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ACT.8
1.泣かないで
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――ごめん。
誰かが、謝ってる。泣きそうな声――聞いているこちらまで胸が痛くなるような、悲しい声。
別に、君が悪いんじゃないよ。
そう答えたいのに、口が開かない。瞼も開かない。
――あれ、デジャヴかな? こんな夢、つい最近も見た気がする。
もしかしたらこれも、夢なんだろうか。
じゃあ泣いてるのは小さい頃の葛城――じゃない。
聞こえた声は、子供のものじゃなかった。最近ではもう聴き慣れた、低い、今の葛城の声だった気がする。
手が、温かい。誰かが――きっと葛城が、握りしめてくれているのだろう。
人の体温って、こんなにあったかいものだったっけ。触れられているのは右手だけなのに、そこを通して、全身隅々にまで熱が行き渡るような錯覚があった。
あたたかい――気持ちい。
このまま意識を手放せばきっと、心地よく眠れるだろう。
でもその分葛城はずっと、罪悪感めいたものを抱き続けるかもしれない。
気力を総動員して、重い瞼を押し開く。
まだぼんやりとした視界の中、白いシーツが見えた。
あたしが寝かされているベッド――そのお布団、かな。
見覚えのない天井は、あたしの部屋じゃないことを物語っていた。葛城の部屋、だろうか。
手元に目を移すと、やっぱり葛城が両手であたしの右手を握りしめている。
まるで祈りを捧げているかのように、その手を自分の額につけていて――
ホント、大げさなんだから。
あまりの心配っぷりに笑おうとしたけど、ため息に似た息が洩れただけだった。
でも、それだけでもあたしが起きたのに気づいたらしい。葛城が、ハッと目を上げる。
驚いたのか、あたしの手を握っていた手の力が、緩んだ。
彼の額のところにあったから、頭までの距離は遠くない。ほんのわずか、手を伸ばせば届く。
届くけど、そこまでだった。撫でてあげようと思ったのに、力が入らない。
ただ、ぽんと頭の上に手を乗せただけだった。
「――大丈夫」
それでも、精一杯の強がりを口にする。
「あたしは、大丈夫だから――そんなに、心配……」
しないで、とは続けられなかった。
最後まで声にできなくて、意識が眠りの中に吸い込まれていく。
力を失って落ちる手の向こうに見えたのは、葛城の顔に浮いた悲痛の色だった。
誰かが、謝ってる。泣きそうな声――聞いているこちらまで胸が痛くなるような、悲しい声。
別に、君が悪いんじゃないよ。
そう答えたいのに、口が開かない。瞼も開かない。
――あれ、デジャヴかな? こんな夢、つい最近も見た気がする。
もしかしたらこれも、夢なんだろうか。
じゃあ泣いてるのは小さい頃の葛城――じゃない。
聞こえた声は、子供のものじゃなかった。最近ではもう聴き慣れた、低い、今の葛城の声だった気がする。
手が、温かい。誰かが――きっと葛城が、握りしめてくれているのだろう。
人の体温って、こんなにあったかいものだったっけ。触れられているのは右手だけなのに、そこを通して、全身隅々にまで熱が行き渡るような錯覚があった。
あたたかい――気持ちい。
このまま意識を手放せばきっと、心地よく眠れるだろう。
でもその分葛城はずっと、罪悪感めいたものを抱き続けるかもしれない。
気力を総動員して、重い瞼を押し開く。
まだぼんやりとした視界の中、白いシーツが見えた。
あたしが寝かされているベッド――そのお布団、かな。
見覚えのない天井は、あたしの部屋じゃないことを物語っていた。葛城の部屋、だろうか。
手元に目を移すと、やっぱり葛城が両手であたしの右手を握りしめている。
まるで祈りを捧げているかのように、その手を自分の額につけていて――
ホント、大げさなんだから。
あまりの心配っぷりに笑おうとしたけど、ため息に似た息が洩れただけだった。
でも、それだけでもあたしが起きたのに気づいたらしい。葛城が、ハッと目を上げる。
驚いたのか、あたしの手を握っていた手の力が、緩んだ。
彼の額のところにあったから、頭までの距離は遠くない。ほんのわずか、手を伸ばせば届く。
届くけど、そこまでだった。撫でてあげようと思ったのに、力が入らない。
ただ、ぽんと頭の上に手を乗せただけだった。
「――大丈夫」
それでも、精一杯の強がりを口にする。
「あたしは、大丈夫だから――そんなに、心配……」
しないで、とは続けられなかった。
最後まで声にできなくて、意識が眠りの中に吸い込まれていく。
力を失って落ちる手の向こうに見えたのは、葛城の顔に浮いた悲痛の色だった。
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