4 / 218
第一話 野望編
3 司
しおりを挟む
「待たせたな」
セツがその部屋に入ると、大きな円卓に座していた四人の司が一斉に起立した。
「マスター」
恭しくセツを出迎える。
セツは彼らに見向きもせず、ツカツカと部屋を横切り、一番奥、いわゆる上座にあたる席を腰を下ろした。
セツから時計回りに炎司、水司、風司、土司の順に座っている。アナイス以外は知らない顔だった。
セツはそんな彼らを一瞥し、期せずして一人の司の上で視線が止まる。
「ほお」
感心し、思わず声が漏れた。
「三色か」
わずかに覗くフードの裏地は薄緑。白、青、黄色……風、水、土の三属性の魔法を使えることを意味している。
魔法使いは皇八島全土でもほんの一握り、その中でも複数の属性を併せ持つ者はさらに限られる。二つの属性を持つだけでもめずらしいというのに、三属性に恵まれるとは稀有な才能の持ち主だった。
セツに感嘆の目を向けられ、白衣を羽織った小柄な風司の女性は挙手をして自己紹介した。
「モニク・サンク・ペリュシュでっす! マスター、よっろしくお願いしまーす!」
司としては、とても若い。大きな丸メガネで顔の半分が隠れているが、学生にも見える。頭の上で丸められたタンポポ色の髪が元気に跳ねていた。
メガネの奥からキラキラした眼差しが、セツを見つめる。魔力の塊であるマスターに注がれる、研究者特有の涎を垂らさんばかりの熱い視線……悪寒が走り、セツは見なかったことにする。
「当代は恵まれた者が多い。モニク殿の他に、もう一人三色がいる」
逃げるように視線を逸らした先で、今度は水司と目が合った。亜麻色の長い髪に男物の着物を着た、うら若き美女である。
「挨拶が遅れた。ジル・キャトル・レオールだ」
「レオール? あのレオール家か?」
「ああ。あのレオールだ」
男装の麗人は、気負いなく頷く。
魔力は遺伝ではない。しかし、魔法使いを多く輩出する家系というものは存在する。その中でもレオール家といえば、優秀な魔法使いが多く生まれることで有名だった。
「例え三色だろうが、力の使い方を間違えちゃあ意味がねえ」
セツの右隣で、怖い顔の老人が唸る。ローブの裏地は黄色、土司であった。
「ガエル・ラミだ。今回は世話をかける、マスター」
ローブの上からでもわかる巌のような体躯、こんがりと日に焼けた髭面の強面は、どう見ても堅気には見えなかったが、土木技術に特化した技術職だそうだ。
「それで?」
椅子の背に体重を預け、セツは今一度司を見回した。
「魔法使い殺しである、俺を起こした理由はなんだ?」
セツが促せば、場の空気がかわる。
魔法使いギルドには、三つの掟があった。
命を対価とせず。
魔法を私闘に使用せず。
いかなる権力にも与せず。
それが、魔法使いの三大タブーである。
掟を破った裏切り者には死を――。
それは、遥か昔からかわることのない、ギルドの絶対の掟だった。
「マスター・セツ。裏切り者の一級魔法使い、三色のレナエルに処罰を!」
四色の司が、セツを見つめる。
「任せろ」
最強の魔法使いは、不敵に答えるのだった。
「……で、なんで俺は、閉じ込められてるだ!?」
セツは不機嫌だった。
ソファに座って腕を組み、苛立ちを隠しきれない。
革張りのソファはふかふかと座り心地がよく、部屋の調度は豪華絢爛だ。テーブルはもとより、ランプひとつとっても最高級品が揃えられている。
ギルド本部でも滅多に使われない、貴賓室である。
——今回は、あなたに同行者がいます。その方がいらっしゃるまで、ここで待っていてちょうだい。
——同行者? ってなんだ? おい!?
