況を考えるんだ。そして、常に最善を尽くす。時にはその危険な状況を逆手に取って行動するんだ。だいたい、何もなくても、もし天井が落ちてきたらどうすんだ」
「もし、天井が落ちてきたとして、この安物ベッドならベッドごと押し潰されて、あの世逝きですよ」
ベッドの下に潜り込もうとする俺を尻目にのんびりと寝返りをうつ相棒。
「お前なあ、ちゃんとしろよ。いかなる時も冷静に最善を尽くすという、冒険者としての気構えが足りないぞ」
「そう言ってる割には、リーダーもベッドの下に入ってないじゃないすか」
「ううむ、腹が出てるのでそれが邪魔して、ベッドの下に潜り込めないんだよ」
「とりあえず、その出腹を何とかしたほうがいいんじゃないすか、リーダーは。冒険者としての気構えが足りないっすね」
「うるさいぞ」
しかし、おっさんともなると自然に腹の脂肪が増えてしまう。
なかなか痩せることが出来ない。
情けないもんだ。
若い頃は、すっきり痩せていたもんだがなあ。
「だいたい、全然、大した地震じゃないすよ。この程度の地震でビビッていたから、結局、スライム退治で人生が終わったんじゃないすか、リーダーは」
「うるさいぞ。それに、まだ、俺の人生は終わってないぞ」
俺は何とかベッドの下に潜り込む。
そうこうしているうちに、揺れが収まった。
もう、大丈夫だろうとベッドの下から這い出ようとしたが、腹が引っかかって、出ることができない。
「おーい、ちょっと引っ張ってくれ。腹がつかえて出れない」
「しょうがないっすねえ」
やれやれといった感じで、やっとベッドから起きだす相棒。
俺の腕を引っ張る。
何とか這い出ることができた。
相棒は再び、ベッドにゴロっと寝る。
「ふう、ありがとう。息が苦しくて危うく死ぬとこだった」
「もし、リーダーが一人で宿泊していたら、地震に怯えて、ベッドの下に潜り込んだあげく窒息死。情けないっすねえ。しかし、リーダーの冴えない人生に相応しい死に方かもしれなかったすね」
「うるさいぞ」
ただ、確かに冴えない人生を送ってきたという自覚はある。
何とかならないものか。
おっと、今は地震の方を考えねば。
「いいか、こういう時は慎重に行動するんだ。よし、まずは火の元の確認だ」
「火の元って、そこの壁に付いている小さいランプだけじゃないすか」
「この揺れで、油が漏れてるかもしれないぞ」
「そうだったら、とっくの昔に火事になってますよ」
確かに、ランプには全く異常無し。
しかし、俺は意地になる。
「次は部屋の扉の確認だ。地震の影響で建物が歪んで開かなくなってるかもしれない」
「そんな薄っぺらい扉、開かなくても簡単にぶち破ることが出来るんじゃないすか」
「ぶち破って、後で宿屋から弁償しろって言われたらどうすんだ」
「せこいっすね、リーダーは。命と扉、どっちが大事なんすか。それに緊急事態なんだからしょうがないっすよ。けど、まあ、今の地震くらいだったら特に影響はないんじゃないすか」
ちっともやる気のない相棒。
「おい、お前のやる気の無さはなんなんだ。まだ若いっていうのに。その調子だと、スライム退治で人生終わってしまうぞ」
「それは嫌っすねえ。リーダーみたいなしょぼくれた人生を送りたくはないっすね」
再び、やれやれといった感じでベッドから起きる相棒。
俺は扉を開けようとするが、なんと開かない。
「おい、大変だぞ。扉が開かない。これは地震の影響だ」
「まさか、あの程度の地震で扉が開かなくなるなんておかしいっすよ」
「けど、開かないぞ。ううむ、これはぶち破るしかないか」
「ちょっと、代わってくれますか」
相棒がドアノブをひねる。
あっさり開いた。
「あれ、何で開いたんだ」
