やさしい魔法使いの起こしかた

青維月也

文字の大きさ
15 / 218
第一話 野望編

14 眠れぬ夜に

しおりを挟む
「セツ、少しいいですか?」
 ノックをして顔を覗かせたロワメールは、そこで動きを止める。
 ジーッと室内を見た。


「なんでいるわけ?」


「いえ、ちょっと眠れなくて? セツ様にお相手願ってたんです」
 じっとりと半眼を向けてくる主に、カイはいつものようにニコニコと笑顔を返す。


「ふうん?」
 カイは椅子に座り、セツはベッドの上で壁にもたれている。どこで見つけてきたのか、手には酒の入った杯が握られていた。


「どうした?」
 いつから飲んでいたのか。セツの目は、少しトロンとしている。


「お前も眠れないクチか?」
 船内では体も動かさず、どうしてもなかなか寝付けない。


「それもありますけど……。今後の確認をと思ったんですが、明日でも」
「別にたいした話はしてないから、かまわんさ」
 促され、セツの隣に座る。彼に見習い、ロワメールも壁にもたれた。


「コウサに着いたら、すぐに裏切り者を追うんですか?」
 船は出航したばかり。今日でなくても構わない話だ。眠れないロワメールが捻り出した口実である。


「ふむ。まあ、そうだが……」
「なにか問題でも?」
 セツの歯切れが悪さに、カイも気が付く。


「……お前たち、今回の事件の詳細は知っているか?」
 ロワメールとカイは顔を見合わせ、頷いた。


 事の起こりは半年前、始月まで遡る。
 アロン男爵の嫡男であるコウサ領の財務役人アシル・シス・アロンが殺されたのである。腹部をナイフで刺されて死亡。物取りの犯行として処理されたが、犯人は捕まらず。


 その四ヶ月後、藤月にジョス・サンク・フラモン子爵とパトリスが首を斬られて殺害される。二人は共に、アロン卿と同じ財務役人だった。


 犯行の手口は異なるものの、同じ職場に勤める三人が相次いで殺され、関連を調べたところ、新たな事実が発覚した。


 フラモン子爵とパトリスによる公金横領である。そしてアシル・シス・アロンは、二人を告発しようと準備を進めていた。


 家宅捜索でパトリス宅から血のついた着物が発見され、アシル・シス・アロン殺害は、犯行の露見を恐れたフラモン子爵とパトリスによる犯行と断定される。


 そしてそこで、第四の事件が起きた。
 領主殺人未遂である。


「領主アルマン・キャトル・ウルソン伯爵は一命を取り留めるも、犯行の手口はフラモン子爵とパトリスを殺したものと全く同じ。抵抗する間もなく、正面から首を斬られたと聞いています」
 ロワメールは、淡々と語り終えた。


 ウルソン伯爵はこの事件によりアシル殺害と横領の関与を疑われているが、本人は否認している。また事件当日のアリバイもしっかりしていた。


「そうだ。そして、その領主のその傷口から魔力反応がでている」
 セツの表情は険しい。


 魔法を私闘に使用せず
 魔法使いの三大タブーのひとつであるこの掟は、魔法で人を傷付けることを禁止するものだ。ましてや命を奪うなど、言語道断である。


「ギルドはもう、犯人がわかっているんですよね?」
 カイも自ずと表情を引き締めた。
 ロワメールとカイが王都を発つ段階では、犯人までは特定されていなかった。


「ああ。魔力反応から犯人を特定した。第一の被害者アシル・シス・アロンの婚約者、一級魔法使い、三色のレナエルだ」
「婚約者を殺された復讐か……」
 ロワメールも唸る。
 

「セツは、この事件のなにが引っかかっているの?」
 レナエルには、動機も犯行手段もあった。現在行方をくらませていることも犯行を裏付けている。


「領主殺害未遂が、どうもな」
 ロワメールに促され、セツは言葉を濁しながら続ける。


「今回の事件、婚約者を殺された復讐、そんな単純なものとは思えないんだ」
 腕を組み、低く唸った。


「実は、ぼくたちはウルソン伯と面識があります。彼が、横領や殺人に関わる人物とは思えないんです」
 ロワメールも、違和感を訴える。


 第一の被害者アシル・シス・アロンと個人的なトラブルがあったなら別だが、領主であり伯爵家当主が横領をするとも思えない。


「ふむ。襲われた理由も謎か」
「セツは、なにが気になるんですか?」
「殺されなかったこと、だ」


 ロワメールは首を傾げる。
「伯が逃げて、事なきを得たからでは?」
「戦闘職の一級魔法使いが、みすみす逃がすとは思えん」
 すでに二人殺しているのに、躊躇ったわけではあるまい。
 

