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第三十七話 現実的な問題点(オレスティア視点)
しおりを挟む「――凄い」
スピリティス侯爵邸は、王都にある。地図で見るなら、国のほぼ中央に位置していた。
ちなみに現在いるのは、かなり西の端だった。魔物討伐のため森に入っていたからだとルシアに聞いている。
まず考えたのは、移動手段だった。オレスティアは当然馬車の手配を頼もうとしたのだが、怪訝なルシアの顔を見て途中で口を止める。
「オレステスではありえない、っていうのが、如実に出た発言だったわね」
怒らせてしまったのか。不安にかられて謝罪するより早く、ルシアが両手を腰に当てた。
怒っているわけでは無さそうなことに、ひとまず安堵する。ついでどうも呆れているようだとは気づいたけれど、なぜ彼女がそのような反応をするのかはわからなかった。
ルシアはばさっと地図を広げる。テーブルの四分の一くらいのサイズだから、簡易版だのだろう。
「王都はここ。そしてあたしたちのいるのはここよ」
地図上を指先でトントン指さしながら説明される。
オレスティアは頷いた。実際にやって来たのは初めてだが、教養として地理くらいは頭に入っている。
「たぶん、徒歩で二十から二十五日ってところだと思うわ」
さらりと言い放たれて、内心で目を見開く。
今居る町の名前を聞いたときには、徒歩などという選択肢は真っ先に消えたというのに、ルシアはそれを視野に入れているということだ。
いや、口ぶりからすれば一番有力な候補だとでも言いたそうだ。
「もちろん馬車の方が日数はかからないわ。たぶん半分以下で辿り着けるでしょうね。――でも、その費用は?」
「それはもちろん私が――」
「出せるの、あなたが?」
問われると、口ごもるしかなかった。
今のオレスティアは「オレステス」だ。オレステスの懐から出して良いものか迷う。
いや、馬車を使って到着地で払うことはできるだろう。とはいえ、オレスティアは現金として貨幣を持っていない。
代わりに宝石類やドレスを渡す解決法もあるが、それは侯爵家のものであってオレスティア個人のものではない。オレスティアのために両親が支払ってくれる、宝物を渡す許可をくれるとは思えなかった。
――そもそも、本当に二人が入れ替わっているのかすら疑わしい。
オレスティアの魂がオレステスの体にあるから逆もきっとそうだろうと思いこんでいたが、違う可能性もある。
ルシアから聞くオレステスの人柄ならば、オレスティアが訪ねて行けばすぐに認めて力を尽くしてくれることが予想できる。
けれど入れ替わりがもっと大勢でのシャッフルだった場合はその限りではない。「本物」が戻ってきたと知れば、突っぱねて追い返すことだって考えるのだ。
もっとも、その場合は馬車の代金どころかすべてが詰むのだけれど。
そこで結局、王都までは二人で歩いて向かうことになったのだが、一刻半ほど歩いたところで驚きのあまり足を止めてしまった。
「なにが凄いの?」
「いえ――こんなに歩いたのに、まったく疲れないなんて」
オレスティアであれば半刻も歩けばぐったりするのに、オレステスの体はまるで疲れを感じない。
「まだそんなに歩いてないし」
呆れを苦笑に混ぜながら答えてくれるルシアに、たしかにこれなら徒歩を考えるのも道理だと納得もした。
「オレステスさんはこの体格だからわかりますが、ルシアさんも随分と健脚でいらっしゃいますよね」
「まぁ、これでも長年冒険者なんてやってるから」
「長年? そういえばルシアさんっておいくつなんですか?」
「オレステスと一緒、二十七歳よ」
「二十七!?」
さも当然のようにされた返答に、悲鳴じみた声が上がる。小柄で童顔なせいか、てっきり十五、六歳――オレスティアよりも年下に見えていた。
女性というよりは女の子、といった印象はあるが、考えてみれば落ち着いた物腰や論理的な言動をみれば頷ける気もする。
「――魔法って、使うと若返りの効果でもあるんですか……?」
「若く見えるってこと? ありがと」
にこっと笑うルシアは可愛らしく、やっぱり「女の子」にしか見えなくて――
凄い、ともう一度心の中で呟いた。
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