アナイスは有無を言わさず、セツをこの部屋に閉じ込めたのである。
しかも驚くセツをよそに、ガチャリ、と無情な音が響いた。
セツが逃げ出さないよう、ご丁寧に鍵までかけたのである。
「宮廷が、黙ってなかったか」
セツはドサリと音を立てて、ソファにもたれかかった。
今回、裏切り者の魔法使いにより、貴族が殺され、領主まで殺されかけている。
無理もなかった。
応接室ではなく貴賓室が用意されたところを見ると、よほどの大物が動いているらしい。
「面倒臭いな……」
窓の外には、眩い夏の陽射しが降り注ぐ。
セミの声がうるさかった。
「……難癖つけて断るか」
逃げることもできたが、それをしたら、さすがにギルドの体面が保てまい。
だが、貴族のお守りもご機嫌取りもごめんである。それは、マスターの仕事ではなかった。
ほどなくやって来るだろう宮廷の高官を待つ間に、セツは断る算段をつけていた。
セツがその部屋に入ると、大きな円卓に座していた四人の司が一斉に起立した。
「マスター」
恭しくセツを出迎える。
セツは彼らに見向きもせず、ツカツカと部屋を横切り、一番奥、いわゆる上座にあたる席を腰を下ろした。
セツから時計回りに炎司、水司、風司、土司の順に座っている。アナイス以外は知らない顔だった。
セツはそんな彼らを一瞥し、期せずして一人の司の上で視線が止まる。
「ほお」
感心し、思わず声が漏れた。
「三色か」
わずかに覗くフードの裏地は薄緑。白、青、黄色……風、水、土の三属性の魔法を使えることを意味している。
魔法使いは皇八島全土でもほんの一握り、その中でも複数の属性を併せ持つ者はさらに限られる。二つの属性を持つだけでもめずらしいというのに、三属性に恵まれるとは稀有な才能の持ち主だった。
セツに感嘆の目を向けられ、白衣を羽織った小柄な風司の女性は挙手をして自己紹介した。
「モニク・サンク・ペリュシュでっす! マスター、よっろしくお願いしまーす!」
司としては、とても若い。大きな丸メガネで顔の半分が隠れているが、学生にも見える。頭の上で丸められたタンポポ色の髪が元気に跳ねていた。
メガネの奥からキラキラした眼差しが、セツを見つめる。魔力の塊であるマスターに注がれる、研究者特有の涎を垂らさんばかりの熱い視線……悪寒が走り、セツは見なかったことにする。
「当代は恵まれた者が多い。モニク殿の他に、もう一人三色がいる」
逃げるように視線を逸らした先で、今度は水司と目が合った。亜麻色の長い髪に男物の着物を着た、うら若き美女である。
「挨拶が遅れた。ジル・キャトル・レオールだ」
「レオール? あのレオール家か?」
「ああ。あのレオールだ」
男装の麗人は、気負いなく頷く。
魔力は遺伝ではない。しかし、魔法使いを多く輩出する家系というものは存在する。その中でもレオール家といえば、優秀な魔法使いが多く生まれることで有名だった。
「例え三色だろうが、力の使い方を間違えちゃあ意味がねえ」
セツの右隣で、怖い顔の老人が唸る。ローブの裏地は黄色、土司であった。
「ガエル・ラミだ。今回は世話をかける、マスター」
ローブの上からでもわかる巌のような体躯、こんがりと日に焼けた髭面の強面は、どう見ても堅気には見えなかったが、土木技術に特化した技術職だそうだ。
「それで?」
椅子の背に体重を預け、セツは今一度司を見回した。
「魔法使い殺しである、俺を起こした理由はなんだ?」
セツが促せば、場の空気がかわる。
魔法使いギルドには、三つの掟があった。
命を対価とせず。
魔法を私闘に使用せず。
いかなる権力にも与せず。
それが、魔法使いの三大タブーである。
掟を破った裏切り者には死を――。
それは、遥か昔からかわることのない、ギルドの絶対の掟だった。
「マスター・セツ。裏切り者の一級魔法使い、三色のレナエルに処罰を!」
四色の司が、セツを見つめる。
「任せろ」
最強の魔法使いは、不敵に答えるのだった。
「……で、なんで俺は、閉じ込められてるだ!?」
セツは不機嫌だった。
ソファに座って腕を組み、苛立ちを隠しきれない。
革張りのソファはふかふかと座り心地がよく、部屋の調度は豪華絢爛だ。テーブルはもとより、ランプひとつとっても最高級品が揃えられている。
ギルド本部でも滅多に使われない、貴賓室である。
——今回は、あなたに同行者がいます。その方がいらっしゃるまで、ここで待っていてちょうだい。
——同行者? ってなんだ? おい!?
