屈辱と愛情

守 秀斗

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最終話:愛しているなら私にもっと屈辱を与えてほしい

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 雅弘が帰った後、志穂は部屋に戻る。カバンを探ってみた。一郎がくれたキーホルダー。ハート型をして気に入っていたのだが、ドライバーを使って開けてみた。すると、中には何かの機械が入っている。キーホルダーにこんなものは必要ない。

 志穂はさらに不安になって一郎の部屋に行く。掃除では何度か入ったが、これまで、中を詳しく調べるとかはしたことはない。今は鏡の部屋を作ったおかげで、部屋の中がごちゃごちゃして整理されていない。仕事机に置いてあるパソコンを立ち上げてみた。パスワードも無しで立ち上げることが出来た。ファイルの中身やらネットの履歴とかを見たが特におかしなことは無かった。仕事関係のことばかりだ。

(どうゆうことなのかしら……雅弘さんが大げさに言っただけかしら……でも、飯田さんのことが気になるわ……)

 ベッドの下を探ってみる。特におかしなものはなかった。本棚も異常無し。真面目な本ばかり。しかし、例の未整理になっている箱を開けてみた。すると、中にはSMプレイに使うと思われる道具がどっさりと入っていた。志穂はびっくりしてしまう。志穂にはよくわからない道具も入っている。

(夫はSMには興味ないみたいなことを言ってたけど、やはりそういう趣味があったんだ……)

 志穂はまた仕事机に座って考える。

(そういう趣味を持っていて、最初はなぜ私にはしなかったのだろう。最近はソフトSMっぽい行為はしているけど。訴訟沙汰になってやめたのかしら。それとも他に女性がいて、そういう行為をしているのかしら)

 そして、志穂は仕事机と壁の間を探ってみる。薄いノートパソコンを見つけた。立ち上げるとパスワードを入れなくてはいけないのだが、付箋紙が付いていた。案外、適当な人なのかなあとパソコンを起動する。すると、いきなり自分の全裸姿が壁紙になっているのでびっくりしてしまう。最近、撮影した鏡の部屋の画像。あのお尻を突き出してアナルビーズを後ろの穴から垂らしているなんとも淫らで恥ずかしい格好の志穂。その壁紙を見て顔が赤くなってしまう。

(まあ、恥ずかしいけど、これくらいならいいかなあ、一郎さんしか見てないんだから)

 その後、ファイルの中身を探っていく。全部、志穂のいやらしい姿ばっかり。でも、最近撮影したものばかりだ。全部、夫には見られている。だから、別にかまわないかなあと志穂は思った。それに普通のスナップ写真もあった、きれいに写っている画像ばかりだ。付き合っていたころの写真。

 しかし、ある動画で気付いてしまった。その動画では志穂は自分の部屋でオナニーをしている。志穂はショックを受けてしまった。

(私の部屋に監視カメラがどこかにあるんだわ)

 志穂がバイブを入れてベッドの上で全裸になって、激しくオナニーをしている。他にも玄関の鏡の前で裸になってオナニーをしている動画。

(夫は私の秘密を知っていたんだ。ずいぶん前から。だから、私がベッドの下の箱に入れたSM道具とか換気口に置いてあったビデオカメラやデジカメ、そして、重たい机の裏に隠したあの恥ずかしいSMショーの動画が保存されているUSBメモリとかの場所は知ってたんだ)

 他にも、トイレで用を足す動画。でも、おかしいと志穂は思った。このマンションのトイレではない。結婚前に自分が住んでいた安アパートのトイレ。

(付き合っていた頃から監視されていたんだわ……私、アパートでよくオナニーをしていた……淫らな道具を使って……そのことを全部知ってたんだ、一郎さんは……)

 一郎本人の普通の画像もあったが、他にも志穂を隠し撮影した画像や動画がいっぱい出てきた。その内容は、普通の日常生活のもあれば、すごくいやらしいオナニーをしている動画もたくさんあった。しかし、一番、衝撃的だったのは、夫と元カレが一緒に写っている画像だった。

(夫は元カレと知り合いだったんだ……)

 志穂はもう一度、SMグッズが入った箱の中を探してみる。封筒が入っていた。開けてみると、「性奴隷受渡し契約書」なるものが入っていた。元カレと夫がサインしている。金額は五百万円。そして、その性奴隷とは志穂だった。すっかりショックを受けてしまう志穂。

(元カレの借金を夫が立て替えたんだ。だから、ヤクザがあっさりと私の前から消えた。その代わり、私を差し出すように言われたんだわ。でも、こんな契約書まで作るなんて。意味無いと思うけど……妙なところで真面目な人ね……)

 他にも素人が参加するSMショーの申し込みの書類。出演者に何をさせるかを夫が指示を出していた。本気でオナニーをさせた後、放尿させると書いてある。出演料も夫が出している。

