やさしい魔法使いの起こしかた

青維月也

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第二話 ギルド本部編

2ー1 ホーム・クラッシャー・ベイビー

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「さて、どうするか……」
 セツは思案していた。


 ロワメールは潮騒のような雑多な賑わいを聞きながら、セツの決断を待つ。


 表裏漆黒のローブに白い髪は、数多の魔法使いの中にあってさえ人目を引いた。しかし行き交う多くの魔法使いは、決して魔法使い殺しであるセツには近付こうとしない。
 セツとロワメールたちの周りだけが、ぽつんと周囲から隔絶されていた。


 ユフ島シノンにある、ギルド本部ロビーである。


 ロワメールがつい、シズ港でマグロの解体ショーやら海鮮丼にはしゃいでしまい、セツが司に連絡をいれるのを忘れてしまったのだ。ギルドの責任者である司は多忙で、簡単には全員集められない。


 司が四人揃ったところで、裏切れ者レナエルの処遇について報告しなければならなかった。併せて、今後は罪を犯した魔法使いの裁きを法の下で行いたいという、宮廷の意向も打診せねばならない。そのために、法の発案者であるロワメール第二王子自らが側近筆頭を連れ、再びギルドを訪れているのだ。


「セツ、ごめんね。ぼくのせいで」
「浜焼きとか松林とかレイホウ山とか?」
「カイだって、一緒に楽しんでたじゃないか!」
「連絡を忘れたのは俺だし、お前が楽しめたならそれでいいさ。ただ、これからどうしようかと思ってな。買い物が先か、それとも一度家に行くか」


「家?」
 ロワメールが耳聡く聞き返した。


「ああ。俺の家だ。起きてるなら日用品やらなにやら買い揃えないと」
「セツの家!?」


 王子様が興味津々に食いつく。氷室で眠り、起きれば裏切り者を追う、そんな生活のセツに家があるとは、正直想像していなかった。


「俺の、と言うかマスターの家だが。……な、なんだ? どうした?」
「見たい! 行きたい!」
「別に構わないが……。普通の家だぞ?」
 好奇心に顔を輝かせるロワメールに、セツが少々面食らう。


「じゃあ、先に家へ行くか。ちょっと歩くぞ」
「ギルド内じゃないんですか? 確かありますよね、官舎みたいなの」
 歩くと言われて、カイが首を捻る。


 本部だけでなく、大きなギルド支部には居住棟や宿泊所を併設している所も多いが、どうやらセツの家は居住棟の一室ではないらしい。


「あー、いや、それは……。ギルド内はギルド内なんだが、俺の家は、本部棟から少し離れた……森の中にある」
 バツが悪そうに、セツがボソボソと説明する。


 ギルド本部の広大な敷地内にある森のひとつに、セツは居を構えているらしかった。


「マスターだから、特別待遇ですか?」
 セツの口ぶりだと、集合住宅ではなく一戸建てのようである。最強の魔法使いを他の魔法使いと同列に扱えないのは道理だが、どうもセツは言い難そうだ。


「特別というか、あー、俺が赤ん坊の頃に色々やらかしたみたいでなぁ。まあ、追い出されたというか」
「追い出された!?」
 不穏当な単語に、ロワメールが過敏に反応した。


 王子様の魔法使いに対する評価は、元々最悪だ。セツには嫌いだと言ったが、嫌いどころか、大っっっ嫌いだ。
 しかも嫌悪感がセツにバレてしまった今となっては隠す必要もなく、ロワメールは盛大に顔をしかめた。


「いや、違うんだ、ロワメール」
 グングンと機嫌が急降下していくロワメールに、セツが訂正する。


「そのな、俺は覚えてないんだが、どうも居住棟を壊しかけたようで……」
 なんだか雲行きが怪しくなってきた。


「師匠が言うには、俺が癇癪を起こして大泣きしたら、かまどの火が燃え上がって小火を起こしたとか、井戸から水が噴き出して辺り一帯浸水したとか、壁を壊しただとか……」
 一歩間違えれば、ケガ人を出す大惨事である。しかも赤ん坊の癇癪が原因では、対策も取れないのではないか?


「いや、本当に覚えてなくてだな。まあ、赤ん坊の頃だし……不可抗力だとは思うんだが……」
 言い訳がましいのは、自分の非を認めているからだろう。 
「苦労させられたと、師匠にも散々言われたなぁ」


「それは、魔力量が多すぎってこと?」
「そうだろうな。制御できてなかったんだろう。で、泣いたはずみで暴走した、ってところか」


 本部棟を突っ切り、敷地内の北に広がる森へと入っていく。木漏れ日溢れる緑豊かな森に足を踏み入れれば、深く息を吸い込みたくなった。


 森の中には小径が続いており、どうやらこの道がセツの家に繋がっているようだ。定期的に往来があるようで、道はしっかり踏み固められている。


「セツ様は、赤ん坊の頃からギルドで育ったんですか? やはりマスターだから?」
 一般的に魔法使いを目指す子どもは、十三歳から魔法学校で魔法を学ぶ。そして六年間の学習を経て、晴れて魔法使いとなるのだ。


「いや、捨て子だった俺を師匠が偶然拾ってくれて。次代のマスターってことで、そのまま師匠に育てられたんだ」
「申し訳ありません。不躾な質問を」
「気にするな」


 カイは謝罪するが、セツは軽く笑って許してくれる。ロワメールがなにも言わず瞼を伏せているのは、その過去を知っていたからだ。
 生まれてすぐに捨てられたのだと、セツは言う。


「俺の生まれは、カイエだからな」
 カイはすぐ、その意味に思い至った。


『カイエの白い悪夢』
 かつてカイエ島を襲った魔主は、白く長い髪だったと伝えられている。
 カイエの島民にとって、白い髪は災厄の象徴でしかない。そんな風土で白い髪の赤ん坊が生まれれば——。


「昔のことだ。仕方ないさ」
 セツは割り切っているのか、そこになんの感傷も見えなかった。


「そう言えば、お前たちはシノンに滞在中は、どこで寝泊まりするんだ? 領主の所か?」
 暗い話を終わらせるように、セツが話題をかえる。
 新しい法案の話し合いは、一日では当然終わらない。何日にも渡って協議が行われる。


「そうですね。モンターニュ侯の屋敷です」
 王子の長期逗留ともなれば、それ相応の防犯態勢が求められる。なにより安宿に泊めるなど論外だ。


 夏の陽射しが降り注ぐ明るい森の中、小川のせせらぎに耳を傾けながら歩いて行く。すると、木々の合間に白い壁が見え始めた。


「見えてきたぞ、あれだ」
 ぼどなく視界が開けると、そこにポツンと一軒の家が現れた。
  
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