やさしい魔法使いの起こしかた

青維月也

文字の大きさ
110 / 218
第三話 魔者の花嫁編

3ー13 国家最高戦力の運用について

しおりを挟む
 客人を居間のソファに座らせ、セツは冷たいお茶を出す。
 食堂では、ロワメールとカイが仕事をしていた。隣の部屋とはいえ仕切りもなく繋がっているので、話は筒抜けになる。
「俺の部屋に行くか?」
「いえ、ご迷惑でなければここで」
 ランスは力なく首を振った。

「オレがなんとかしてやれたら良かったんですけど、力不足で。マスターんとこ連れてきました」
 リュカはよくフレデリクを迎えに来るので、セツ家も慣れたものである。
「いいさ。それで、どうしたんだ?」
 セツに促され、ランスは膝の上でグッと拳を握りしめた。





 ーー悪い。力になるとか言っときながら、オレでは力不足だ。
 助けると啖呵を切っておきながら、魔者絡みだとするとリュカ一人の手には余る。
 居酒屋で、リュカは素直にランスに謝罪した。
 ーー頼れる人がいる。その人に相談しよう。
 そして翌日、セツ家を訪れたのである。

 ギルドの北の森を歩き、行き先がマスターの家だと聞いたランスは抵抗した。
「マスターに頼るなんてできません!」
 最強の魔法使いに助けを請うことに怖気付いたのだ。
 マスターは人類の最高戦力。対魔主の切り札。その最強の魔法使いに、一介の魔法使いが助言を請うていいのか。
 手合わせを頼むのとはわけが違うのだ。

 本来なら魔者が絡んでいるかもしれない今回の件、本部所属のランスは司に相談すべきだった。
 それをしなかったのは、不確定要素が多いからだ。

 まず、トマスの見たのがランスの姉、かもしれない。
 姉が魔者から逃げている、かもしれない。
 魔者が姉を攫いに来る、かもしれない。

 この状態では、ギルドも討伐隊を組めなかった。最低限、トマスの見たのがランスの姉だと確証がほしい。
 それに折悪く、水司も風司も、そして土司も本部を留守にしていた。

 森の中で子どものように立ち止まるランスを、リュカは叱らなかった。
「お前は、ねーちゃんを助けたいんじゃないのか?」
「それはもちろん! ですが……」
「悔しいが、オレ達だけじゃ魔者には刃が立たない。わかるか? 弱いオレらは、選り好みできる立場じゃねーんだよ」
 リュカの声は静かだが、強くランスの心に響く。

「ランス、魔法使いにとって、一番大事なもんがなにかわかるか? 人の命だ。誰かを助けるためなら、使えるもんは全部使え。マスターへの敬意は大事だ。けどそれより、人の命の方がもっと大事だ」
 敬意やプライドと、人の命と。
 天秤にかけるまでもない。
 
「わかったら、マスターんとこ行くぞ」
「はい」
 躊躇も遠慮も飲み込み、ランスは最強の魔法使いに助けを求める覚悟を決めた。





「……人違いだと思いました。でも名前も一緒、泣きぼくろまで姉と一緒だったんです。しかも腕の良い薬師だったって。こんな偶然があるなんて思えない……!」
 ランスから、七年前から昨夜までの出来事を聞き終え、セツは腕を組んだ。

「マスター、昔ココノエであった『魔者の花嫁』、知ってますか?」
「ああ」
「オレは、今回の件、それじゃないかと思うんです」
 リュカの表情は昨夜とかわらず険しかった。それだけ事態は深刻なのだ。

「緑の髪の魔者に、花嫁か……」
 セツは思案顔でふむ、と小さく声を漏らす。

 ランスはすぐにでも、姉を助けに飛び出したいだろう。
 しかし今は動きたくても動けなかった。

 街なかでの目撃情報から、ランスの姉ファイエットが監禁されていないことはわかる。だが、そこから先が不明だった。
 魔者の手から逃れ、逃亡しているのか。
 それともすでに安全は確保されているのか。
 それともーー魔者の監視下で、自由を与えられているのか。
 そのどれかにより、対応が大きくかわる。

「まずは、ランスの姉を探すのが先決だな」
「そうっすね。ランスのねーちゃん見つけて、魔者との戦闘にも備えないと」
 難しい局面だが、セツとリュカは着々と作戦を立てていく。
「カヤは、今は大きな街なのか?」
「シノンのがデッカイですね。人口は三分の一くらいじゃないっすか」

