愛されることを知らない僕が隣国の第2王子に愛される

鮎瀬ゆう

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(つ、つかれた……)

 心の中でそう呟く。
 会場内はたくさんの人で、次から次へと僕たちへあいさつをしにくる。
 僕はこんなにたくさんの人とたくさんの時間一緒にいることがなかったからか、始まってまだ1時間もしていないが、もう疲労困憊、と言っていいくらい疲れていた。

「アナベル伯爵」
「これはこれは、スピネル伯爵」
「お久しぶりです。エミリア様ももう9歳ですか」
「えぇ、早いもので。ここまで立派に育ってくれて母冥利に尽きますわ」
「……そちらは」
「お初にお目にかかります、テオ・アナベルと申します。よろしくお願いいたします」

 さっきからこんなことばかりだ。
 父と母のところにあいさつにきては、僕をじろじろと、まるで品定めをするかのように見てくる。でも、僕があいさつをすると、みんな一様に驚いたような顔をしてくるのだ。
 訳が分からなかった。

「え、えぇ、こちらこそ。それで、エミリア嬢はどちらに?」
「あちらで友人たちと話していますわ」
「私の息子もあいさつに行かせます」
「えぇ、ぜひ」

 皆一様に、驚きながらもあいさつを返してくれたあとは、何もなかったかのように違う話をしていく。疲れているのは、そんなことを繰り返しているから、ということも理由に入るだろうか。

「おい。お前も自分から誰かに話しかけに行ったらどうだ」
「……はい」

 異母妹は許されているが、僕は2人から離れてはいけないだろうと思って2人の側にいたが、父からそう提案された。これは好都合だ。少し休憩したいと思っていたのだ。外の空気を吸おうと2人の元を離れ扉に向かった。




「はあぁぁぁぁ……」

 外に出て、深呼吸をする。
 なんだかやっとちゃんと息が吸えた気がする。
 頬をなでる風が気持ちいい。
 今日はいつもと違うことばかりだ。着慣れない服、初めての場所、人、物。こんなにあの人たちと一緒にいるのも初めてで、なんだかずっと緊張していて、気が抜けない。

 会場内は居心地が悪かった。
 ずっと訝しげな、嫌うような、品定めをするような視線を送られているのを、いやでも感じてしまう。どうしてそんな視線を送られるのか、礼儀作法が間違っていたのか、何か無礼をしてしまったのか、考えだしたらキリがない。でも、僕だって勉強したのだ。きっとほかに理由があるのだろう。みんなが口をそろえて言うのだ、“噂”と。きっと、僕の知りえないところで僕の何かしらの噂が立っているのだろう。おそらく家族が広めたか、と考える。そうでなくてはつじつまが合わない。

 しばらく休憩していると、会場内に戻ることを躊躇してしまう。あそこは、居心地が悪い。
 でもそんなことも言っていられない。

 そろそろ戻ろう、そう思って扉を開けた。
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