「入った時は気にしなかったけど、この部屋、珍しく外開きっすね。リーダーはもうちょっと冷静に行動してほしいっすね。ぶち破って危うく弁償代請求されるとこだったじゃないすか」
「うーん、何で廊下側に開く構造なんだよ。普通は部屋側だろ」
「この狭い部屋を二人部屋にするためじゃないすか。せこい宿屋っすね。リーダーに相応しい宿っすね」
「うるさいぞって……あれ、焦げ臭い。おいおい、廊下が燃えてるじゃないか」
どうやら廊下の天井の真ん中辺りに設置されていた大きいランプが落ちて、床に火が点いたようだ。
油が多かったのかけっこう火のまわりが早いぞ。
俺は大声で叫んだ。
「大変だ! 火事だー! 火事だー!」
すると、一番、奥の部屋から美少女がびっくりして出てきた。
「おい、そっちは奥だから逃げられないぞ。さっさとこっちに来い」
俺が呼びかけるが、火の勢いがけっこう強くて、女の子はビビッているのか立往生している。
これは無理矢理、火を飛び越えて、あの娘を助けようかと思ったら、真ん中の部屋の扉が開いた。
ローブを身にまとった魔法使いらしき若い男。
なかなかのイケメンだ。
「おや、これは大変」
さっと呪文を唱えると、あっという間に火を消してしまった。
天井のランプもあっさりと元に戻る。
「ありがとうございます」
「いや、大したことはないよ」
さわやかに笑うイケメン魔法使い。
そして、なぜか美少女と見つめ合う。
「あれ、あなたは少し火傷をしているようですね。僕の回復魔法で治癒してあげましょう」
「いいんですか。すみません」
そのまま二人は魔法使いが泊っていた部屋に入る。
「なんだよ、火傷の治療くらい廊下で出来るだろうに」
「まあ、いいんじゃないすか。俺っちらも部屋に戻りましょう」
そぼそぼと部屋に戻る俺と相棒。
「ああ、俺も魔法とか使えたら、ささっと火を消して、あの娘に感謝してもらえたのに」
「そうすね。まあ、リーダーはブサイクだから感謝だけで終わったと思いますけどね」
「うるさいぞ。しかし、若いってのはいいよなあ。おっさんになると出会いも少なくなるんだよなあ」
「リーダーはブサイクだから、最初から出会いが少なかったんじゃないすか」
「うるさいぞ」
とは言え、確かに若い頃からモテたことはなかったな。
しょぼくれた人生だ。
やれやれ。
もう寝るぞ。
すると、ベッドがギシギシと鳴る音が聞こえてきた。
「おい、また地震か」
「いや、揺れてないっすよ」
あれ、何だか隣の部屋から若い女の喘ぎ声が聞こえてくる。
「全く、さっき会ったばかりでけしからん」
「そう言ってるわりにはうらやましそうっすね、リーダー」
「うるさいぞ。お前だってうらやましいんだろ」
「あの男は俺のタイプじゃないっすねえ」
おっと、こいつは男が好きだったなあ。
しかし、清純そうに見えた、あの美少女もやることはやってるわけだ。
全く、うらやましい……いや、けしからん。
そして、だんだんと喘ぎ声が大きくなる。
「おい、これじゃあ、眠れないじゃないか。文句言ってやるか」
「人の恋路を邪魔するもんじゃないすよ。けど、なんだか激しいっすね」
すると隣の部屋から大きな声が聞こえてきた。
「助けて!」
あの美少女が悲鳴をあげてる。
「あれ、これはちょっとおかしいんじゃないすか」
「うむ、ちょっと見てこよう」
相棒と一緒に剣を持って、隣の部屋に行く。
俺は扉を蹴破った。
「あれ、扉の弁償代とか気にしなくていいんすか」
「緊急事態ならいいんだろ」
俺と相棒がどうでもいい会話をしていると、美少女がイケメン魔法使いを突き飛ばして、こちらに駆け寄ってきた。
うーむ、どうやらかなりの変態行為をしようとしたらしいな。
まあ、詳細は省くとするか。
女の子の名誉にかかわるしな。
「おい、変態魔法使い、覚悟しろ」
「その女から部屋に入って来たんだぞ」
