非モテ最底辺Ω VS 特権階級α

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勝ち組βと負け組α、バディを組む

平井連(β)

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ゲンカに連れられた先、気付くと連はオフィスビルらしき建物の一室に居た。



ここへたどり着くまでの記憶が曖昧なのだが、オフィスビルと言っても取り壊し寸前の様な4階建のもので、借りている者がいるのかどうかも怪しい。

連がゲンカと共にいるこの一室は、打ちっぱなしコンクリートの床や壁が所々崩れており、何も無く寒々としている。



上の空でここまで付いて来てしまったが、これから自分に何が起きるか想像すると今更の様に恐ろしくなってきた。



素直で真面目な学生だと思っていたゲンカには、今やその面影が微塵も無い。今目の前に佇んでいるのは野蛮で粗野なチンピラだった。

そのチンピラに、こんな人けの無い場所へ連れ込まれたのだ。これからゲンカは仲間を呼んで、自分をリンチにかけるのだろうか?もしくはヤクザに売り飛ばして臓器で金を作らせる?

逃げるしか無い…しかし、ここは確か3階だったか4階だったか、とにかく1階ではなかった。それに、あの動画。ゲンカが本当に未成年だとしたら、ここで上手く逃げられたとしても結局は破滅だ。



答えの出ない悩みを持て余していると、ドアが勢い良く開きスーツを着たサラリーマンの様な男が入って来た。



「いやー、悪い悪い、遅くなっちまって…」と言い顔を上げると、連に目を止めた。



「そいつか。」



獲物を狙う動物の様な目を男から向けられ、連は嫌な気分になる。

サラリーマン風の男が部屋の中に進み入ると、後ろから男が二人付き従う様に姿を現した。

一人は豆の様な小さな目だが非常に鋭い目つきをしており、プロレスラーの様な体格がシャツの上からも分かる。もう一人はひょろ長く痩せており、今風に髪を整えゲンカ同様に学生を思わせる風袋をして、弱い小動物をいたぶる様な卑劣で嗜虐的な目で連をみている。



「角田から話は聞いてるよ、500万借りたいんだって?」



サラリーマンの様な男が連に歩み寄り、目をじっと見てきた。まるで品定めする様な目である。連は思わず後退りし、男のネクタイ辺りに目を逸らす。



「スミダ…?」



連が聞き返すと、ゲンカが呆れた様に横から言った。



「俺の事だよ。まあ、お前にゃ今後何の役にも立たない情報だがな。」



どうやらゲンカは彼らから「スミダ」と呼ばれているらしい。スミダというのは苗字だろう、スミダゲンカというフルネームなのか、と連は思った。

しかしこれも本名かどうか怪しいものである。だからこそゲンカは「連にとって何の役にも立たない情報」と言ったのだろう。



「500万ねえ…うちは2、3万しか貸さない主義なんだが…何か担保はあんの?」



サラリーマンの様な男が腕を組み言った。



「松原、こいつ○○企業の高給取りってのは確かなんだよ。ただし、預金はこいつのカミさんが握ってんだよな。」



ゲンカはサラリーマンの様な男を「マツバラ」と呼んだ。この男はマツバラと呼ぶらしい。



「じゃあどうやってこいつのカミさんから金引き出すんだよ。お前が持ってんのはこいつだけの弱みだろう?あんなもん知れば、カミさんは金払うどころか離婚調停に乗り出すんじゃねえの。」



松原が難色を示しながらゲンカに向き直る。



「こいつのカミさんは専業主婦だぜ?実家は既に長男家族が住み着いてて、帰る居場所も無い。

子供二人も抱えて離婚できるわけねえだろ、手のかかる子供二人抱えた大した資格も無い女をじゅうぶんな給料で雇う所があると思うか?もっとも夫のこいつが犯罪者になって金稼ぐあてが無くなれば、そりゃあっさり離婚するだろうが。



つまり、こいつの社会的破滅はカミさんにとっても自身の破滅って訳さ。」



一体どうやって、いつの間に妻・真帆の情報をここまで掴んだのか…連は驚愕し恐怖したのだが、よくよく思い返すと自分は雑談の中でこうした情報を漏らしていたような気がする。

聞き上手のゲンカに、連は無意識にあらゆる情報を提供していた。




松原はふむと頷き、少し考える様子を見せ「成る程ね…」と同意した。



「とりあえず、あんたの職場を詳しく教えてくれる?電話して本当に社員かどうか確認するから。」




「ええっ?!こっ、困りますよ!社内での俺の立場も考えてください!」



連は慌てて言った。こんな奴らから自分宛に電話が来れば、それこそ社内で肩身が狭くなる。



「大丈夫だよ、運送屋とかそういうの装って金貸しだと分かんねぇようにするから。」



松原が面倒くさそうに言う。どちらにせよ、ここで金を借りる事ができなければ全てを失う危機を乗り切る事はできない。



連から部署名や電話番号を聞き出した松原が後ろに目配せすると、プロレスラー風の男が素早くスマホでそこへ電話をかけた。

その風袋からは想像もつかない爽やかで感じの良い口調で、運送会社を名乗り連の所属を確認する。



身元確認としてマイナンバーカードや運転免許書、保険証なんかを見せると彼らはスマホで撮影した。



書類にサインする段になり、書かれた金額を見た連は目を剥き飛び上がった。



「えっ、ちょっと…ここ650万て書いてますけど…俺が借りるのって500万ですよね?!」



「うちは金を貸す際、利息分を引いて渡す事にしてんだ。うちは、というか大概の金貸しは皆そうだがな。因みにうちの利息は10日で3割。

なので500万借りるなら、あんたの手には350万しか渡らない事になる。それだと困るんだろ?だから気を利かせてその分足してやったんだよ、感謝しろ。

まあ、それでも本来ならあんたには455万しか渡らないんだがな。特別に負けてやるよ。」



これから10日以内で650万返さねばならない…10日で3割…もし返せなければ195万の利息が付くのだ。

500万に抑えれば、利息も150万で済む。それでもかなり痛いが、少しでも金額の上昇は抑えたい。



しかしそれだと350万しか手に入らないのだ。足りない分は自力で工面するしか無いが、150万もの金は手元に無い。

背に腹は代えられない、連は腹をくくりサインした。



差し出された500万は連ではなく、ゲンカが受け取りさっさと帰って行った。



連もこれから10日の間でどうやって金を工面するかを考えながら、暗い面持ちで退出しようとしたのだが、プロレスラー風の男が急に前のめりになり、息を荒げ始めた。

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