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第五十話 ビジュアルの違いは結構大切
しおりを挟む「その前にやることがあるわ」
真摯な声で言われて、少し気を引き締めるオレステスとオレスティアに、一転して呆れた調子でルシアは片眉を上げる。
「まずは普通に座り直して」
言われて初めて、嬉しさのあまり抱きつき、オレスティアの膝の上に座ったままなのを思い出した。
「あら、ごめんあそばせ。重かったですわね」
ぴょこんと立ち上がり、口元を押さえて、ふざけながら全然似てもいない「オレスティアの真似」をする。
ルシアの顔を見ると呆れを隠す気は完全にない様子だった。
「重いわけないでしょ。レディに失礼なこと言わないの」
「いやいや、オレスティアのときよりはだいぶ肉ついたんだぜ?」
言いながら腕をまくった。ついでに軽く曲げて、まだ発達途中の、ほんのりと硬くなった筋肉を見せる。
元々の「オレスティア」を知らないルシアはオレスティアを見て、突然のオレステスの行動に驚いていたらしいオレスティアは、ハッとしたように呟いた。
「本当ですね」
口元を押さえ、少し身を乗り出してオレステスの腕を見ている。
「そうなの? 今でも十分すぎるくらい細いんだけど」
言うルシアに、お前が言うなよと内心で苦笑する。
オレスティアよりも身長が低く、同じくらい細いルシアは一見「とても華奢な少女」だ。
「まぁ、おれがこの身体になってまだ一カ月くらいだからな。地道に鍛えてはいるが、そう一朝一夕にはいかねぇよ」
まくった袖を元に戻し、手首のボタンを止めながら続ける。
「けどほら、見てくれ。元が細いおかげか、腹筋はうっすら筋が――」
「人前で出すんじゃないわよバカ」
ちょうど服の上下が分かれていたので腹をめくろうとしたら、ルシアに怒られた。
見ると、オレスティアが両手で顔を覆っている。その隙間から見える頬が、真っ赤に染まっていた。
たしかに腕を晒しただけで戸惑った様子を見せていたのだから、この反応も当然ではあった。
けどおれの顔でこんな態度されるのはちょっとな……まぁオレスティアにとっては逆ってことか。
オレステスの体が行うオレスティアの仕草に、気持ち悪いなとは思いつつも感情はなんとなく理解できた。
とりあえず、彼女たちの向かいに大人しく座る。
「けどオレスティア、お前も頑張ってくれてたんだな」
「え?」
「丸一カ月トレーニングしてなかったら、もっと衰えているはずだ。鍛えてくれてたってことだろ」
指摘に、オレスティアはぱちくりと目を瞬かせる。
「それは――私の体ではありませんから」
できる限りのことをしようとした。
その心持ちが自分と同じだったことを知り、そっか、と嘆息する。
「けど、本当に安心したぜ」
「ですがやはり、あなた本人とは違います。私では至らなくて、衰えはあるかと――」
「そういうことじゃなくて」
なにを勘違いしたのか、申し訳なさそうなオレスティアを遮る。
「言っただろ、死んだと思ったって。オレスティアの魂も一緒に死んじまったんじゃねぇかと心配してたんだ」
「オレステスさん――」
心の底からの本音を洩らすと、ぽつりと呟いたオレスティアにじっと見つめられた。
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