愛されることを知らない僕が隣国の第2王子に愛される

鮎瀬ゆう

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 この寮の食堂もたくさんメニューがあった。
 名前からだとどんな物なのかわからないし、どのくらいの量かもわからない。多すぎて食べきれなかったら申し訳ないし、値段が低ければ量もそれに比例するだろうと、昼同様、値段の1番低い物にすることした。

「本当にそれでいいの?」
「うん。…はい」

 気を抜くと敬語が抜けてしまって焦る。周りに人もいるから注意しないと。周りの人に聞かれて、シエロに迷惑を掛けてしまったら嫌だ。

 2人で注文し、料理を受け取り、先ほどの席に戻る。
 ソラナはその間にいなくなっていた。なぜかその席の周りは人も少なくなっていて、喧騒から離れている。やっと肩の力が抜ける感覚がした。他の席はどこもいっぱいなのに、どうしてここだけそうなっているのかわからなかったけれど、僕にとってはありがたかった。
 それにこのくらい他の人と距離があれば、シエロと普通に話していても聞こえないだろうと判断し、今だけ普通に話すことにした。

「本当にそれだけで足りる?」
「うん、大丈夫だよ」

 心配そうな顔をしたシエロが僕に聞いてくる。この問いは、席に着くまでにも何回かされている。大丈夫と言っているのだが、シエロはずっと心配しているようだ。
 値段は気にしなくていいんだよ、と言ってくれたが、気にしていないと言ったらうそになるが、気にしているのはそれだけではないし、僕が頼んだものはサンドイッチとスープのセットで、これであれば僕のお腹は膨れる。だから、本当に大丈夫と説得したと思ったが、できてなかったみたいだ。

 いただきます、と2人で言って食べ始めた。
 お昼の時も思ったが、ここの学園のご飯はおいしい。サンドイッチのパンはふわふわで、中に挟まっている物もたくさんあって、すごくおいしい。

「テオ、はい」

 ふいに、シエロが僕の目の前にフォークを差し出してくる。そのフォークの先にはシエロが頼んだおかずがある。どうしたんだろう、と疑問に思ってシエロを見つめる。

「ほら、口開けて?」

 あー、と言いながらシエロが口を開ける動作をしてくる。その意図が読めないが、とりあえず同じ動きをしてみる。

「あー」
「ん」

 僕の開けた口へそのフォークを入れられて驚いたがシエロが口を閉じる動作をしたため、それに倣って、反動的に僕も口を閉じてしまう。フォークは取り除かれて、口の中にはおいしい焼き魚が残った。

「どう?おいしい?」

 食べろということかと理解し、咀嚼する。柔らかくて、ふわふわで、おいしい。
 口に物が入っていてしゃべれないので首を縦に振っておいしいと伝える。こんな魚は初めて食べる。おいしい。自然と頬が緩む。

「よかった。シエロは細いから心配になるんだ。無理に食べろとは言わないけど、もしよかったらこれ、もう少し食べない?」
「…じゃあ、もう一口、もらってもいい?」
「もちろん」

 こんなわがままいいのかな、とも思ったが、そう僕が言ったらシエロは嬉しそうに、また一口僕にくれた。シエロと食べるご飯はおいしくて、幸せってこのことなのかな、なんて漠然と思うくらい、その時間は本当に嬉しくて、楽しかった。
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