やさしい魔法使いの起こしかた

青維月也

文字の大きさ
201 / 218
第四話 王都次代編

4ー31 王子様の王都観光ツアー

しおりを挟む
 キヨウ観光の目玉といえば、歴史ある街並み、由緒ある神殿、そしてなんと言っても絢爛豪華な王宮である。

 しかし、セツは王宮で寝起きしている。
 よって、王宮見学はなし。

 神殿巡りも……ロワメールは、セツが神殿に参拝しているのを見たことも聞いたこともない。たぶん、あまり興味がないのだろう。
 そもそも四属性のセツが参拝するとしたら、火神神殿、水神神殿、風神神殿、土神神殿の四神殿になるのだろうが、複数の神殿を参拝すると神様が嫉妬するから、とあまり推奨はされていない。

 なら歴史ある街並み散策かといえば、セツにとっては取り立ててめずらしくもないものだった。三百年前の屋敷だって、見慣れた光景なのだ。よって、これも却下である。

 キヨウ観光のおすすめスポットは軒並み不採用だが、ロワメールには秘策があった。
 セツに王都を案内するならどこがいいかずっと考え、絶対喜んでくれるであろう場所に目星をつけてある。

 その場所とは、ズバリ——。

「じゃじゃーん! キヨウの台所、シキ市場だよ!」
 ロワメールは両腕を広げ、自信たっぷりにセツに紹介する。
 彼らのいる通りの右を見ても左を見ても、店がズラリと並んでいた。

 シキ市場は商業街からは外れ、清明通りと穀雨通りの間にあるシキ小路を、東西に四百メトル弱続く長い市場である。
 生鮮食品に加工商品、飲食店まで百三十軒以上の店舗が並ぶ大きな市場だった。

「すごいな……」
「でしょ? ここは、いつ来ても人がいっぱいだよ」
 圧巻されるセツに、ロワメールも頷く。
 客層も様々だ。夕飯の食材を買いに来た庶民から、料理店の板前や貴族のお抱え料理人、観光客まで多彩である。

「ここは、少なくとも四百年以上前から市が立ってたんだって」
「そう言えば、昔もこの辺に市があったか」
「この辺りには冷たい地下水が流れていて、それで食材の保存に適してるとか聞いたよ」
 念願の財布を手にし、ロワメールは意気揚々と市場を歩きながら、セツに解説する。

 青果、雑穀、香辛料、川魚、豆腐、漬物、酒、乾物、お茶、お菓子……数え上げたらきりがないほど、多種多様な店が軒を連ねていた。

「毎度ありー!」
「今朝取れたミズナとコマツナだよぉ!」
 店々で店主と客がやり取りし、客の途切れた店では大きな声で売り子が客引きをしている。
 とても活気に溢れ、賑やかだ。

「あ、ここの湯豆腐美味しいって、ノアとノエが言ってた」
「湯豆腐か、いいな」
 のんびりと市場を散策しながらロワメールが小料理屋を指差せば、セツも興味津々な様子だった。

 漬物屋の前で足を止めれば、店主がハクサイのぬか漬けを味見させてくれる。
 肩にネコを乗せた黒髪の美青年と魔法使いの二人は目立つのか、他にも色んな店で味見してってよと、気さくに声をかけられた。
 
「お昼ごはん、食べずに来たらよかった」
 早々にロワメールが後悔する。
 味見したどれも美味しく、もっと食べたくなってしまった。

「さすが王都だな。品揃えがいい」
 セツも食材の新鮮さに目を瞠りながら、楽しそうに店先を覗きこむ。
 ロワメールが思うに、セツはたぶん、料理をするのが好きなのだ。本人は必要に迫られてしているつもりだが、料理をしているセツはいつも楽しそうである。

 そんな中、セツが一軒の店の前で足を止めた。
 茶葉を扱う店である。

「この店……」
「セツ、どうしたの?」
「師匠が好きだった店だ」

 セツが見上げる『錦秋茶舗』と屋号の書かれた看板は、ずいぶん年季が入っている。
 オジ師匠がキヨウに来るたび、この店で茶葉を買っていたそうだ。

「お茶、飲んでいこうよ」
 思い出の味なら、ロワメールもぜひ味わいたい。奥には喫茶スペースもあるようで、テーブルも見受けられる。
 店先にも椅子が置かれ、ミエルを連れていても利用できそうだ。

「ご贔屓にどうも」
 彼らの会話が聞こえていたらしい店員が、笑顔でお茶を持ってきてくれる。店員もまさか三百年前のこととは思うまいが、師弟での愛顧は店にとっても嬉しいに違いない。

 小さなテーブルに置かれた湯呑みからは、爽やかな香りがした。

「いつもロワメールが世話をかけるな」
 セツは、ヒューイにも湯呑みを手渡す。

「オレ、今、仕事中……」
 寡黙な専属護衛の青年は、驚いて咄嗟に遠慮した。ロワメールと二人で脱走……もとい、散歩する時は、実はヒューイがお金を出して、二人でお茶を飲んだりしている。
 これはヒューイの奢りではなく、オーレリアンがこっそり渡してくれている脱そ……散歩用資金である。