アナイスは有無を言わさず、セツをこの部屋に閉じ込めたのである。
しかも驚くセツをよそに、ガチャリ、と無情な音が響いた。
セツが逃げ出さないよう、ご丁寧に鍵までかけたのである。
「宮廷が、黙ってなかったか」
セツはドサリと音を立てて、ソファにもたれかかった。
今回、裏切り者の魔法使いにより、貴族が殺され、領主まで殺されかけている。
無理もなかった。
応接室ではなく貴賓室が用意されたところを見ると、よほどの大物が動いているらしい。
「面倒臭いな……」
窓の外には、眩い夏の陽射しが降り注ぐ。
セミの声がうるさかった。
「……難癖つけて断るか」
逃げることもできたが、それをしたら、さすがにギルドの体面が保てまい。
だが、貴族のお守りもご機嫌取りもごめんである。それは、マスターの仕事ではなかった。
ほどなくやって来るだろう宮廷の高官を待つ間に、セツは断る算段をつけていた。
0
あなたにおすすめの小説
私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。
小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。
「マリアが熱を出したらしい」
駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。
「また裏切られた……」
いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。
「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」
離婚する気持ちが固まっていく。
精霊が俺の事を気に入ってくれているらしく過剰に尽くしてくれる!が、周囲には精霊が見えず俺の評価はよろしくない
よっしぃ
ファンタジー
俺には僅かながら魔力がある。この世界で魔力を持った人は少ないからそれだけで貴重な存在のはずなんだが、俺の場合そうじゃないらしい。
魔力があっても普通の魔法が使えない俺。
そんな俺が唯一使える魔法・・・・そんなのねーよ!
因みに俺の周囲には何故か精霊が頻繁にやってくる。
任意の精霊を召還するのは実はスキルなんだが、召喚した精霊をその場に留め使役するには魔力が必要だが、俺にスキルはないぞ。
極稀にスキルを所持している冒険者がいるが、引く手あまたでウラヤマ!
そうそう俺の総魔力量は少なく、精霊が俺の周囲で顕現化しても何かをさせる程の魔力がないから直ぐに姿が消えてしまう。
そんなある日転機が訪れる。
いつもの如く精霊が俺の魔力をねだって頂いちゃう訳だが、大抵俺はその場で気を失う。
昔ひょんな事から助けた精霊が俺の所に現れたんだが、この時俺はたまたまうつ伏せで倒れた。因みに顔面ダイブで鼻血が出たのは内緒だ。
そして当然ながら意識を失ったが、ふと目を覚ますと俺の周囲にはものすごい数の魔石やら素材があって驚いた。
精霊曰く御礼だってさ。
どうやら俺の魔力は非常に良いらしい。美味しいのか効果が高いのかは知らんが、精霊の好みらしい。
何故この日に限って精霊がずっと顕現化しているんだ?
どうやら俺がうつ伏せで地面に倒れたのが良かったらしい。
俺と地脈と繋がって、魔力が無限増殖状態だったようだ。
そしてこれが俺が冒険者として活動する時のスタイルになっていくんだが、理解しがたい体勢での活動に周囲の理解は得られなかった。
そんなある日、1人の女性が俺とパーティーを組みたいとやってきた。
ついでに精霊に彼女が呪われているのが分かったので解呪しておいた。
そんなある日、俺は所属しているパーティーから追放されてしまった。
そりゃあ戦闘中だろうがお構いなしに地面に寝そべってしまうんだから、あいつは一体何をしているんだ!となってしまうのは仕方がないが、これでも貢献していたんだぜ?
何せそうしている間は精霊達が勝手に魔物を仕留め、素材を集めてくれるし、俺の身をしっかり守ってくれているんだが、精霊が視えないメンバーには俺がただ寝ているだけにしか見えないらしい。
因みにダンジョンのボス部屋に1人放り込まれたんだが、俺と先にパーティーを組んでいたエレンは俺を助けにボス部屋へ突入してくれた。
流石にダンジョン中層でも深層のボス部屋、2人ではなあ。
俺はダンジョンの真っただ中に追放された訳だが、くしくも追放直後に俺の何かが変化した。
因みに寝そべっていなくてはいけない理由は顔面と心臓、そして掌を地面にくっつける事で地脈と繋がるらしい。地脈って何だ?
