箱庭系譜

たき

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火薬

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 ツンと鼻をつく硝煙の香り。
 私が嫌いな香り。
 この香りを嗅ぐと思い出したくない、いや、思い出してはいけない事を思い出してしまう。
 …それは苦い思い出。戦争の記憶、戦友の面影、私だけが生き残ってしまった6年前の世界大戦。
 少年少女決死隊という今考えてもバカみたいな名前の部隊に放り込まれた私はまだ12歳だった。
 孤児だった私は、私を"借っていた"孤児院の大人の酒代に軍に売られた。子供だった私はまだまともに銃器すらも使えなかった為、"自爆隊"として身体に爆弾を巻き付けて走る役目を仰せつかった。
 一回目の作戦で私は右手を失い、二回目の作戦で左足を落とした。
 少年少女決死隊は過酷で、手足を欠損しても生きていたのは幸運だった。二回目の作戦までに、私の友達の役半数が命を落とした。
 運命を分けた最後、三回目の作戦。
 私は他に生き残った少年少女決死隊の”勇士"達と敵の本部を叩く予定だった。叩くと言ってもバレないように潜入して殺されるだけ。まだ小さい子供だった私達にも十分理解できる内容の簡単な作戦だった。
 その時の記憶は鮮明に覚えていた。忘れる事もできないだろう。硝煙の香りが鼻を刺す。

「今回の作戦さ…お前、生き残れよ、大丈夫、一人くらい逃げたってバレやしない」

 名前も知らない、いや、名前なんて大層な物は持っていなかったのかもしれないが。まぁとにかく、その子は作戦直前に私に話しかけてきた。

「逃げる? どうして? 」

 どうして? という言葉が出てくるあたり、私はもう既に壊れていたのかもしれない。

「いや、だってさ、お前、その…結構可愛いじゃん? 生きてりゃきっと良い人とも会えるし、いくらでも幸せになれる。この作戦から逃げりゃ多分、その腕と足のお釣りが来るくらい幸せな人生送れるよ」

「でも・・・私の分の爆弾はどうするの? これは絶対に爆発させないと・・・」

「俺に、早く、バレないうちに、さぁ!」

 脳に焼き付くその男の子の泣き笑い。
 恐怖を堪えてがたがた震えているのに、私を逃がそうとするその一心からか、顔に無理矢理張り付けたような難しい表情。
 今でも鮮明に思い出す。
 こうして戦乱のさなか遺骨の入っていない墓に手を合わせる私の目には、あの表情がずっと貼り付いている。
 すまない、あの日の少年よ。
 あなたが願った私の幸せは、新しく始まった戦争で壊れてしまうようだ。
 …あぁ、やはり硝煙の香りは好きになれそうにない。
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