61 / 63
売られるβ、売るΩ
小机豊(α)
しおりを挟むチンピラ達はタイヤのパンクした車をその場で火を点けて燃やし、死体はそのまま放置して代えの車に乗り込み走り去った。もちろん小机も連れて。
両脇をチンピラに固められながら後部座席に座る小机は、車がどこへ向かっているのか分からず不安だった。
――行先は空港か駅だろうか、もしくは木下陸翔の部屋…あいつの行方などどうでも良い、俺は関係ない。そんな事よりも、妻子は無事なのか?こいつらは忘れていないだろうか?
「安心しろ」
老板と他から呼ばれるチンピラの一人が、そんな小机の心を見透かしたように言った。
「俺たちが向かっているのは、お前の妻子がいる場所だ。忘れちゃいねえよ。」
それを聞き、小机はようやく安堵した。彼らは忘れていなかった、約束を守ったのだ。悪夢のようなひと時だったが、これでもう終わり。明日からいつも通りの平穏な日々が戻って来る。
元はと言えば、卑しいβなどに関わり深入りした事が原因だった。反省し、今後は付き合う相手を見定めよう。やはりβやΩなどと関わると、ろくな事が無い。
高速を走り、着いた先は廃墟となった工場の様だった。周囲は山に囲まれている。
湿っぽい臭いのする建物内に入ると、パッと辺りが明るくなった。驚いた事に、ここは電気が引いてある。廃墟ではないのかもしれない。
明かりが点いた瞬間、目に飛び込んできた光景に小机は凍り付いた。
最初はそれが妻だと気付かなかった。それほど彼女は変わり果てていたのだ。
両腕、両足が付け根から無くなり、包帯が巻かれている。両目は潰されたのか、血塗れで眼窩から夥しい血がダラダラと流れていた。
常に美しくセットされたセミロングの髪はボサボサに乱れており、豊満な乳房には鷲掴みされたような痣があり痛々しい。
「あー…」
妻が呻き声をあげながら開いた口の中から、ボタボタと血が流れ出る。歯を全て抜かれた、むき出しの歯茎が覗き見えた。おそらく舌も切られたのだろう。
「うわあああああああああああああああ」
小机は狂ったように喚きながら妻に走り寄ろうとし、羽交い絞めにされ止められた。
これは彼らが水野に施したものを同じ、つまり妻を性奴隷に改造したのだ。
「なぜだ?!なぜ妻を性奴隷に改造する必要がある?!彼女は俺と同じαなんだぞ!性奴隷なんぞ、Ωかβにやらせるものだろう?!」
「あんた、面白い事言うな。」
老板が目を丸くし、不思議そうな顔で言った。
「αの性奴隷とか、普通のαは知らないんじゃないすか?世間知らずなんですよ。」
横にいたチンピラが、老板にそう耳打ちするのが聞こえた。
「あ、αの性奴隷…?」
聞いた事も無い言葉に、思わず小机の動きが止まる。αの性奴隷、αが奴隷だなんて聞いた事も無い。なぜαが奴隷になるのだ?奴隷とは、βかΩがなるものだろう。
「それもそうだろうな。しかし説明する必要も無いだろう…とにかく、あんたの妻は木下陸翔が払わなかった残りの報酬分を賄うため、性奴隷として売る事にした。こういうのは金持ちのΩがよく買っていくんだよ。」
「そ、そんな事が許されると思っているのか?!俺も妻もαだぞ!息子も…そうだ、息子は…息子の牧人はどこに…まさか…」
「安心しろ、あんたの息子の年齢だと、あの時点で改造する事はまず無いんだ。まだガキだからな、改造しなくても売れるんだよ。変態に。」
「そんな…牧人…頼む、息子には…」
涙を流しながら懇願する小机に、老板は優しく笑いかけ肩に手を置いた。
「気落ちするな、お前も奥さんと一緒だからな。…売り出し先は別になるが。」
「え…」と呟くや否や、小机の肩のあたりで機械の轟音が響き、骨の削られる音がした。彼の叫び声は機械音にかき消された。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
16
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる