ブラック シップを知っているかい?

フランク太宰

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ブラック シップを知っているかい?

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 ブラック シップを知っているかい?


 一艘で悲しく泳ぐ黒い船、回りの船は闇夜に浮かぶ黒い船を危険で邪魔な存在だと思っている。
 船たちは皆、黄金に輝くジパングを目指し齷齪(あくせく)毎日、荒波を航海する。塩水を体に直接、浴びる船員達も必死だが、女王陛下から直接、命令を受けた船長も必死だ。国に住む美しい妻と娘の首もとには常に黒い刃が触れている。
内心、船長も船員も思っている
馴染みの女にも会えない嫌な仕事だと。
 しかし、それでも彼らは大海原をさ迷い続ける。
 彼らは南の島に住む船員達とは
異なる肌の色の人々から見ると、奇異な人々に思えた。彼らは口を揃え良く言った
「目の死んだ奴等には気をつけろ」と。
 目の死んだ奴等は自分達の生活を脅かすからだ。そして自分達の目の色も変えていく。
 しかし、ブラック シップの船員達は違う彼らはジパングを目指してなどいないし、船長は女王陛下と会ったこともない。彼らは別の島を目指している、どんな島かは誰も知らない、ただ、その島は正確な海図にも乗っていない。それでもブラック シップはその島を探している。
 ブラック シップの船員達は皆、体も精神もズタズタの奴等だ、中には毎日、小綺麗な燕尾服を着た風変わりな奴もいる。何で、そんな格好をしているのかとよく聞かれるが、その度に彼は答える
「この格好が好きなんだ」と。
 今日もブラック シップは海鳥達とは別の方向に進路をとる、そして正確な海図を甲板で燃やす。この炎が船の動力源だ。
 
  私は今日も願う彼等に幸あれと、彼らの進む海路に荒波たたんことお。
1/5/1918

 こんな意味不明な文書を残し売れない作家Jは書斎で拳銃でこめかみを撃った状態で発見された、無論死んでいた。
 第一発見者の彼の妻は発狂していて調書も取れない。
彼女には時間が必要だ。
  勤続歴三十年になる、ベテラン刑事は休憩中に署の廊下でパイプを吹かしていた。
そこに新米がやって来た。
彼は言った
「自殺で間違いないでしょうね」
そして、短い両切煙草を吸い始めた。
ベテラン刑事はパイプを吹かしながら、懐から懐中時計を取りだし、時間を見た。
そして言った
「俺はそうは思わない」
「何故ですか?」新米はあきれながら聞いた。
「あの遺書的な物には、船員の苦労とか色々書かれていただろ、気にならないか?」
「何がですか?私には世間に認められない鬱憤を書いたのだと感じられましたが」
「そうだよ鬱憤が書いてあった。しかしね、あの作家は鬱憤はあっただろうが、苦労していたと思うか?」
「はーまー売れない作家ですから」
「俺はあの作家の他の作品を読んだよ、まー売れない話だったな」
「だから自殺したのでは?」
「あの作家の世話は妻が全部やっていたんだ、妻の方は良いとこの出らしい。駆け落ちしたらしいね、しかし、御実家の方からの支援もあったようだ。だから作家の方は何不自由なく自己中に生活していたようだよ、あの作家の文章を読んでいると"ヒモ"の臭いがする」
「でも、それとこれとは違うのでは?」
「何故、良家のお嬢さんが作家なんかと駆け落ちしたのかわかるか?」
「さー才能に引かれたとか?」
「あーきっとそうなのかもな、自分に無いものを感じたとか、そんなところだろう」
 ベテラン刑事はもう一度、懐中時計を見て新米を残し、妻に事情聴取を再開しようとした。
そして、新米に向かって言った
「ブラック シップの意味知ってるか?」
新米は答えた
「いいえ、彼の造語ではないのですか?」
「ブラック シップはイギリス英語で"馴染めない奴"ていう意味だ」
「ですから、それは死んだ作家と今の流行とか文壇とかとの兼ね合いなのでは?」
 ベテラン刑事はめんどくさそうに答えた
「どのみち、答えは出るさ、それにたいした事件じゃない」

  この事件に関する詳細は後の空襲のために分からなくなった。
自殺か他殺か?
しかし、考えてみれば、どちらにしろ作家が作家自身を死に追いやったのに違いわない。
 
  そして、今もブラック シップは何処かの海原を苦労しながら進んでいる。
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