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第三話 魔者の花嫁編
3ー5 強くなるんだ
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「ヴィクトリア先生がリュカさんのお姉さんだったって、マジビックリっすよ!」
ベッドの上で、レオが興奮気味に喋る。
「しかもリュカさん、先生にむっちゃビビりまくりだし!」
「リュカはヴィクトリアに頭が上がらないからね」
相槌を打つフレデリクは穏やかだ。
「だからって、魔者より怖がるってどンだけですか!」
「お前は姉ちゃんの恐ろしさを知らないから、そんなこと言えるんだ」
フレデリクの隣で、リュカが不貞腐れている。
「子供の頃、喧嘩の度にボコボコにされてたんだろ? だから、刷り込みもあるんじゃないか。姉ちゃんには勝てないって」
「子供の時から凶暴だったんすよ! あの女に勝てる奴なんていませんて!」
魔法学校の生きる伝説をボコボコに……。
レオはゴクリと喉を鳴らす。
それだけで、十分恐ろしい。
「とりあえず、オレ、ヴィクトリア先生には逆らいません」
「おー、長生きしたかったらそうしとけ」
悪態を吐く割には、リュカの声にも表情にも棘はない。姉弟仲自体は良さそうだった。
「リュカの家は医者の家系でね、ご両親に魔法使いになるのを反対されてたんだよ。それをヴィクトリアが説得してくれて、学校に入学できたんだ」
レオは興味深く、フレデリクの説明に聞き入る。リュカが医者の家系とは、聞かねばわからぬものだった。
「リュカはこう見えて、案外頭は良いんだよ」
「こう見えてってなんすか。案外も余計ですぅ」
リュカは姉だけでなく師匠にも弱いようで、ブツブツと文句を垂れるが強くは言えないようだった。
「ここ数日、調子が良さそうで安心したよ」
「もうすぐ退院できるって、先生に言われました」
フレデリクはよく見舞いに来てくれた。退屈な入院生活で先輩土使いの話を聞けるのは有意義で有り難かったが、もし、あの戦闘の指揮官としてフレデリクが責任を感じているのだとしたら、レオは申し訳なかった。
「あの、フレデリクさん」
口元を引き結び、改めてフレデリクと向き合う。
「オレの怪我は、オレが弱かったから。そンだけです」
「そうか」
その言葉は、以前のレオなら出なかったもしれない。
フレデリクとリュカが、そっと目配せする。
青年は、今回の負傷で成長した。
自分は弱いーーその事実を真正面から受け止められるようになったのだ。それが、どれほど大きな成長であることか。
「レオ、退院したら、どうするんだい?」
「そっすね、ギルドの宿舎に戻って、リハビリと魔力操作の修行っすかね」
退院しても、仕事復帰までには時間を要する。ましてレオは戦闘職、体を治すのが最優先だった。
「なら、うちに来ないか?」
レオは、フレデリクに言われた意味が理解できず、怪訝な顔をする。
「フレデリクさん家、土使いの寮みたいになってるんだよ」
リュカの説明に、レオは焦った。
「え!? いや、でも!」
「別に、レオの世話を焼くつもりはない。自分のことは、自分でしてもらうよ」
「オレも学校卒業した後は、フレデリクさん家にいたんだぜ」
体の自由が利かないレオの面倒を、という訳ではないようだった。
「今は誰もいないから、部屋も余ってるし」
「オレ以外にも、ロイクさんやディオン、クロヴィスなんかもフレデリクさん家にいたよ」
「おおおー!」
名だたる土使いの名前に、レオが興奮した。
「土使いの溜り場になってるから、しょっちゅう誰かが来るし、良い刺激を受けると思う。どうだい?」
「ても、オレなんかが……」
降って湧いた美味しい話に尻込みする。聞いたばかりの名前に連なるのを怖気付いた。
「マスターに勝てると思ってた奴が、謙遜すんなよ」
「あああああー! オレの黒歴史ー!!」
リュカに揶揄われ、レオが頭を抱える。リュカもフレデリクも笑った。
マスターと手合わせの時、ジュールだけが反撃を想定し、防御をしていた、とリュカに聞かされた。
ーーお前、ちょびっとでも勝てると思ってたろ?
