愛されることを知らない僕が隣国の第2王子に愛される

鮎瀬ゆう

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「――だ、誰か!誰か、来てくださいっ」
「大きな声を出さなくても聞こえている。どうした」

 僕の部屋の前にはこの間のようにソラナ殿下が立っていて、それに驚いていると、ふいに腕をつかまれてバランスを崩してしまい、その人の胸の中に倒れこんだ。
 その腕の中は、僕が何度も経験した大好きな場所で、安心して、温かくて、ドキドキする、そんな場所。
 恐る恐る顔を上げたら、僕の大好きな目が僕を見ていて、驚いて息を呑む。

「……今日は、お休みするって……」
「どうしても、テオの隣にいたくて、我慢できなかった。でも、遅くなちゃったね。ごめんね」
「……っ、ううん。ううんっ!う、れしいっ……ふっ、うぅっ……」
「怖かったね。もう、大丈夫」
「……んっ、うんっ……っ」

 シエロが隣にいなくても心は側にいるからってわかっていても、久しぶりに全身に浴びた悪意に僕の心は案外傷ついてしまったようで、朝ぶりに会うシエロに、僕はあふれてくる涙を我慢できなかった。

「シエロ殿下、その男から離れてくださいっ!これは、あまりにも……っ」
「……とにかく落ち着け。話は場所を移してーー」

 耳に入ってきたその声に体がはねて、身体が震える。これ以上、何か言われるのが怖くて、シエロから身体を離そうとしたけれど、シエロの腕に力が入って離れられない。

「落ち着けませんわ!こ、こんな……あ、兄の部屋から、この瓶が……っ。これは、毒、です!」
「……はぁ」

 エミリアの声と、ソラナ殿下がいるからか、そこは人だかりができていた。
 その人だかりから、やっぱり、だとか、こわい、だとか、そんなことをしたのにあんなにくっついて、まだ何かしようとしているのではないかとか、そんな声が聞こえてきた。
 でもその中に、あの二人はあんなに仲睦まじいのにそんなことが起きるのかと、噂や今の出来事に疑問を持ってくれている声もあるようだった。

 その人混みを見たくなくて目をそらそうとしたら、不安そうにこちらを見ているルイがいた。それで僕はようやく、二人が騒ぎが起こる前からここにいてくれた意味が分かった。

「とりあえず、この瓶は預かっておく。それから、再度伝えておくが、この件に関してはこちらできちんと調査を進めている。……現時点でわかっていることもある。そんな中、真偽もわからない噂を信じ、こそこそと話すようなことはしないように。わかったな」

 ソラナ殿下はさすが第一王子だというような風格でそう言い放った。

「それから、エミリア嬢とテオ。学園長がお呼びだ。ついてこい」

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