(あの時、主催者に言われたんだけど、放尿なんて元カレの指示ではなかったんだ。夫がやらせたんだわ。だから、元カレは驚いたんだ……)

 この前に会った元カレの表情を思い出す志穂。志穂のお願いに何とも言えない表情をしていた。

『夫には見られたくないの……特に、その、SMショーの動画』

(元カレは多分知っていたんだ、夫が私のショーを見ていたことを)

 そして、例のSMショーに出た動画を探して再度見てみる。最初の志穂の登場シーンでよく見ると一郎らしき人物の後姿が見える。今まで、何度もこの動画を見ていたが、気付かなかった。

(あのショーに出た頃から、元カレは急に冷たくなった。一郎さんに私を渡せって言われたのかもしれない。そして、一郎さんは、私をSMショーで本気でオナニーをさせたり、放尿させたりした……)

 志穂は愕然としてしまう。他にも音声だけのファイルをいくつか聞いた。例の飲み会もそこにあった。しかし、志穂は夫に満足していないとは言ってなかった。言ったのは同僚の女性。志穂は曖昧な返事をしているだけ。

 そして、気になって例の小説サイトを見る。ログインされたままになっていた。自分の書いた小説はもう削除したので読めない。しかし、そのサイトでのコメント欄のハンドル名を入れる部分に薄く書かれた文字。それは志穂が小説を書いていた頃、やたらコメントを書いてくる人のハンドル名だった。おそらく、小説サイトに投稿したことがあるのは元カレから聞いたのだと志穂は思った。

 いくつかのコメントの内容が思い出されてくる。

『男に支配されて征服されるのが、女が本能的に求めていること。強いオスに犯されて、男の白濁液を中に出されて絶頂へいくのがメスの幸せ』

(……これは夫の考えかしらね)

『もっと主人公の夫を情けない人物に描写しないと、盛り上がらない』

(そうさせて、後で追及して私に罪悪感を与えたかったのかしら……)

『子宮口の性感帯近くの腸内部分を刺激すれば女をいかせてやれる』

(道理で、アナルセックスで私をいかせてくれたわけだ。何も知らないって言ってたようだけど、経験豊富なんじゃないかしら、あの人)

 他にもいろんなことをコメントで書いてきたので、全部そのまま小説に載せた。あそこで性奴隷契約書に押印させるってのも書いた。自分はいつの間にか夫にコントロールされていたのかしらと志穂は思った。一旦、志穂は自分の部屋に行って、自分のパソコンを立ち上げる。自分がなぜ小説を再び書き始めたか思い出そうとした。そう、メールが着たはず。サイトからの宣伝メール。でも、アドレスを確認するとその小説サイトから来たものではない。全然、違うアドレスだった。

(これも一郎さんが出したのかなあ、私に小説を書くように誘導したのかしら。私が官能小説を書かなかったらどうしてたんだろう。多分、他の方法を考えて私を隷属化したのかしらね)

 よろよろと自分の部屋を出てリビングルームの椅子に座り込む志穂。周りを見回す。リビングルームも盗撮されているかもしれないと思った。そうすると、この前にリビングルームでした自分の派手なオナニー行為も録画されているんだろうなあと思った。

(最初に出会った頃は営業先で挨拶しただけで、一郎さんは私に関心を持たなかった。でも、元カレに振られてからは、私に急に接近してきたなあ。従順で何でも言う事を聞く女がいる、そして、その女は実はかなり淫らな女だって教えてもらったのかしら、元カレに。その後はずっとやさしかった夫。でも、私のことを監視していた。そして、私に罪悪感を植え付ける機会を狙ってたのかしら、私を性奴隷にするために。それとも仕事が忙しくて、最近ようやく時間が出来たので、本格的に私を調教しようとしたのかしらね……)

『君は大人しくて優しくて清純で真面目な女性だと思ってたんだけどなあ』

(そんなことを夫は言っていた。ウソをついていたんだ、私が清純なわけないってことは知ってたんだ。演技がうまいわね。でも、私もずっとウソをついてたようなもんね。清純派を装っていた。夫に気に入られようとして。外見も気に入ったけど、その経済力に魅かれたんだと思うわ)

 志穂はリビングルームでぼんやりとする。

 夫は激しく愛してくれたけど、無表情だった。つまらなかったんだろうか。もっと過激なことをしたかったんだろうか。でも、今はあんな鏡の部屋なんか作った。これから私をもっと調教するのかと志穂は思った。でも、そんなに危険な感じはしない。子供とか欲しくないのかなあと思ったが、まだ、時間はあるし、おいおい話せばいいかしらとも思った。それに、自分ももう少しセックスを楽しみたい、虐められてもいい、自分は屈辱を受けるのが好きないやらしい女と自覚している、むしろもっと淫らで恥ずかしい目に遭いたいとも思って、また顔が赤くなる志穂。

