愛されることを知らない僕が隣国の第2王子に愛される

鮎瀬ゆう

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「…っご、めんなさ…めんなさいっ…」

 そこは、僕が住んでいた家の部屋。怖い思い出しかない、部屋。そこに、一人。周りに人なんていないのに、たくさんの人の声が聞こえてくる。それはすべて僕を否定するもの。僕を嫌うもの。耳をふさいでも意味はない。

 気が付くと、周りにたくさんの大人たちが立っていて、僕に向かって手をあげる。それが、痛くて、痛くて、痛くて。怖くて、苦しくて。やめてって何度叫んでも誰もやめてくれない。助けてくれない。だから、耐えるしかなくて。そしてだんだん暗闇に飲み込まれていく。

「―はっ」

 こうしていつも飛び起きては、自分のいる場所が寮の部屋だとわかると安心して。でも、心拍数の上がった心臓は一向に落ち着かない。今のは本当に夢だったのか、僕の周りにあの怖い人たちは本当にいないのか。怖くなって布団を頭までかぶってみても安心することなんてなくて。どうしたらいいかわからなくて、もう一度寝てしまおうと思って目をつむっても、夢の光景と、今まで僕が見てきた光景がフラッシュバックして眠れなくて。
 その夢は、まるでその出来事を忘れるんじゃないと、僕が嫌われ者なことを忘れるんじゃないと言っているように感じる。この幸せな毎日の方が僕にとっては、非現実で、あの怖いつらい日々が現実。こっちに慣れてしまったら、元の生活に戻るときに辛くなるから。だから思い出せと本能が言っているのかもしれない。


 でも、僕はもう慣れてしまった。この非現実に。

 留学にきてから、数か月。こっちに来てからの毎日は楽しくて、嬉しいことばかりで。それこそ、夢みたいな毎日。シエロと毎日一緒にいられて、楽しくて、嬉しくて、安心する。だからこそ、この夢と今までの毎日が僕には余計につらくて、怖くて、痛くて。

 もうすっかりつかなくなった傷。もう痛い傷はないはずなのに、この夢を見ると体が痛い気がして。怖くて、怖くて、シエロに会いたくなって。布団で自分の体を隠したまま部屋のドアまで移動して、今の時間に気が付く。もう夜も深い。シエロは眠っている。起こしたくない。そうして、また自分のベッドまで戻って、目をつむって、眠れなくて。そんな夜をもう何度も繰り返している。
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