 ファイエットが逃げているなら、彼女の発見、保護が最優先である。
 だが魔力を持つ魔法使いは魔者にとって目印も同然で、大人数でファイエットを探せば魔者の注意を引いてしまう。

 つまり少人数で挑まなければならない、ということだ。
 そしてその場合、花嫁を奪い返しに来た魔者との戦闘が最大の懸案事項となる。

 最適解は、魔者の襲撃にも対応できる少数精鋭、だ。
 マスターの助力は必要不可欠だった。

「どうか、姉を助けるために力を貸してください!」 
「だから、俺とリュカとランスで行くんだろ?」
 そのために自分の元に来たのだと思っていたセツは、今更なランスに戸惑う。

「お二人への対価は、一生かかってもお支払いします!」
 当然のように力を貸してくれると言うセツに、ランスは更に深く頭を下げた。
 一級魔法使いとマスターに、二十歳の若造が対価を払えるわけがない。
 けれど、どれほどの借金を背負おうと、姉の命に勝るものはなかった。

 しかしこれにはセツだけでなく、リュカまでポカンと口を開ける。
「アホかお前は。金なんているかよ」
 盛大に思い違いをしているランスに、リュカが呆れた。
「それが仮にも、生死を賭けた戦いを共にくぐり抜けた先輩に対する言葉か? オレは悲しいよ」
 リュカは大袈裟に嘆いてみせる。

「前に言ったはずだそ。黒のローブを羽織った以上、お前は仲間だって。仲間が困ってたら、助けるのは普通だろうが。もしどうしても気になるんなら、またオレの晩飯に付き合え。それがオレへの対価だ」

 そして事の重大さをわかっていないセツも、あっさりしたものだった。
「なに、ついでだ、ついで」
「ついで……?」
「俺たち、どこか温泉に行こうと思ってたんだ。カヤなら、ちょうどロロ温泉への通り道だろ」
 説明されても、ランスの思考は追いつかない。

「ロワメールー、カイー、温泉、ロロでいいなー?」
 食堂で仕事をしながらも、話は全部聞いていたであろう二人に確認を取る。
「いいよー」
 ロワメールは片手を上げて了解し、カイも頷いて了承を示した。

「と、いうわけだ。俺はロロに行くついでに、ランスの姉さんを探すのを手伝う。それなら問題ないだろ?」
 問題ないのか?
 不憫なランスは考え込んでしまった。

「温泉行くんすか?」
「ああ、ギルド祭までの間に行ってこようと思ってな」
「いいっすねー」
「リュカとランスも行くか?」
「いいんすか!? やった!」
 ランスが当惑している間に、温泉行きまで決まってしまった。セツ達に遠慮するランスへの気遣いかもしれないが、無理が過ぎる。

「おら、いつまでも呆けてんな!」
 リュカが、バシリとランスの背を叩く。
「さくっとねーちゃん助けて、温泉行くぞ!」

 やや強引にも思えるが、セツは自分を頼ってきた者を無下にはしない。
 ロワメールは書類にサインをしながら、やれやれと口元を綻ばせた。



 ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽

 ❖ お知らせ ❖

 読んでくださり、ありがとうございます!


 3ー14 悲喜こもごもーー悲 は8/21(水)の夜、21時頃に投稿を予定しています。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

私と子供より、夫は幼馴染とその子供のほうが大切でした。

小野 まい
恋愛
結婚記念日のディナーに夫のオスカーは現れない。 「マリアが熱を出したらしい」 駆けつけた先で、オスカーがマリアと息子カイルと楽しげに食事をする姿を妻のエリザが目撃する。 「また裏切られた……」 いつも幼馴染を優先するオスカーに、エリザの不満は限界に達していた。 「あなたは家族よりも幼馴染のほうが大事なのね」 離婚する気持ちが固まっていく。