 しかし今回は、ロワメールとセツの散歩に、ヒューイは護衛として同行していたので、まさか自分もお茶に誘われるとは思わなかったようだ。

「ああ、だから、ロワメールの横に座って護衛をしてくれ」
 ロワメールもポンポンと隣の椅子の座面を叩き、お座りよと促す。
 
「美味しいね」
「ああ、懐かしいな。こんな味だった気がする」
 三人で綺麗な緑色のお茶を啜れば、わずかな渋味のあとに甘さが舌の上に残った。

「マスター」
 王子と穏やかに語り合う名付け親を見、ヒューイがぽつりと口を開く。

「オレは、ルゥークーの下級騎士家に生まれた。主家のエリスリナ家は将軍家に命じられ断絶。一族郎党、みんな死んだ。まだ子どもだったオレだけが逃され、生き延びた」

 そう言えば、この口数の少ない褐色の肌の青年がセツに話しかけるのを、ロワメールが見るのは初めてかもしれなかった。
 ロワメールとセツを間近で見て、きっとヒューイなりになにか思うところがあったのだろう。

「王子は、逃げる最中、崖から落ちて記憶喪失になったオレを拾って、助けてくれた。王子は命の恩人。だから」
 訥々と語る青年に、セツは黙って耳を傾ける。

「命を賭けて、王子を守る。安心してほしい」
「ああ。頼む」
 不器用ながらも真っ直ぐなヒューイの言葉に、セツは小さく微笑んだ。





 ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽


❖ お知らせ ❖

 読んでくださり、ありがとうこざいます!

 4ー32 魔法使いギルド、キヨウ支部 は、10/29
(水)21時頃に投稿を予定しています。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

精霊が俺の事を気に入ってくれているらしく過剰に尽くしてくれる!が、周囲には精霊が見えず俺の評価はよろしくない

よっしぃ
ファンタジー
俺には僅かながら魔力がある。この世界で魔力を持った人は少ないからそれだけで貴重な存在のはずなんだが、俺の場合そうじゃないらしい。 魔力があっても普通の魔法が使えない俺。 そんな俺が唯一使える魔法・・・・そんなのねーよ! 因みに俺の周囲には何故か精霊が頻繁にやってくる。 任意の精霊を召還するのは実はスキルなんだが、召喚した精霊をその場に留め使役するには魔力が必要だが、俺にスキルはないぞ。 極稀にスキルを所持している冒険者がいるが、引く手あまたでウラヤマ! そうそう俺の総魔力量は少なく、精霊が俺の周囲で顕現化しても何かをさせる程の魔力がないから直ぐに姿が消えてしまう。 そんなある日転機が訪れる。 いつもの如く精霊が俺の魔力をねだって頂いちゃう訳だが、大抵俺はその場で気を失う。 昔ひょんな事から助けた精霊が俺の所に現れたんだが、この時俺はたまたまうつ伏せで倒れた。因みに顔面ダイブで鼻血が出たのは内緒だ。 そして当然ながら意識を失ったが、ふと目を覚ますと俺の周囲にはものすごい数の魔石やら素材があって驚いた。 精霊曰く御礼だってさ。 どうやら俺の魔力は非常に良いらしい。美味しいのか効果が高いのかは知らんが、精霊の好みらしい。 何故この日に限って精霊がずっと顕現化しているんだ? どうやら俺がうつ伏せで地面に倒れたのが良かったらしい。 俺と地脈と繋がって、魔力が無限増殖状態だったようだ。 そしてこれが俺が冒険者として活動する時のスタイルになっていくんだが、理解しがたい体勢での活動に周囲の理解は得られなかった。 そんなある日、1人の女性が俺とパーティーを組みたいとやってきた。 ついでに精霊に彼女が呪われているのが分かったので解呪しておいた。 そんなある日、俺は所属しているパーティーから追放されてしまった。 そりゃあ戦闘中だろうがお構いなしに地面に寝そべってしまうんだから、あいつは一体何をしているんだ!となってしまうのは仕方がないが、これでも貢献していたんだぜ? 何せそうしている間は精霊達が勝手に魔物を仕留め、素材を集めてくれるし、俺の身をしっかり守ってくれているんだが、精霊が視えないメンバーには俺がただ寝ているだけにしか見えないらしい。 因みにダンジョンのボス部屋に1人放り込まれたんだが、俺と先にパーティーを組んでいたエレンは俺を助けにボス部屋へ突入してくれた。 流石にダンジョン中層でも深層のボス部屋、2人ではなあ。 俺はダンジョンの真っただ中に追放された訳だが、くしくも追放直後に俺の何かが変化した。 因みに寝そべっていなくてはいけない理由は顔面と心臓、そして掌を地面にくっつける事で地脈と繋がるらしい。地脈って何だ?

