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第二十四話 見出した活路
しおりを挟む意外とやるな。
オレステスが力任せに上段から打ち込んだ木刀を、アレクサンドルは難なくかわした。
おそらく「胸を貸す」というつもりなのだろう。アレクサンドルは防戦一方ではあるが、まったくの余裕なのは表情だけでもわかる。
木刀を二本持ち帰ったアレクサンドルは、なぜか後ろにオレスティアの侍女――ネラ、だったか――を従えていた。
見ると、ティーセットを持っている。
お貴族様は庭でティータイムなどという習慣があるのか、テーブルセットは元々あった。座って休んでいろと言われたので、素直にそこの椅子に腰かけていたオレステスの前に、ネラが紅茶や焼き菓子を並べ始める。
「――一緒に鍛練してくれるのかと思っていたのですが」
向かいに座り、ネラの淹れた紅茶を飲んでいるアレクサンドルを、じっとりと睨みつける。
別に付き合ってほしい、とかいうわけではない。相手をしてくれるのならばたしかにありがたいが、必須ということでもないのだから。
とはいえ、木刀を二本手にした姿を見れば、当然対戦式で付き合ってくれるのだと思うのも無理ないはずだった。
「もちろんそのつもりですよ」
恨めしげに睨むオレステスの視線を受け止めながら、さらりと続ける。
「でも、さっきので姉さん、体力が底をついているのでは? 少し休んでからでないと練習にならないと思いますが」
たしかに、ほんの少し動いただけで筋肉が悲鳴を上げている。待っている間に軽く腕などをマッサージもしたが、それくらいでは回復しないのも事実だった。
ならば休息は必要だし、理に適っている。
適ってはいる、と思うのだけれど。
「――チッ」
そうやって気遣われなくてはやっていけないこと、正論であるからこそ、どう考えてもオレステスより弱い男に指摘されたことが悔しくて、吐き捨てる。
「……姉さん今、舌打ちしました……?」
「まさか」
やばい、聞き咎められた。
内心の焦りを誤魔化し、軽く肩を竦めてやりすごす。
素知らぬ顔を決め込んで、紅茶のカップに手を伸ばし――
「――あれ、うまい」
一口飲んで、感想が洩れる。
貴族の護衛をしていたときに振る舞われたこともあるが、決して好みの味ではなかった。「オレスティア」の味覚を通すからこそ、なのだろうか。
「なんですか、その言い方。……気になってましたけど、記憶を失ってから姉さん、口悪くなってませんか……?」
「えぇえ? そんなことありませんわよ! 気のせいじゃありませんこと!?」
的確過ぎるツッコミに焦り、慌てて口走った台詞はおかしなものになった。
アレクサンドルがこちらを見る目が、胡散臭いものを見るものになっているのも、仕方がない。オレステスが彼の立場でもきっと、同じ反応をする。
「さて、それではそろそろ始めましょうか」
くいっと紅茶を飲みほして、多分に誤魔化しをこめて立ち上がる。そして始めた手合わせで、アレクサンドルがひょろひょろのひょろっこでないことを知って驚いた、というわけだ。
無論、元の「オレステス」であれば相手にもならない。あくまでも思っていたよりもやる、くらいなものだ。
オレステスの腕力があれば、受けたアレクサンドルの木刀ごと叩き折るのは造作もない。ただ、彼の隙を見つけて打ち込もうとしても、「オレスティア」の腕力では木刀ごときの重さでも動きが鈍る。
狙ったタイミングで打ち込むことができず、さらに重さに負けて切っ先が下がってしまう始末だった。
そして――
「――あっ」
オレスティアの体力が限界と見たのか、アレクサンドルが攻撃に転じた。
すくい上げるような動きをされ、受けきれずに木刀がオレステスの手を離れて弾き飛ばされた。
木刀を飛ばされて体勢が崩れ、よろめいたところでアレクサンドルを見上げるような姿勢となる。
試合なら、これで終了だ。
貴族の坊ちゃん、実戦の経験がなく、騎士としての訓練しかしていないアレクサンドルも、自分の勝利で終わりと思ったことだろう。
けれど瞬間、咄嗟に体が動いていた。
地面についた左手に力を入れる。
反動で跳び上がりながら放った掌底が、アレクサンドルの顎に見事、命中した。
うまい具合にはまったのだろう。おそらくは脳震盪を起こして倒れたアレクサンドルは、一発で気絶していた。
「――なるほど」
武器が重くて思うように扱えないのならば、素手での戦い方を覚えればいいのか。
自分の手を見つめて納得するオレステスの向こう側で、アレクサンドルがピクピクしているのはとりあえず気づかないふりをすることにした。
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