「だからと言って、変態行為をしていいわけないだろ」
俺は剣を構える。
しかし、変態魔法使いが杖を持って、呪文を唱えた。
「うわ!」
あっさりと俺たちは廊下に吹っ飛ばされる。
うーん、これはかなり強力な攻撃魔法だ。
床にへばってしまう俺と相棒。
「ふふん、たわいもない連中だな」
ローブを着て、ニヤニヤ笑いながら、再び、攻撃魔法を繰り出そうとする変態魔法使い。
ああ、こんな安宿の廊下で俺の人生は終わるのか。
何ともしょぼい人生であった。
すると、突然、また大きな揺れが起きる。
余震か。
いや、これはかなりの地震だぞ。
「ウギャ!」
悲鳴を上げる変態魔法使い。
変態魔法使いの頭に、上から落ちてきたランプが直撃したようだ。
気絶したところを杖を奪って、ローブで縛ってやった。
大騒ぎしていると、宿屋の主人が現場にやって来たので事情を説明していると、冒険服を着た若い男が姿を見せる。
その男に美少女が駆け寄る。
「おいおい、どうしたんだよ。明日までの予定の仕事が早く終わったんで戻ってきたんだけど」
「変な魔法使いに騙されて、無理矢理部屋に連れ込まれて、ひどい目に遭いそうになったところをこの人たちに助けてもらったの」
若い男が俺たちに礼を言った。
「いやあ、ありがとうございます。彼女は純真な娘なんで。人を疑わない性格なんですよ」
そんなことを言う彼氏の後ろで、必死に俺たちに向かって目くばせをする美少女改め尻軽娘。
無理矢理じゃないだろと突っ込みたくなったが、まあ、黙っててやるか。
変態魔法使いは宿屋の主人が役場へ連行していった。
俺たちは、またそぼそぼと自分の部屋に戻り、ベッドに潜り込む。
「なあ、あの娘が一人だったら感謝してくれて、その後、いい仲になっただろうか」
「だから、何、変な妄想してるんすか。ブサイクは感謝されて、それで終わりですよ。おっさんの妄想ほどキモイものはないっすよ」
「うるさいぞ」
まあ、確かに相棒の言う通りだろうな。
「しかし、あの娘のことはともかくとして、今回は俺の教訓が役に立っただろ」
「何か言いましたっけ、リーダー」
「あらゆる危険な状況を考えて、常に最善を尽くす。時にはその危険な状況を逆手に取って行動するって言っただろ。廊下に誘い込んで、見事、地震の揺れを利用してあの変態魔法使いを倒したじゃないか」
「何言ってんすか。単なる偶然で上からランプが落ちてきただけじゃないすか。地震が起きなければ、下手すりゃ、今頃、火炎魔法か何かで俺っちらは黒焦げになってますよ」
「とにかく地震の時は上から落ちてくるものに気をつけろってのは合ってただろ」
「はいはい、リーダーの教訓のおかげで助かったってことっすかね。まあ、俺っちはもう眠りますよ」
さっさと眠ってしまう相棒。
俺はさっきの変態魔法使いの攻撃で腰を打ってしまったのか痛いのでなかなか眠れない。
それにしても、適当に相棒に言った常に最善を尽くすという言葉。
実際のところ、いつもでたらめな人生だった。
最善を尽くしたことなんてあるのだろうか。
このままスライム退治を続けたあげく、野垂死にか。
いや、とにかく俺はまだ死んでない。
死ぬまでには最善を尽くすぞ。
そう思いながら、俺は眠りについた。
〔END〕
普段はスライム退治専門のしょぼいパーティーだ。
今日も冴えないスライム退治で一日が終わり、わずかな報酬を受け取って安宿に泊ることにした。
宿の階段を上ると、二階の廊下に部屋が三つ並んでいる。
俺たちの泊る部屋は一番手前、中はかなり狭い。
ベッドが二台置いてあるだけ。
何もすることないので、さっさと寝ることにした。
すると、深夜。
ベッドが揺れている。
いや、地震だ。
俺は飛び起きた。
相棒に呼びかける。
「おい、大変だ、地震が起きたぞ!」
「……大変っすね」
隣のベッドで目を瞑って、寝たままの相棒。
「おい、あわてるなよ」
「別にあわててないすよ」
依然として、寝たままの相棒。
「おい、地震が起きたのに、なにのんびり寝てるんだよ。こういう時は上から何か落ちてくるかもしれないから、ベッドの下に潜り込め」
「上から落ちてくるって、何も上にないじゃないすか」
「いいか、冒険者となったら、あらゆる危険な状況を考えるんだ。そして、常に最善を尽くす。時にはその危険な状況を逆手に取って行動するんだ。だいたい、何もなくても、もし天井が落ちてきたらどうすんだ」
「もし、天井が落ちてきたとして、この安物ベッドならベッドごと押し潰されて、あの世逝きですよ」
ベッドの下に潜り込もうとする俺を尻目にのんびりと寝返りをうつ相棒。
「お前なあ、ちゃんとしろよ。いかなる時も冷静に最善を尽くすという、冒険者としての気構えが足りないぞ」
「そう言ってる割には、リーダーもベッドの下に入ってないじゃないすか」
「ううむ、腹が出てるのでそれが邪魔して、ベッドの下に潜り込めないんだよ」
「とりあえず、その出腹を何とかしたほうがいいんじゃないすか、リーダーは。冒険者としての気構えが足りないっすね」
「うるさいぞ」
しかし、おっさんともなると自然に腹の脂肪が増えてしまう。
なかなか痩せることが出来ない。
情けないもんだ。
若い頃は、すっきり痩せていたもんだがなあ。
「だいたい、全然、大した地震じゃないすよ。この程度の地震でビビッていたから、結局、スライム退治で人生が終わったんじゃないすか、リーダーは」
「うるさいぞ。それに、まだ、俺の人生は終わってないぞ」
俺は何とかベッドの下に潜り込む。
そうこうしているうちに、揺れが収まった。
もう、大丈夫だろうとベッドの下から這い出ようとしたが、腹が引っかかって、出ることができない。
「おーい、ちょっと引っ張ってくれ。腹がつかえて出れない」
「しょうがないっすねえ」
やれやれといった感じで、やっとベッドから起きだす相棒。
俺の腕を引っ張る。
何とか這い出ることができた。
相棒は再び、ベッドにゴロっと寝る。
「ふう、ありがとう。息が苦しくて危うく死ぬとこだった」
「もし、リーダーが一人で宿泊していたら、地震に怯えて、ベッドの下に潜り込んだあげく窒息死。情けないっすねえ。しかし、リーダーの冴えない人生に相応しい死に方かもしれなかったすね」
「うるさいぞ」
ただ、確かに冴えない人生を送ってきたという自覚はある。
何とかならないものか。
おっと、今は地震の方を考えねば。
「いいか、こういう時は慎重に行動するんだ。よし、まずは火の元の確認だ」
「火の元って、そこの壁に付いている小さいランプだけじゃないすか」
「この揺れで、油が漏れてるかもしれないぞ」
「そうだったら、とっくの昔に火事になってますよ」
確かに、ランプには全く異常無し。
しかし、俺は意地になる。
「次は部屋の扉の確認だ。地震の影響で建物が歪んで開かなくなってるかもしれない」
「そんな薄っぺらい扉、開かなくても簡単にぶち破ることが出来るんじゃないすか」
「ぶち破って、後で宿屋から弁償しろって言われたらどうすんだ」
「せこいっすね、リーダーは。命と扉、どっちが大事なんすか。それに緊急事態なんだからしょうがないっすよ。けど、まあ、今の地震くらいだったら特に影響はないんじゃないすか」
ちっともやる気のない相棒。
「おい、お前のやる気の無さはなんなんだ。まだ若いっていうのに。その調子だと、スライム退治で人生終わってしまうぞ」
「それは嫌っすねえ。リーダーみたいなしょぼくれた人生を送りたくはないっすね」
再び、やれやれといった感じでベッドから起きる相棒。
俺は扉を開けようとするが、なんと開かない。