(……それでいいわよ。夫はもっと私を恥ずかしい目に遭わせる気なんだろう、でも、それは一郎さんなりの愛し方なのかしらね。いいわ、それで。私は淫らな女なんだから。そんな私に夫が呆れてしまうんじゃないかと心配だったけど、でも、大丈夫ね。むしろ淫らな女が好きなんじゃないのかしら。それに、どんな形でも私を愛してくれればいいの。別にいいわ、もっと屈辱を与えられても。私も夫を愛しているわ。今、見たパソコンや段ボール箱の中身の件は夫には言わないでおこう……)

『志穂義姉さん、大人しくて優しくて真面目なんで、兄貴の言いなりになっているんではないかと心配になって』

 夫の弟さんの言葉を思い出す。

(雅弘さんは勘違いしてるわ。私は大人しいのではなく、単に気が弱いだけ、自分では何も判断できない。優しくもない、相手の顔色を伺って、何事も言いなりになってる女。そして、真面目でもないわ、実はものすごくいやらしいことばかりを考えている淫乱女……)

『君の全てを支配したいくらいさ、君の全てを知りたいんだ』

(いいわ、別に。私は大した女じゃないしね。何の能力もない頭の悪い、ただ流されやすい女。元カレに言われたっけ。『趣味はオナニーをすることだけ。他に何の能力もない』。合ってるわよ。そんな私を性奴隷にすればいいわ。あそこで契約書に押印してもいいわ。もしかしたら野外でされたり、SMショーに出されるかもしれない、いろんな恥ずかしいことを大勢の前でやらされるかも。でも、一郎さんの命令なら喜んでするわ……気持ち良くしてくれるならね)

 志穂は一郎が隠していたノートパソコンの中身を思い出す。

(それに嬉しいこともあった。パソコンにあった画像や動画に映っているの女は私だけ。一郎さんは私のことを大事にしてくれそうだわ、例えペットかおもちゃ扱いでもね。一生、おもちゃを壊したくないんでしょ。これも愛かしらね。まあ、もし本当に危険な目に遭わせられるようなことになったら、弟の雅弘さんに連絡すればいいわ。あの弟さん、人が良さそうだもんね。とにかく夫は私だけを見てくれる。性奴隷、いいわよ、私もそういう願望があったもん。性奴隷に調教されること。快感を与えてくれるならいいわ、もっと気持ち良くなりたいの、私は性奴隷になりたいの……それに、やっぱり夫の経済力には魅力を感じるわ。夫しか頼れる人はいないし。所詮、私はいやらしい女なのよ。でも、ひとつしてほしいことがあるの。前にも考えたこと。単純なことだけど)

……………………………………………………

 一郎が退院した。
 しかし、しばらく家で休むことにしたようだ。

 ある日の夜。
 志穂は一郎の部屋にいった。ベッドで横になっている一郎が、入って来た志穂の格好を見てびっくりする。志穂は裸で身に着けているのは首輪だけだ。

「志穂、悪いけどまだ足首が完全に治ってなくて、ちょっと無理なんだけど」
「いえ、別にセックスしたいわけではないです」
「じゃあ、どうしたの」
「あらためて言いにきたんですよ。私って淫らな女なんです、いやらしい女ですよ。どうしようもない女です。何の取柄もないです。大した女じゃありません。これからも、私を虐めて、辱めて、支配して、征服してくださいませ。完璧な性奴隷に調教していただいてかまいませんよ。私の身も心も全て一郎さんに捧げます。どんな恥ずかしい行為、淫らな行為、屈辱的な行為をしてもいいですよ。いえ、もっと屈辱を与えてください、私もその方が気持ちいいから。そして、愛してほしいです。でも、ひとつだけしてほしいことがあるんです」
「な、なんだよ」
「あなたが私を徹底的に責めて満足したら、してほしいんです。抱きしめてほしい。女はそれさえしてくれればいいんですよ。私は一郎さんを本気で愛してますよ。一郎さんも私を一生愛してくれるんですよね。抱きしめてくれますか」
「……あ、ああ、いいよ」
「ありがとうございます……」

 志穂はベッドに滑り込む。一郎に裸のまま抱き着いた。そして、淫らな顔で一郎を見る。

「一郎さん、女を調教する時は、もう徹底的に女を虐めて辱めて屈辱を与えて、プライドもズタズタにしてほしいですね。でも、一番大事なのは、それが終わった後は思いっ切り女に甘えさせることですよ」

 志穂は一郎の分厚い胸に顔を擦る。

「ああ、気持ちいいです……これからも私にもっと屈辱を与え続けてください、そして愛してほしいです。私だけを一郎さんの完璧な性奴隷にしてほしいです。私だけですよ、他の女はだめですよ……そうすれば、あなたは『完全に私のものになる』から……もう、一生離しませんからね……」

〔END〕
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