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第六十五話 才能としては詐欺師と紙一重
しおりを挟む侯爵夫妻はオレスティアに関心を抱いていない。抱いているのはむしろ、憎悪や嫌悪の感情だった。
だからこそ、現状がある。それを理解しているアレクサンドルが言葉につまるのも、無理はなかった。
「で、ですが、確定ではありません」
言いよどんだのも一瞬、アレクサンドルが続ける。
「辺境伯が支払いを渋ったら?」
アレクサンドルの仮定は、充分にあり得る話だ。当然、考えてしかるべき想定だろう。
「あなた方にはなんのメリットもないではありませんか」
「あるわよ、メリット」
質問に、ルシアはさらっと言ってのける。
「ここを出発するまでの滞在期間、そして辺境までの道中、衣食住が保証されるわ。それくらいは確実でしょ?」
「それは――」
「それとも、侯爵家はそれすら出し惜しむの? オレスティアさんを助けた謝礼くらいは出すと言っていたけど」
ホントにケチね。それとも困ってるの?
両手を腰に当て、呆れたように皮肉を加える。
皮肉を真に受けたわけでもないのだろうが、「違います」とアレクサンドルはムッとした。
「ただ、それはメリットと呼べるものではないでしょう、と僕は言っているんです」
「なに言ってるの。あたしたちみたいなその日暮らしにとっては充分よ」
さも当たり前のことを言うようなルシアに、アレクサンドルは納得していない様子だった。顔を顰めたまま、ルシアを見つめる。
「しかし手間や期間を考えれば、あまりにも割に合わないでしょう」
そもそも、護衛の任務には危険が伴う。他の仕事よりも報酬が高いのはそのせいだ。
それを道中の旅費程度で受けるなど、正気の沙汰ではない。ただの依頼主からそのような提示をされれば「アホか」と一蹴するだろう。
なので、アレクサンドルの指摘は至極まっとうなものだった。
「なのになぜ――って、最初の質問に戻ったわね」
肩を竦めて、ルシアは悪戯ぽく笑う。
「割りと答えは簡単よ。あたしたち、オレスティアさんが好きなの」
こともなげに断言した。
これが、たとえばオレステスの姿で口にしようものなら「身分違いにも懸想した不届き者」とされる。
容姿や性別で語るのも憚られるが、「ルシアのような容姿の女性」が言ったからこそ、妙な疑いを持たれずにすんだ気がする。そのあたりのことも、ルシアは計算しているのではないか。
一瞬きょとんとしたあと、アレクサンドルは再び渋い顔をする。
「ほとんど初対面なのに?」
「それでも、よ」
眉をハの字に歪めて笑って見せるルシアに、やや芝居じみたものを感じる。
「なんて言うの? フィーリング? 直感? よくわからないけどそんなものよ」
そこまで言って、で、とみんなの注意を引いて続ける。
「好きな人には幸せになってほしいじゃない? その手伝いができるなら、よっぽどのことじゃないと断らないわ」
ね? ぱちんとウィンクでオレスティアに笑顔を見せる。
アレクサンドルから見れば、「あなたも同じでしょ?」という同意を求める仕草なのだろう。
だがそこにいる「オレステス」が「オレスティア」だと知っているものから見れば、「あなたが大好きだから協力するわ」の意図以外、なにものでもない。
いや、あざといだろ。
内心の呆れを交えつつ、オレスティアの方に視線を向ける。案の定、感動の面持ちでルシアを見つめていた。
天然の人たらし、まじで怖い。
――いや、半分は計算か……?
オレスティアだけでなくアレクサンドルまでも感嘆の表情をしているのに気づいて、若干の疲れを感じていた。
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