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強盗団Ω VS 特権階級α
中里啓二(Ω)
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その料亭は山道を上がった先にあり、夜は真っ暗で何も無い場所にポツンと灯りが灯された、しかし大変立派な建物だと分かる。
外車が一台横づけに停まり、後部座席から中里が降りた。外車は中里を降ろすと料亭の駐車場へ向かい走り去る。
日本式の門をくぐり、従業員に部屋へ案内された。渡り廊下を歩く際に通りかかる部屋はほぼ客で埋まっている様子だが、非常に静かで話声が殆どしない。
案内された和室には、すでに待ち合わせ相手が到着していた。ホステスらしき女に酌をさせ、顔を赤くしている。純一は酒が強い。これだけアルコールが回っているという事は、相当飲んだのだろう。
海老ケ瀬純一、旧財閥海老ケ瀬グループCEOの席を息子の徹に譲り、現在は与党代議士をしている。妻は天皇家に非常に近い血筋の旧華族令嬢。純一は与党民事党のフィクサーと呼ばれており、警察、裁判官、マスメディア何もかもを掌中に収めている。つまり純一を押さえれば、それら全てを好きにできるという事だ。
純一と中里の関係は十何年に渡る。純一の望む汚れ仕事を引き受ける見返りに、様々なお目こぼしをしてもらい、度々中里は上納金を純一に納めていた。金持ち程金にがめつく、金はあればもっと欲しくなるというのが人間のサガである。
中里に汚れ仕事を依頼している事等は、暴露されたところで純一が困る事はまあ無い。αは何をやっても無罪であるし、また彼は政治家でもあるわけだが、圧倒的多数を占めるβは権威というものに弱いためこれくらいの醜聞でそっぽを向く事は無いため、選挙で困る事も無い。
そして何より、Ωの言う事になど誰も耳をかさない。
純一は中里をいつでも切れる立場であり、中里はそうではない。しかし、中里は今夜それを逆転してみせるつもりだった。
「突然何だね、見せたいものがあるって?」
純一は赤ら顔にトロンとした目、頬をだらしなく緩ませニヤけている。彼は中里が金を持って来たと思ったのだ。
「ご子息の件です。」
「何?!あいつが見つかったのか。」
純一は緩んだ顔を少し引き締め言った。ホステスらしき女が空気を読み、席を外した。
「ご子息は未だ行方知れずですが、関りのある人物を見つけました。そして彼らが保管していたのがこれです。」
中里はパソコンを持ち出し、テーブルに置いてディスプレイが純一に見えるようにした。
映像を流し始めると、純一の顔色が見る見る強張り、酒で赤くなった顔が真っ青になった。
「な…何だ、これは…一体…」
「ご子息がどこぞのΩとお楽しみの様子ですね。」
「冗談じゃない!どう見てもこれは…息子がΩのチンピラに手籠めにされているんじゃないか!…こんなものが出回ったら…海老ケ瀬家は世間の笑いものだ!株も大暴落だぞ!数か月後の選挙にも…あの愚息め!」
純一は悔しそうに、腹立たしそうに呻った。
「息子さんの行方を知る者達の言い分は、息子さん夫妻に関して警察沙汰にしない事、だそうです。でなければ動画をばら撒くと…」
「な、何だと?!Ωの分際でこの私を脅すつもりか?!中里、このデータを持っているチンピラ全員何とかしろ!」
中里はゆっくり口角をつり上げ、純一を見た。
「αは頭の巡りが悪くて困りますね。」
「何だと?!きさま、一体誰に口をきいて…」
「今やこの動画の持ち主には、私も含まれているんですよ?もちろん、データはコピーしており私の無事が確認できなければ全国に公開される手筈です。」
純一は息を飲み、ようやく事態を認識した。顔を赤くしたり青くしたりしながら、結局中里の提示する条件をのんだのである。
翌朝、海老ケ瀬グループCEOの海老ケ瀬徹と彼の妻子の事故死が報じられた。
外車が一台横づけに停まり、後部座席から中里が降りた。外車は中里を降ろすと料亭の駐車場へ向かい走り去る。
日本式の門をくぐり、従業員に部屋へ案内された。渡り廊下を歩く際に通りかかる部屋はほぼ客で埋まっている様子だが、非常に静かで話声が殆どしない。
案内された和室には、すでに待ち合わせ相手が到着していた。ホステスらしき女に酌をさせ、顔を赤くしている。純一は酒が強い。これだけアルコールが回っているという事は、相当飲んだのだろう。
海老ケ瀬純一、旧財閥海老ケ瀬グループCEOの席を息子の徹に譲り、現在は与党代議士をしている。妻は天皇家に非常に近い血筋の旧華族令嬢。純一は与党民事党のフィクサーと呼ばれており、警察、裁判官、マスメディア何もかもを掌中に収めている。つまり純一を押さえれば、それら全てを好きにできるという事だ。
純一と中里の関係は十何年に渡る。純一の望む汚れ仕事を引き受ける見返りに、様々なお目こぼしをしてもらい、度々中里は上納金を純一に納めていた。金持ち程金にがめつく、金はあればもっと欲しくなるというのが人間のサガである。
中里に汚れ仕事を依頼している事等は、暴露されたところで純一が困る事はまあ無い。αは何をやっても無罪であるし、また彼は政治家でもあるわけだが、圧倒的多数を占めるβは権威というものに弱いためこれくらいの醜聞でそっぽを向く事は無いため、選挙で困る事も無い。
そして何より、Ωの言う事になど誰も耳をかさない。
純一は中里をいつでも切れる立場であり、中里はそうではない。しかし、中里は今夜それを逆転してみせるつもりだった。
「突然何だね、見せたいものがあるって?」
純一は赤ら顔にトロンとした目、頬をだらしなく緩ませニヤけている。彼は中里が金を持って来たと思ったのだ。
「ご子息の件です。」
「何?!あいつが見つかったのか。」
純一は緩んだ顔を少し引き締め言った。ホステスらしき女が空気を読み、席を外した。
「ご子息は未だ行方知れずですが、関りのある人物を見つけました。そして彼らが保管していたのがこれです。」
中里はパソコンを持ち出し、テーブルに置いてディスプレイが純一に見えるようにした。
映像を流し始めると、純一の顔色が見る見る強張り、酒で赤くなった顔が真っ青になった。
「な…何だ、これは…一体…」
「ご子息がどこぞのΩとお楽しみの様子ですね。」
「冗談じゃない!どう見てもこれは…息子がΩのチンピラに手籠めにされているんじゃないか!…こんなものが出回ったら…海老ケ瀬家は世間の笑いものだ!株も大暴落だぞ!数か月後の選挙にも…あの愚息め!」
純一は悔しそうに、腹立たしそうに呻った。
「息子さんの行方を知る者達の言い分は、息子さん夫妻に関して警察沙汰にしない事、だそうです。でなければ動画をばら撒くと…」
「な、何だと?!Ωの分際でこの私を脅すつもりか?!中里、このデータを持っているチンピラ全員何とかしろ!」
中里はゆっくり口角をつり上げ、純一を見た。
「αは頭の巡りが悪くて困りますね。」
「何だと?!きさま、一体誰に口をきいて…」
「今やこの動画の持ち主には、私も含まれているんですよ?もちろん、データはコピーしており私の無事が確認できなければ全国に公開される手筈です。」
純一は息を飲み、ようやく事態を認識した。顔を赤くしたり青くしたりしながら、結局中里の提示する条件をのんだのである。
翌朝、海老ケ瀬グループCEOの海老ケ瀬徹と彼の妻子の事故死が報じられた。
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