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第一章
第二話 不如意
しおりを挟む頬杖をつき、窓の外を眺めてはため息を落とす。
部屋の中に目を転じては、嘆息する。
「いい加減にしないか、月龍」
さすがに腹に据えかねて、声をかけた。
「これで幾度目だ。そうため息ばかり吐いていては、息を吸う暇もないのではないか」
亮の皮肉に、月龍が眉をひそめる。
そもそも話は、月龍の一目惚れから始まった。
何でも郊外で迷っていた女と出会い、邑まで送ったのだという。
館の前まで送ると申し出たものの、もう道はわかるからと断られ、結局は名もわからぬままに別れたらしい。
だがその相手が判明するまで、ほんの一刻しかかからなかった。
月龍が己の身に起こったことを真っ先に話すとすれば、亮しかいない。常ではありえぬ饒舌ぶりで運命的な出会いを語り、相手の特徴を並べ始めた頃、彼女の方から姿を現したのだ。
少女の名は、蓮。亮の従姉妹だった。
公主と呼ばれる立場にありながら、蓮は度々、型破りなことをやってのける。
道に迷ったのも、市場に出た時に従者の目を盗んで抜け出したせいなのだから、呆れたものだ。
月龍はそれまで、「蓮公主」を毛嫌いしていた。
なにかの儀式の折に見かけた蓮が、如何にも公主然とした美女に見えて、苦手意識をもっていたと聞く。
自らの出自に劣等感を抱く月龍には、身分の高さを鼻にかけた厭な女に見えたらしい。
だが公を離れた蓮は、未だあどけなさの残る少女だった。
普段は化粧もせず、髪も上部を丸くまとめただけで、下ろしている。おそらくは、父王に反発し、だらしない格好を気取っては、髪を結いもしない亮の真似もあるのだろう。
幼い頃から亮と蓮は、兄妹のように過ごしてきた。
同じく、幼少時代を亮と共にした月龍と面識がないのはおかしなことだが、理由は簡単である。前述のように毛嫌いしていた月龍が、徹底的に蓮を避けていたのだ。
だが蓮の方は、月龍の顔を見知っていた。亮の友人だからと気にかけていたのもあれば、月龍自身、よくも悪くも有名だから当然である。
むしろ、髪を結い化粧した姿しか知らぬとはいえ、気づかなかった月龍が鈍いのだ。
蓮の髪は茶色がかった、独特な色をしている。亮もそうだが、家系的に多いらしい。
他にいないわけではないが珍しいことに変わりはなく、亮に印象の似た姿に、血縁関係を疑ってみるのは難しい発想ではなかった。
要は、簡単なはずの推測すらできぬほどに、心を奪われていたということだろう。
邵様も訪ねていらっしゃるのなら、遠慮などせずに、こちらまでお連れ頂けばよかったと、蓮は悪戯に笑う。
惚とした眼差しで、それを眺める月龍を見るだけで、名も訊けずにうろたえていた姿を想像するのは、容易だった。
それ以来、いつ訪ねて来るかもわからぬ蓮を、亮の部屋で待つようになったのだからたまらない。
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