「おい、大変だぞ。扉が開かない。これは地震の影響だ」
「まさか、あの程度の地震で扉が開かなくなるなんておかしいっすよ」
「けど、開かないぞ。ううむ、これはぶち破るしかないか」
「ちょっと、代わってくれますか」
相棒がドアノブをひねる。
あっさり開いた。
「あれ、何で開いたんだ」
「入った時は気にしなかったけど、この部屋、珍しく外開きっすね。リーダーはもうちょっと冷静に行動してほしいっすね。ぶち破って危うく弁償代請求されるとこだったじゃないすか」
「うーん、何で廊下側に開く構造なんだよ。普通は部屋側だろ」
「この狭い部屋を二人部屋にするためじゃないすか。せこい宿屋っすね。リーダーに相応しい宿っすね」
「うるさいぞって……あれ、焦げ臭い。おいおい、廊下が燃えてるじゃないか」
どうやら廊下の天井の真ん中辺りに設置されていた大きいランプが落ちて、床に火が点いたようだ。
油が多かったのかけっこう火のまわりが早いぞ。
俺は大声で叫んだ。
「大変だ! 火事だー! 火事だー!」
すると、一番、奥の部屋から美少女がびっくりして出てきた。
「おい、そっちは奥だから逃げられないぞ。さっさとこっちに来い」
俺が呼びかけるが、火の勢いがけっこう強くて、女の子はビビッているのか立往生している。
これは無理矢理、火を飛び越えて、あの娘を助けようかと思ったら、真ん中の部屋の扉が開いた。
ローブを身にまとった魔法使いらしき若い男。
なかなかのイケメンだ。
「おや、これは大変」
さっと呪文を唱えると、あっという間に火を消してしまった。
天井のランプもあっさりと元に戻る。
「ありがとうございます」
「いや、大したことはないよ」
さわやかに笑うイケメン魔法使い。
そして、なぜか美少女と見つめ合う。
「あれ、あなたは少し火傷をしているようですね。僕の回復魔法で治癒してあげましょう」
「いいんですか。すみません」
そのまま二人は魔法使いが泊っていた部屋に入る。
「なんだよ、火傷の治療くらい廊下で出来るだろうに」
「まあ、いいんじゃないすか。俺っちらも部屋に戻りましょう」
そぼそぼと部屋に戻る俺と相棒。
「ああ、俺も魔法とか使えたら、ささっと火を消して、あの娘に感謝してもらえたのに」
「そうすね。まあ、リーダーはブサイクだから感謝だけで終わったと思いますけどね」
「うるさいぞ。しかし、若いってのはいいよなあ。おっさんになると出会いも少なくなるんだよなあ」
「リーダーはブサイクだから、最初から出会いが少なかったんじゃないすか」
「うるさいぞ」
とは言え、確かに若い頃からモテたことはなかったな。
しょぼくれた人生だ。
やれやれ。
もう寝るぞ。
すると、ベッドがギシギシと鳴る音が聞こえてきた。
「おい、また地震か」
「いや、揺れてないっすよ」
あれ、何だか隣の部屋から若い女の喘ぎ声が聞こえてくる。
「全く、さっき会ったばかりでけしからん」
「そう言ってるわりにはうらやましそうっすね、リーダー」
「うるさいぞ。お前だってうらやましいんだろ」
「あの男は俺のタイプじゃないっすねえ」
おっと、こいつは男が好きだったなあ。
しかし、清純そうに見えた、あの美少女もやることはやってるわけだ。
全く、うらやましい……いや、けしからん。
そして、だんだんと喘ぎ声が大きくなる。
「おい、これじゃあ、眠れないじゃないか。文句言ってやるか」
「人の恋路を邪魔するもんじゃないすよ。けど、なんだか激しいっすね」
すると隣の部屋から大きな声が聞こえてきた。
「助けて!」
あの美少女が悲鳴をあげてる。
「あれ、これはちょっとおかしいんじゃないすか」
「うむ、ちょっと見てこよう」
相棒と一緒に剣を持って、隣の部屋に行く。
俺は扉を蹴破った。