「あれ? 言われてみれば、確かにおかしいね」
「魔法使いなら、背を向けて逃げる相手にとどめを刺すくらい、簡単にできそうなものですが……」 
 セツに指摘され浮上した不審さは、一度認識すると、とてつもなく不自然に感じられた。


「まさか、わざと見逃した?」
「なんでそんなこと……」
「時間をかけて、嬲り殺すためでしょうか?」
「カイ! 発想が怖いよ!」 


 一人目二人目と同じ手口で襲い、恐怖を植え付けるためというなら、効果は抜群だろう。しかし、果たしてそれが目的か。


「理由はわからん。だが、殺さなかったことには、意味がある気がする」
 セツは杯を口に運びながら、難しい顔をする。


 裏切り者の一級魔法使い、三色のレナエルは、ギルドの掟を裏切り、自らの命を賭けてまで、なにかを企んでいるというのか。


 セツの表情は険しく曇った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

巻き込まれた薬師の日常

白髭
ファンタジー
神に選ばれ、魔素の循環する界へと送り込まれたのは――現代の薬師。 剣も魔法も扱えない彼が憑依したのは、戦闘力ゼロの商人見習いの少年だった。 彼の武器は、知識と経験。商品を生み出し、人脈を築き、産業を広げていく。 「居場所を見つけたい」その願いが、やがて世界を変える力となる。 これは、一人の薬師が紡ぐ研究と開発、そして成長の物語。 【カクヨムでも掲載しています】 表紙は紹介文をもとに、ai【adobe firefly】で作成したものです。(参考程度に……)

犬の散歩中に異世界召喚されました

おばあ
ファンタジー
そろそろ定年後とか終活とか考えなきゃいけないというくらいの歳になって飼い犬と一緒に異世界とやらへ飛ばされました。 何勝手なことをしてくれてんだいと腹が立ちましたので好き勝手やらせてもらいます。 カミサマの許可はもらいました。

「追放された雑用係の俺、《真理の鑑定眼》で隠れた天才を集めたら最強パーティになっていた」

きりざく
ファンタジー
ブラック企業で過労死した男は、異世界に転生し《真理の鑑定眼》を授かった。 それは人や物の“本当の価値”、隠された才能、そして未来の到達点までを見抜く能力だった。 雑用係として軽視され、ついには追放された主人公。 だが鑑定眼で見えたのは、落ちこぼれ扱いされていた者たちの“本物の才能”だった。 初見の方は第1話からどうぞ(ブックマークで続きが追いやすくなります)。 評価されなかった剣士、魔力制御に欠陥を抱えた魔法使い、使い道なしとされた職業―― 主人公は次々と隠れた逸材を見抜き、仲間に迎え入れていく。 やがて集ったのは、誰もが見逃していた“未来の最強候補”たち。 鑑定で真価を示し、結果で証明する成り上がりの冒険が始まる。 これは、見る目のなかった世界を置き去りに、 真の才能を集めて最強パーティへと成り上がる物語。

女性が少ない世界に転生した控えめ伯爵令嬢、なぜか五人の婚約候補に選ばれて少しずつ恋を知っていきます

ノッポ
恋愛
女性が極端に少ない異世界に転生した私は、気づけば伯爵令嬢になっていた。 前世は日本で普通に生きていたせいか、貴族令嬢らしい強気な振る舞いがどうしても苦手。 社交界デビューを迎えても、「どうして私が選ばれるの?」と戸惑うばかりだった。 けれど今年デビューする高位令嬢はわずか三人。 家同士の思惑も重なり、騎士団長家の息子、宰相子息、魔術師団長の息子、幼なじみの侯爵子息、そして英雄騎士―― 五人の若きエリートとのお見合いが次々と始まってしまう。 遠慮がちで控えめな性格は、この世界では珍しく、気づけば少しずつ距離を縮めていく彼ら。 異世界での恋愛に戸惑う日々。けれど出会いを重ねるたびに、私は少しずつ変わっていく――。 女性希少世界の社交界で、自分の幸せを選べるようになるまでの ほのぼの甘い逆ハーレム恋愛ファンタジー。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

王弟が愛した娘 —音に響く運命—

Aster22
恋愛
弟を探す旅の途中、身分を隠して村で薬師として生きていたセラは、 ハープの音に宿る才を、名も知らぬ貴族の青年――王弟レオに見初められる。 互いの立場を知らぬまま距離を縮めていく二人。 だが、ある事件をきっかけに、セラは彼の屋敷で侍女として働くことになり、 知らず知らずのうちに国を巻き込む陰謀へと引き寄せられていく。 人の生まれは変えられない。 それでも、何を望み、何を選ぶのかは、自分で決められる。 セラが守ろうとするものは、弟か、才か、それとも―― キャラ設定・世界観などはこちら       ↓ https://kakuyomu.jp/my/news/822139840619212578

処理中です...