人生について考える

守 秀斗

文字の大きさ
10 / 16

10.人生あっという間だよ

しおりを挟む
 病室に入る。
 個室のベッドには父親が横になっている。

 俺が来たのに気付いたのか目だけが動いた。
 もう父はほとんど体が動かせない。

 ALS(筋萎縮性側索硬化症)などの病気ではない。
 医者に言わせると、要するに「老衰」だってことだ。

 もう父は喋ることも出来ない。
 俺は見舞いに来ても、ただベッドに寝ている父を見ているだけだ。

 話しかけても反応がない。
 そして、元々、父とはあまり会話がなかったなあと思い出す。
 あまり仲もよくなかったな。

 大学時代を思い出す。
 希望の大学に入れなかった俺は、すっかりだらけた生活を送っていた。

 母とはよく口論になったものだ。
 しかし、父は何も言ってこない。

 ただ、一度だけ、俺に言ったことがある。

「人生あっという間だよ」

 その時はよくわからなかったが、自分も年を取ると、あっという間の人生だったなあと思う。
 特に就職してからは忙しくて、気が付いたらおっさんになっていた。
 そして、わりとよく喋った母も、もうこの世にいない。

 仕事ばかりの人生。
 いまだに独身だ。

 幸い、俺には兄がいて、その嫁さんがしっかりもので、父の面倒も見てくれる。
 俺は休日に父の見舞いに来るだけだ。

 そして、何も喋らない父とただ一時間くらい部屋に一緒にいる。
 父は、今、何を考えているのだろう。
 それとも何も考えていないのだろうか。

 ただ、俺は椅子に座っているだけ。
 時間が経つのが遅い。
 
「人生あっという間だよ」

 でも、この時間は長く感じると俺は思う。
 そして、俺はこの先、一人でどうなるのだろうとも思う。
 自分は何も成し遂げていないようにも感じる。

「これから、俺はどうなるのかなあ」

 つい、父に向かって言ったが、当然のごとく返事は無い。
 
 人生あっという間か。
 俺もいずれ死ぬんだろうな。

 もうだいぶ年を取った。
 この先、何も無いのでは、何をしようにも時間はもう無いのでは。

 そんなことを考えてしまう。
 人生あっという間だからな。

 一時間経った。

「それじゃあ」

 俺は父に声をかけて病室を出ようとした。
 すると父が言った。

「……人生は長い、今からでも何か出来るぞ……」

 えっ! と驚いて振り向いた。
 しかし、父は目を瞑っている。

 今のは空耳だったのかなあ。
 今から何か出来るか。

 そうなのだろうか。
 わからない。

 しかし、ただ何となく生きていくだけの人生を過ごすのはやめようかなあと俺は思った。
    
(終)
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

夫婦交換

山田森湖
恋愛
好奇心から始まった一週間の“夫婦交換”。そこで出会った新鮮なときめき

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

同じアパートに住む年上未亡人美女は甘すぎる。

ピコサイクス
青春
大学生の翔太は、一人暮らしを始めたばかり。 真下の階に住むのは、落ち着いた色気と優しさを併せ持つ大人の女性・水無瀬紗夜。 引っ越しの挨拶で出会った瞬間、翔太は心を奪われてしまう。 偶然にもアルバイト先のスーパーで再会した彼女は、翔太をすぐに採用し、温かく仕事を教えてくれる存在だった。 ある日の仕事帰り、ふたりで過ごす時間が増えていき――そして気づけば紗夜の部屋でご飯をご馳走になるほど親密に。 優しくて穏やかで――その色気に触れるたび、翔太の心は揺れていく。 大人の女性と大学生、甘くちょっぴり刺激的な同居生活(?)がはじまる。

彼の言いなりになってしまう私

守 秀斗
恋愛
マンションで同棲している山野井恭子(26才)と辻村弘(26才)。でも、最近、恭子は弘がやたら過激な行為をしてくると感じているのだが……。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

(完)百合短編集 

南條 綾
恋愛
ジャンルは沢山の百合小説の短編集を沢山入れました。

借金した女(SМ小説です)

浅野浩二
現代文学
ヤミ金融に借金した女のSМ小説です。

17歳男子高生と32歳主婦の境界線

MisakiNonagase
恋愛
32歳の主婦・加恋。冷え切った家庭で孤独に苛まれる彼女を救い出したのは、ネットの向こう側にいた二十歳(はたち)と偽っていた17歳の少年・晴人だった。 「未成年との不倫」という、社会から断罪されるべき背徳。それでも二人は、震える手で未来への約束を交わす。少年が大学生になり、社会人となり、守られる存在から「守る男」へと成長していく中で、加恋は自らの手で「妻」という仮面を脱ぎ捨てていく…

処理中です...