犬の散歩中に異世界召喚されました
おばあ
ファンタジー
そろそろ定年後とか終活とか考えなきゃいけないというくらいの歳になって飼い犬と一緒に異世界とやらへ飛ばされました。
何勝手なことをしてくれてんだいと腹が立ちましたので好き勝手やらせてもらいます。
カミサマの許可はもらいました。
「犯人は追放!」無実の彼女は国に絶対に必要な能力者で“価値の高い女性”だった
佐藤 美奈
恋愛
セリーヌ・エレガント公爵令嬢とフレッド・ユーステルム王太子殿下は婚約成立を祝した。
その数週間後、ヴァレンティノ王立学園50周年の創立記念パーティー会場で、信じられない事態が起こった。
フレッド殿下がセリーヌ令嬢に婚約破棄を宣言した。様々な分野で活躍する著名な招待客たちは、激しい動揺と衝撃を受けてざわつき始めて、人々の目が一斉に注がれる。
フレッドの横にはステファニー男爵令嬢がいた。二人は恋人のような雰囲気を醸し出す。ステファニーは少し前に正式に聖女に選ばれた女性であった。
ステファニーの策略でセリーヌは罪を被せられてしまう。信じていた幼馴染のアランからも冷たい視線を向けられる。
セリーヌはいわれのない無実の罪で国を追放された。悔しくてたまりませんでした。だが彼女には秘められた能力があって、それは聖女の力をはるかに上回るものであった。
彼女はヴァレンティノ王国にとって絶対的に必要で貴重な女性でした。セリーヌがいなくなるとステファニーは聖女の力を失って、国は急速に衰退へと向かう事となる……。
巻き込まれた薬師の日常
白髭
ファンタジー
神に選ばれ、魔素の循環する界へと送り込まれたのは――現代の薬師。
剣も魔法も扱えない彼が憑依したのは、戦闘力ゼロの商人見習いの少年だった。
彼の武器は、知識と経験。商品を生み出し、人脈を築き、産業を広げていく。
「居場所を見つけたい」その願いが、やがて世界を変える力となる。
これは、一人の薬師が紡ぐ研究と開発、そして成長の物語。
【カクヨムでも掲載しています】
表紙は紹介文をもとに、ai【adobe firefly】で作成したものです。(参考程度に……)
「追放された雑用係の俺、《真理の鑑定眼》で隠れた天才を集めたら最強パーティになっていた」
きりざく
ファンタジー
ブラック企業で過労死した男は、異世界に転生し《真理の鑑定眼》を授かった。
それは人や物の“本当の価値”、隠された才能、そして未来の到達点までを見抜く能力だった。
雑用係として軽視され、ついには追放された主人公。
だが鑑定眼で見えたのは、落ちこぼれ扱いされていた者たちの“本物の才能”だった。
初見の方は第1話からどうぞ(ブックマークで続きが追いやすくなります)。
評価されなかった剣士、魔力制御に欠陥を抱えた魔法使い、使い道なしとされた職業――
主人公は次々と隠れた逸材を見抜き、仲間に迎え入れていく。
やがて集ったのは、誰もが見逃していた“未来の最強候補”たち。
鑑定で真価を示し、結果で証明する成り上がりの冒険が始まる。
これは、見る目のなかった世界を置き去りに、
真の才能を集めて最強パーティへと成り上がる物語。
拝啓。私を追い出した皆様へ! 化け物と噂の辺境伯に嫁がされましたが噂と違い素敵な旦那様と幸せに暮らしています。
ハーフのクロエ
恋愛
公爵家の長女のオリビアは実母が生きている時は公爵家令嬢として育ち、8歳の時、王命で王太子と婚約して12歳の時に母親が亡くなり、父親の再婚相手の愛人だった継母に使用人のように扱われていた。学園の卒業パーティーで婚約破棄され、連れ子の妹と王太子が婚約してオリビアは化け物と噂のある辺境伯に嫁がされる。噂と違い辺境伯は最強の武人で綺麗な方でオリビアは前世の日本人の記憶持ちで、その記憶と魔法を使い領地を発展させて幸せになる。
【完結】儚げ超絶美少女の王女様、うっかり貧乏騎士(中身・王子)を餌付けして、(自称)冒険の旅に出る。
buchi
恋愛
末っ子王女のティナは、膨大な魔法力があるのに家族から評価されないのが不満。生まれた時からの婚約者、隣国の王太子エドとも婚約破棄されたティナは、古城に引きこもり、魔力でポーションを売り出して、ウサギ印ブランドとして徐々に有名に。ある日、ティナは、ポーションを売りに街へ行ってガリガリに痩せた貧乏騎士を拾ってきてしまう。お城で飼ううちに騎士はすっかり懐いて結婚してくれといい出す始末。私は王女様なのよ?あれこれあって、冒険の旅に繰り出すティナと渋々付いて行く騎士ことエド。街でティナは(王女のままではまずいので)二十五歳に変身、氷の美貌と評判の騎士団長に見染められ熱愛され、騎士団長と娘の結婚を狙う公爵家に襲撃される……一体どう収拾がつくのか、もし、よかったら読んでください。13万字程度。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる