人生について考える

守 秀斗

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12.もっと恋愛すれば良かったかしら

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「もっと恋愛すれば良かったかしら」

 会社の食堂で課長が仲の良い同僚にそう言ったのを聞いて、私はびっくりしてしまった。
 ちょうど、彼女たちとは背を向けて、テーブルで一人昼食をとっていたのだけど。

 私はもう三十才の女。
 独身。
 彼氏なんていたことはない。

 告白したこともないし、当然、されたこともない。
 暗い青春だったなあ。
 恋愛なんて、妄想の世界。映画やテレビでの出来事だと思っていた、自分には。

 理由は簡単で器量が悪いから。
 顔がダメでも性格が良ければ結婚している女性もいるけど、私は暗い。

 正直、あきらめている。
 お一人様の本を買って読んだりしている。

 そして、先程の「もっと恋愛すれば良かったかしら」発言の課長。
 一般職の私と違って、キャリア組。総合職ね。

 私と同じ三十才。
 もう結婚されていて、お子さんも一人。

 そして、すごい美人さんで、子供がいるとは思えないスタイル抜群の女性だ。
 学生時代はモテモテだったろうなあと勝手に羨んでいた。

 課長の発言に驚いたのは私だけではないようだ。
 同僚が課長に聞いている。

「えー、課長、恋愛してないんですか。でも、結婚してますよねえ」
「旦那とは親の紹介で知り合ったの。まあ、この人でいいかって感じで結婚しちゃった」

「でも、学生の頃はいろんな恋愛遍歴とかしたんじゃないんですか」
「中学生以降、ずっと女子校だけなの。大学も女子大。親が厳しくて、門限六時だもん。デートもしたことないのよ。告白もされたことないし、あっと、したこともないか」

「旦那さんはどうなんですか」
「親が決めたようなもんよ」

 なんだかため息をつく課長。

「それで結婚、子育てと仕事が忙しくて、気が付いたら三十才よ。やれやれよ」
「でも、今からでも遅くはないんじゃないですか」
「何言ってんのよ、不倫になっちゃうじゃない。それに旦那とは仲がいいしね。まあ、これでいいかな」

 あら、そうなんだと私は思った。
 私と同じ青春じゃないの。
 
「でも、一度くらい燃えるような恋愛をしたかったなあ。唯一の共学だった小学生の頃も何もなかったのよ、いつもクラスでは女子でかたまっていたし」

 また課長が話している。
 そして、私は急に小学校の頃を思い出した。

 隣の席に座っていた男の子。
 その男の子となぜか遊園地に行ったことがあるなあ。

 そう、何やら入場料の割引券が手に入ったってことで誘われたんだ。
 楽しかった。
 あの男の子とはそれだけだったけど。

 異性と遊びに行ったなんて、あの日だけだなあ。
 課長にはそんな思い出もないのかなあ。
 あんな美人さんなのに。

 まあ、今は旦那さんと幸せのようでいいんだろうけど。

 そして、同僚が課長をからかっている。

「一度くらい、浮気してもいいんじゃないですか」
「バカね。家庭を壊す気はないわ。まあ、恋愛なんて、人それぞれよ。してもいいし、しなくてもいいの」

 そうなのかな。
 私にはわからないな。

 でも、あんな美人さんでも恋愛経験が無いと知って、少し気が休まった。
 
 ああ、けど私も今から頑張ってみようかなあ。
 無理かなあ。

(終)
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