「あれ、扉の弁償代とか気にしなくていいんすか」
「緊急事態ならいいんだろ」
俺と相棒がどうでもいい会話をしていると、美少女がイケメン魔法使いを突き飛ばして、こちらに駆け寄ってきた。
うーむ、どうやらかなりの変態行為をしようとしたらしいな。
まあ、詳細は省くとするか。
女の子の名誉にかかわるしな。
「おい、変態魔法使い、覚悟しろ」
「その女から部屋に入って来たんだぞ」
「だからと言って、変態行為をしていいわけないだろ」
俺は剣を構える。
しかし、変態魔法使いが杖を持って、呪文を唱えた。
「うわ!」
あっさりと俺たちは廊下に吹っ飛ばされる。
うーん、これはかなり強力な攻撃魔法だ。
床にへばってしまう俺と相棒。
「ふふん、たわいもない連中だな」
ローブを着て、ニヤニヤ笑いながら、再び、攻撃魔法を繰り出そうとする変態魔法使い。
ああ、こんな安宿の廊下で俺の人生は終わるのか。
何ともしょぼい人生であった。
すると、突然、また大きな揺れが起きる。
余震か。
いや、これはかなりの地震だぞ。
「ウギャ!」
悲鳴を上げる変態魔法使い。
変態魔法使いの頭に、上から落ちてきたランプが直撃したようだ。
気絶したところを杖を奪って、ローブで縛ってやった。
大騒ぎしていると、宿屋の主人が現場にやって来たので事情を説明していると、冒険服を着た若い男が姿を見せる。
その男に美少女が駆け寄る。
「おいおい、どうしたんだよ。明日までの予定の仕事が早く終わったんで戻ってきたんだけど」
「変な魔法使いに騙されて、無理矢理部屋に連れ込まれて、ひどい目に遭いそうになったところをこの人たちに助けてもらったの」
若い男が俺たちに礼を言った。
「いやあ、ありがとうございます。彼女は純真な娘なんで。人を疑わない性格なんですよ」
そんなことを言う彼氏の後ろで、必死に俺たちに向かって目くばせをする美少女改め尻軽娘。
無理矢理じゃないだろと突っ込みたくなったが、まあ、黙っててやるか。
変態魔法使いは宿屋の主人が役場へ連行していった。
俺たちは、またそぼそぼと自分の部屋に戻り、ベッドに潜り込む。
「なあ、あの娘が一人だったら感謝してくれて、その後、いい仲になっただろうか」
「だから、何、変な妄想してるんすか。ブサイクは感謝されて、それで終わりですよ。おっさんの妄想ほどキモイものはないっすよ」
「うるさいぞ」
まあ、確かに相棒の言う通りだろうな。
「しかし、あの娘のことはともかくとして、今回は俺の教訓が役に立っただろ」
「何か言いましたっけ、リーダー」
「あらゆる危険な状況を考えて、常に最善を尽くす。時にはその危険な状況を逆手に取って行動するって言っただろ。廊下に誘い込んで、見事、地震の揺れを利用してあの変態魔法使いを倒したじゃないか」
「何言ってんすか。単なる偶然で上からランプが落ちてきただけじゃないすか。地震が起きなければ、下手すりゃ、今頃、火炎魔法か何かで俺っちらは黒焦げになってますよ」
「とにかく地震の時は上から落ちてくるものに気をつけろってのは合ってただろ」
「はいはい、リーダーの教訓のおかげで助かったってことっすかね。まあ、俺っちはもう眠りますよ」
さっさと眠ってしまう相棒。
俺はさっきの変態魔法使いの攻撃で腰を打ってしまったのか痛いのでなかなか眠れない。
それにしても、適当に相棒に言った常に最善を尽くすという言葉。
実際のところ、いつもでたらめな人生だった。
最善を尽くしたことなんてあるのだろうか。
このままスライム退治を続けたあげく、野垂死にか。
いや、とにかく俺はまだ死んでない。
死ぬまでには最善を尽くすぞ。
そう思いながら、俺は眠りについた。
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