犬の散歩中に異世界召喚されました

おばあ
ファンタジー
そろそろ定年後とか終活とか考えなきゃいけないというくらいの歳になって飼い犬と一緒に異世界とやらへ飛ばされました。 何勝手なことをしてくれてんだいと腹が立ちましたので好き勝手やらせてもらいます。 カミサマの許可はもらいました。

「犯人は追放!」無実の彼女は国に絶対に必要な能力者で“価値の高い女性”だった

佐藤 美奈
恋愛
セリーヌ・エレガント公爵令嬢とフレッド・ユーステルム王太子殿下は婚約成立を祝した。 その数週間後、ヴァレンティノ王立学園50周年の創立記念パーティー会場で、信じられない事態が起こった。 フレッド殿下がセリーヌ令嬢に婚約破棄を宣言した。様々な分野で活躍する著名な招待客たちは、激しい動揺と衝撃を受けてざわつき始めて、人々の目が一斉に注がれる。 フレッドの横にはステファニー男爵令嬢がいた。二人は恋人のような雰囲気を醸し出す。ステファニーは少し前に正式に聖女に選ばれた女性であった。 ステファニーの策略でセリーヌは罪を被せられてしまう。信じていた幼馴染のアランからも冷たい視線を向けられる。 セリーヌはいわれのない無実の罪で国を追放された。悔しくてたまりませんでした。だが彼女には秘められた能力があって、それは聖女の力をはるかに上回るものであった。 彼女はヴァレンティノ王国にとって絶対的に必要で貴重な女性でした。セリーヌがいなくなるとステファニーは聖女の力を失って、国は急速に衰退へと向かう事となる……。

巻き込まれた薬師の日常

白髭
ファンタジー
神に選ばれ、魔素の循環する界へと送り込まれたのは――現代の薬師。 剣も魔法も扱えない彼が憑依したのは、戦闘力ゼロの商人見習いの少年だった。 彼の武器は、知識と経験。商品を生み出し、人脈を築き、産業を広げていく。 「居場所を見つけたい」その願いが、やがて世界を変える力となる。 これは、一人の薬師が紡ぐ研究と開発、そして成長の物語。 【カクヨムでも掲載しています】 表紙は紹介文をもとに、ai【adobe firefly】で作成したものです。(参考程度に……)

「追放された雑用係の俺、《真理の鑑定眼》で隠れた天才を集めたら最強パーティになっていた」

きりざく
ファンタジー
ブラック企業で過労死した男は、異世界に転生し《真理の鑑定眼》を授かった。 それは人や物の“本当の価値”、隠された才能、そして未来の到達点までを見抜く能力だった。 雑用係として軽視され、ついには追放された主人公。 だが鑑定眼で見えたのは、落ちこぼれ扱いされていた者たちの“本物の才能”だった。 初見の方は第1話からどうぞ(ブックマークで続きが追いやすくなります)。 評価されなかった剣士、魔力制御に欠陥を抱えた魔法使い、使い道なしとされた職業―― 主人公は次々と隠れた逸材を見抜き、仲間に迎え入れていく。 やがて集ったのは、誰もが見逃していた“未来の最強候補”たち。 鑑定で真価を示し、結果で証明する成り上がりの冒険が始まる。 これは、見る目のなかった世界を置き去りに、 真の才能を集めて最強パーティへと成り上がる物語。

女性が少ない世界に転生した控えめ伯爵令嬢、なぜか五人の婚約候補に選ばれて少しずつ恋を知っていきます

ノッポ
恋愛
女性が極端に少ない異世界に転生した私は、気づけば伯爵令嬢になっていた。 前世は日本で普通に生きていたせいか、貴族令嬢らしい強気な振る舞いがどうしても苦手。 社交界デビューを迎えても、「どうして私が選ばれるの?」と戸惑うばかりだった。 けれど今年デビューする高位令嬢はわずか三人。 家同士の思惑も重なり、騎士団長家の息子、宰相子息、魔術師団長の息子、幼なじみの侯爵子息、そして英雄騎士―― 五人の若きエリートとのお見合いが次々と始まってしまう。 遠慮がちで控えめな性格は、この世界では珍しく、気づけば少しずつ距離を縮めていく彼ら。 異世界での恋愛に戸惑う日々。けれど出会いを重ねるたびに、私は少しずつ変わっていく――。 女性希少世界の社交界で、自分の幸せを選べるようになるまでの ほのぼの甘い逆ハーレム恋愛ファンタジー。

拝啓。私を追い出した皆様へ! 化け物と噂の辺境伯に嫁がされましたが噂と違い素敵な旦那様と幸せに暮らしています。

ハーフのクロエ
恋愛
 公爵家の長女のオリビアは実母が生きている時は公爵家令嬢として育ち、8歳の時、王命で王太子と婚約して12歳の時に母親が亡くなり、父親の再婚相手の愛人だった継母に使用人のように扱われていた。学園の卒業パーティーで婚約破棄され、連れ子の妹と王太子が婚約してオリビアは化け物と噂のある辺境伯に嫁がされる。噂と違い辺境伯は最強の武人で綺麗な方でオリビアは前世の日本人の記憶持ちで、その記憶と魔法を使い領地を発展させて幸せになる。

処理中です...