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第六十九話 執着の結実
しおりを挟む方針も決まった。
となれば、時間は有効に使わなければならない。翌日からさっそく動き始める。
とはいっても、今までとやることは同じだった。午前中は鍛練、午後は調べ物。違いはそれに、オレスティアとルシアも加わるということだ。
オレステスとオレスティアの入れ替わりは、元に戻れるかの保証はない。どちらにせよ強いに越したことはないというオレステスの主張に、オレスティアも頷いてくれた。
もちろん、体術に関してはオレステスに一日の長がある。オレステスがオレスティアに、効率よく体を動かく方法、実戦だけではなく理論や構造を交えて教えてやった。
もっとも、傍目には「教える者」と「教わる者」が逆に見えているだろうが。
しかし――と、オレステスの説明を興味深げに聞き、実際にやってみるオレスティアを見ながらふと思う。
元々オレステスの体が動きを覚えているせいもあるのだろう。
だがそれだけではなく、オレスティアの理解力が高い。みるみる戦い方を覚えていく。
「――なんでしょう?」
オレステスの視線に気づいたか、オレスティアが首を傾げる。
「いや、スピリティス家って別に騎士の家系とかではないよな?」
「ええ。以降はともかく、最初は魔力に重点を置いていたはずですが」
それがなにか? とでも問いたげな表情に、曖昧に笑って見せる。
「あの坊ちゃんも意外とやるし、お前も飲みこみが早い。素質があるのかもな」
これなら彼女が「オレスティア」に戻ったとしても、護身術程度はなんなくこなせるだろう。これから向かう辺境の地で過ごすにせよ、どこか別の場所へ逃げるにせよ、身を守る術があるのは良いことだ。
「――ありがとうございます」
オレステスの褒め言葉をお世辞だとでも受け取ったのか、オレスティアははんなりと笑った。
あとは、おれがオレスティアの体をもう少し鍛えてやるだけだな。
オレスティアの笑顔に触発されて、新たに気合が入るのを感じた。
「すっごーい!」
そして午後にはルシアを伴って書庫に向かう。入るなり、ルシアはきらっきらの目で叫んだ。
「えっ、ラジエルの書? ピカトリクス――えっ、アルス・ノトリアまであるじゃない!」
オレステスからすればまったく理解不能なそれは、書物の名前なのだろう。書架に並ぶ背表紙を眺めるだけでも大興奮の様子だった。
「そんなにすげぇのか?」
すでに本を手に取り、ペラペラとめくり始めているルシアに問う。
と、手元からオレステスへと視線を上げたルシアは、すんっ、と急激に冷めた顔をした。
「幻、とか言うほどではないわね」
興奮状態から我に返った、という感じだった。声音も、いつもの冷淡さが戻っている。
「断片的なものなら、写本も見たことあるし。けどこうやってまとまってあるのは珍しいし、なにより――」
言葉を一旦区切り、ぐるっと書庫全体を見渡す。
「この、数がね。侯爵の執着を形にしたみたいで、少し気持ち悪いわね」
なるほど。品ぞろえを見て浮かれたのも一瞬、集められた背景に思い至って冷めた、ということか。
先祖代々受け継がれてきた者の可能性は捨てきれない。
だが可能性で言うのなら、侯爵が集めたとする方がしっくりくるのも事実だ。
いじらしいと言えなくもないが、そのせいで、魔力のないオレスティアを虐待していたのだと思えばやはりムナクソ悪い。
まぁそのオレスティアが実は魔力持ちだったのだから、そこだけは「ざまぁ」とも言えるのか。
そこまで考えて、ふと閃いた。
「――なぁルシア、ひとつ、頼みがあるんだけどよ」
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