そう言って笑われた。
傲岸不遜もいいところである。穴を掘って潜り込み、土をかけて埋まりたい。
(あのマスターに勝てる気でいたなンて、オレどンだけだよ)
リュカの言う通り、自分は強いと思っていた。一端の一級魔法使いのつもりでいた。
何度も何度も、ジュールに注意されてたのに。
「……あの」
そこで、レオが不意に真顔を取り戻す。
「ジュールは、大丈夫でしょうか? あいつ、魔者と戦ってないンです」
ジュールだけ、洗礼を受けていない。
もし、ジュールがレナエルのようになったらーー。
シーツを握る手に、力が籠もる。
「ジュールは大丈夫だよ」
フレデリクが、ゆったりと椅子に座り直した。
「ジュールは生まれた時から、洗礼を受けてるようなものだからね」
「生まれた時からって、どういう意味っすか? 赤ン坊の時に魔者に襲われたンすか?」
「違うよ。あの兄姉が洗礼だ。あの二人を見て育って、慢心なんてできないよ」
学生の時も、ジュールは一度だって自分の能力を鼻にかけなかった。謙虚な性格だと思っていたが、そうじゃなくて。
(あいつはずっと、天才って言われる兄姉を見て育ったから)
だからジュールは、オレ達の一步も二歩も先に進んでいるのか。
「そっか……」
レオが、口の端を持ち上げる。
「だから、あいつはあンなに強いンすね!」
そのカラリとした笑顔に、フレデリクはレオの人物像を修正した。
(調子がいいだけの子じゃない……)
友人の実力を妬むのではなく、正しく評価する。それは、果てしなく難しいことだ。
フレデリクも、ここまで来るまでにどれだけの悔しさをバネにしたか。
「これからオレは、ジュールを目指せばいいってことっすね! 目の前に目標がいてくれた方がわかりやすいし、張り合いがあっていいっす!」
気合を入れるレオに、リュカが耳打ちした。
「フレデリクさん、コイツは強くなるって見込んだ奴にだけ、こうやって声かけるんだぜ?」
目を瞠るレオに、リュカは片目を瞑ってみせた。
「強くなる気があるなら、うちにおいで」
過去の醜態も、笑い飛ばしてくれる先輩のように。
あの頃のオレとは違うんだと、胸を張って言えるように。
強くなるんだ。
「お世話になります!」
▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽
❖ お知らせ ❖
読んでくださり、ありがとうございます!
3ー6 ユウジョウ ト ヤキモチ は来週7/24(水)の夜に投稿を予定しています。
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「しかもリュカさん、先生にむっちゃビビりまくりだし!」
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「お前は姉ちゃんの恐ろしさを知らないから、そんなこと言えるんだ」
フレデリクの隣で、リュカが不貞腐れている。
「子供の頃、喧嘩の度にボコボコにされてたんだろ? だから、刷り込みもあるんじゃないか。姉ちゃんには勝てないって」
「子供の時から凶暴だったんすよ! あの女に勝てる奴なんていませんて!」
魔法学校の生きる伝説をボコボコに……。
レオはゴクリと喉を鳴らす。
それだけで、十分恐ろしい。
「とりあえず、オレ、ヴィクトリア先生には逆らいません」
「おー、長生きしたかったらそうしとけ」
悪態を吐く割には、リュカの声にも表情にも棘はない。姉弟仲自体は良さそうだった。
「リュカの家は医者の家系でね、ご両親に魔法使いになるのを反対されてたんだよ。それをヴィクトリアが説得してくれて、学校に入学できたんだ」
レオは興味深く、フレデリクの説明に聞き入る。リュカが医者の家系とは、聞かねばわからぬものだった。
「リュカはこう見えて、案外頭は良いんだよ」
「こう見えてってなんすか。案外も余計ですぅ」
リュカは姉だけでなく師匠にも弱いようで、ブツブツと文句を垂れるが強くは言えないようだった。
「ここ数日、調子が良さそうで安心したよ」
「もうすぐ退院できるって、先生に言われました」
フレデリクはよく見舞いに来てくれた。退屈な入院生活で先輩土使いの話を聞けるのは有意義で有り難かったが、もし、あの戦闘の指揮官としてフレデリクが責任を感じているのだとしたら、レオは申し訳なかった。
