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第四十九話 意味深なルシアの眼差し
しおりを挟む扉の前までアレクサンドルを見送って戻り、ソファに座るオレスティア――「オレステス」の姿に、再び感情が高ぶった。
「あーっ! でも本当に、無事でよかったーーーっ!」
大声を出すとアレクサンドルが衛士を連れて戻ってきてしまうから、小さな声で叫びながら「オレステス」の首根っこに抱きつく。
ああこれ、やっぱりこの太さだ。
感無量の態で抱きついたまま、横抱きされるような形で膝の上に座る。
「――その反応ってことは、オレステスで間違いないのよね?」
「おう」
にかっと笑顔を見せると、なぜかオレスティアは驚きの表情を浮かべていた。
なんだろうと思いはするが、口にしたのはより強い疑問の方だった。
「けどよ、あの状況でよく生きてたな。おれ、これは死んだなって覚悟したのに」
「あなたにバフをかけて強化したのよ」
さらっと言われて、なるほどなと思う。
「それでもまぁ、昏倒はしたけどね。そのあとはあたしがトロルを倒してあなたを――『あなたの体』を宿まで運んだの」
「で、目が覚めたときに中身が違うことに気づいて、ここまで連れて来てくれたってことか」
随分と世話焼きなことだ。
思ったオレステスの心中を察したか、ふん、とルシアは頬を膨らませた。
「オレスティアさんを一人にはできないでしょ?」
「そりゃまぁ、そうか」
たとえばオレステスがルシアとの立場だったとして、きっと同じことをする。
見た目が屈強な大男だったとしても、少し話すだけでオレスティアが気弱なご令嬢なのはわかっただろう。そんな女が一人途方に暮れていれば、手を貸したくなるのも道理だ。
「――申し訳ありません」
自分の不甲斐なさがルシアに迷惑をかけた。
顔を見るだけで思っていることが手に取るようにわかる。
オレスティアの謝罪を受けて、さらにはしゅんと落ち込む「自分の顔」を見て、微妙な心境になるのは否めない。
とはいえ辟易していても仕方がないのは事実だった。ルシアに顔を向け、軽く肩を竦めて見せる。
「しかしトロルの件からこっち、随分と世話になったみたいだな。ありがとよ」
「なに言ってんの」
感謝を述べるオレステスを、ルシアが完全に呆れきった目で見た。
「それを言うなら、庇ってくれたあなたはあたしにとって命の恩人ってことになるのよ?」
「あー……。けどおれの場合は、勝手に体が動いただけだからな」
答えながら、苦笑が洩れる。
「それに、たとえおれが死んだってお前がいりゃあトロルは片づけてくれる。無意識のうちに他力本願してたんだろうし、まぁ、結果二人とも生きてたってことで、よし、だな」
先程の苦笑とは違う。ニッと白い歯を見せて笑って見せるオレステスに、ルシアはオレスティアの方へと目を向けた。
「ね? 言った通りでしょ?」
苦笑いというかふざけたような笑い方に、なにが言った通りなのかときょとんとした眼差しでオレスティアを見やる。
間近で目が合ったオレスティアは、眉を八の字に歪めて困ったように笑っていた。
意味がわからずルシアを見ると、ただ笑うだけで肩を竦める。
なんだ、女二人だけで通じやがって。
ほんのりおもしろくはないが、ここで拗ねていても話は進まない。はう、とため息一つ落として、気を取り直す。
「とりあえず、状況確認が先決だな。じゃあ――」
「いいえ。その前にやることがあるわ」
なにから話そうか。
言いかけたオレステスを、ルシアが真顔で遮った。
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