「あの、フレデリクさん」
口元を引き結び、改めてフレデリクと向き合う。
「オレの怪我は、オレが弱かったから。そンだけです」
「そうか」
その言葉は、以前のレオなら出なかったもしれない。
フレデリクとリュカが、そっと目配せする。
青年は、今回の負傷で成長した。
自分は弱いーーその事実を真正面から受け止められるようになったのだ。それが、どれほど大きな成長であることか。
「レオ、退院したら、どうするんだい?」
「そっすね、ギルドの宿舎に戻って、リハビリと魔力操作の修行っすかね」
退院しても、仕事復帰までには時間を要する。ましてレオは戦闘職、体を治すのが最優先だった。
「なら、うちに来ないか?」
レオは、フレデリクに言われた意味が理解できず、怪訝な顔をする。
「フレデリクさん家、土使いの寮みたいになってるんだよ」
リュカの説明に、レオは焦った。
「え!? いや、でも!」
「別に、レオの世話を焼くつもりはない。自分のことは、自分でしてもらうよ」
「オレも学校卒業した後は、フレデリクさん家にいたんだぜ」
体の自由が利かないレオの面倒を、という訳ではないようだった。
「今は誰もいないから、部屋も余ってるし」
「オレ以外にも、ロイクさんやディオン、クロヴィスなんかもフレデリクさん家にいたよ」
「おおおー!」
名だたる土使いの名前に、レオが興奮した。
「土使いの溜り場になってるから、しょっちゅう誰かが来るし、良い刺激を受けると思う。どうだい?」
「ても、オレなんかが……」
降って湧いた美味しい話に尻込みする。聞いたばかりの名前に連なるのを怖気付いた。
「マスターに勝てると思ってた奴が、謙遜すんなよ」
「あああああー! オレの黒歴史ー!!」
リュカに揶揄われ、レオが頭を抱える。リュカもフレデリクも笑った。
マスターと手合わせの時、ジュールだけが反撃を想定し、防御をしていた、とリュカに聞かされた。
ーーお前、ちょびっとでも勝てると思ってたろ?
そう言って笑われた。
傲岸不遜もいいところである。穴を掘って潜り込み、土をかけて埋まりたい。
(あのマスターに勝てる気でいたなンて、オレどンだけだよ)
リュカの言う通り、自分は強いと思っていた。一端の一級魔法使いのつもりでいた。
何度も何度も、ジュールに注意されてたのに。
「……あの」
そこで、レオが不意に真顔を取り戻す。
「ジュールは、大丈夫でしょうか? あいつ、魔者と戦ってないンです」
ジュールだけ、洗礼を受けていない。
もし、ジュールがレナエルのようになったらーー。
シーツを握る手に、力が籠もる。
「ジュールは大丈夫だよ」
フレデリクが、ゆったりと椅子に座り直した。
「ジュールは生まれた時から、洗礼を受けてるようなものだからね」
「生まれた時からって、どういう意味っすか? 赤ン坊の時に魔者に襲われたンすか?」
「違うよ。あの兄姉が洗礼だ。あの二人を見て育って、慢心なんてできないよ」
学生の時も、ジュールは一度だって自分の能力を鼻にかけなかった。謙虚な性格だと思っていたが、そうじゃなくて。
(あいつはずっと、天才って言われる兄姉を見て育ったから)
だからジュールは、オレ達の一步も二歩も先に進んでいるのか。
「そっか……」
レオが、口の端を持ち上げる。
「だから、あいつはあンなに強いンすね!」
そのカラリとした笑顔に、フレデリクはレオの人物像を修正した。
(調子がいいだけの子じゃない……)
友人の実力を妬むのではなく、正しく評価する。それは、果てしなく難しいことだ。
フレデリクも、ここまで来るまでにどれだけの悔しさをバネにしたか。
「これからオレは、ジュールを目指せばいいってことっすね! 目の前に目標がいてくれた方がわかりやすいし、張り合いがあっていいっす!」
気合を入れるレオに、リュカが耳打ちした。
「フレデリクさん、コイツは強くなるって見込んだ奴にだけ、こうやって声かけるんだぜ?」
目を瞠るレオに、リュカは片目を瞑ってみせた。
「強くなる気があるなら、うちにおいで」
過去の醜態も、笑い飛ばしてくれる先輩のように。
あの頃のオレとは違うんだと、胸を張って言えるように。
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