精霊が俺の事を気に入ってくれているらしく過剰に尽くしてくれる!が、周囲には精霊が見えず俺の評価はよろしくない

よっしぃ
ファンタジー
俺には僅かながら魔力がある。この世界で魔力を持った人は少ないからそれだけで貴重な存在のはずなんだが、俺の場合そうじゃないらしい。 魔力があっても普通の魔法が使えない俺。 そんな俺が唯一使える魔法・・・・そんなのねーよ! 因みに俺の周囲には何故か精霊が頻繁にやってくる。 任意の精霊を召還するのは実はスキルなんだが、召喚した精霊をその場に留め使役するには魔力が必要だが、俺にスキルはないぞ。 極稀にスキルを所持している冒険者がいるが、引く手あまたでウラヤマ! そうそう俺の総魔力量は少なく、精霊が俺の周囲で顕現化しても何かをさせる程の魔力がないから直ぐに姿が消えてしまう。 そんなある日転機が訪れる。 いつもの如く精霊が俺の魔力をねだって頂いちゃう訳だが、大抵俺はその場で気を失う。 昔ひょんな事から助けた精霊が俺の所に現れたんだが、この時俺はたまたまうつ伏せで倒れた。因みに顔面ダイブで鼻血が出たのは内緒だ。 そして当然ながら意識を失ったが、ふと目を覚ますと俺の周囲にはものすごい数の魔石やら素材があって驚いた。 精霊曰く御礼だってさ。 どうやら俺の魔力は非常に良いらしい。美味しいのか効果が高いのかは知らんが、精霊の好みらしい。 何故この日に限って精霊がずっと顕現化しているんだ? どうやら俺がうつ伏せで地面に倒れたのが良かったらしい。 俺と地脈と繋がって、魔力が無限増殖状態だったようだ。 そしてこれが俺が冒険者として活動する時のスタイルになっていくんだが、理解しがたい体勢での活動に周囲の理解は得られなかった。 そんなある日、1人の女性が俺とパーティーを組みたいとやってきた。 ついでに精霊に彼女が呪われているのが分かったので解呪しておいた。 そんなある日、俺は所属しているパーティーから追放されてしまった。 そりゃあ戦闘中だろうがお構いなしに地面に寝そべってしまうんだから、あいつは一体何をしているんだ!となってしまうのは仕方がないが、これでも貢献していたんだぜ? 何せそうしている間は精霊達が勝手に魔物を仕留め、素材を集めてくれるし、俺の身をしっかり守ってくれているんだが、精霊が視えないメンバーには俺がただ寝ているだけにしか見えないらしい。 因みにダンジョンのボス部屋に1人放り込まれたんだが、俺と先にパーティーを組んでいたエレンは俺を助けにボス部屋へ突入してくれた。 流石にダンジョン中層でも深層のボス部屋、2人ではなあ。 俺はダンジョンの真っただ中に追放された訳だが、くしくも追放直後に俺の何かが変化した。 因みに寝そべっていなくてはいけない理由は顔面と心臓、そして掌を地面にくっつける事で地脈と繋がるらしい。地脈って何だ?

犬の散歩中に異世界召喚されました

おばあ
ファンタジー
そろそろ定年後とか終活とか考えなきゃいけないというくらいの歳になって飼い犬と一緒に異世界とやらへ飛ばされました。 何勝手なことをしてくれてんだいと腹が立ちましたので好き勝手やらせてもらいます。 カミサマの許可はもらいました。

「犯人は追放!」無実の彼女は国に絶対に必要な能力者で“価値の高い女性”だった

佐藤 美奈
恋愛
セリーヌ・エレガント公爵令嬢とフレッド・ユーステルム王太子殿下は婚約成立を祝した。 その数週間後、ヴァレンティノ王立学園50周年の創立記念パーティー会場で、信じられない事態が起こった。 フレッド殿下がセリーヌ令嬢に婚約破棄を宣言した。様々な分野で活躍する著名な招待客たちは、激しい動揺と衝撃を受けてざわつき始めて、人々の目が一斉に注がれる。 フレッドの横にはステファニー男爵令嬢がいた。二人は恋人のような雰囲気を醸し出す。ステファニーは少し前に正式に聖女に選ばれた女性であった。 ステファニーの策略でセリーヌは罪を被せられてしまう。信じていた幼馴染のアランからも冷たい視線を向けられる。 セリーヌはいわれのない無実の罪で国を追放された。悔しくてたまりませんでした。だが彼女には秘められた能力があって、それは聖女の力をはるかに上回るものであった。 彼女はヴァレンティノ王国にとって絶対的に必要で貴重な女性でした。セリーヌがいなくなるとステファニーは聖女の力を失って、国は急速に衰退へと向かう事となる……。

巻き込まれた薬師の日常

白髭
ファンタジー
神に選ばれ、魔素の循環する界へと送り込まれたのは――現代の薬師。 剣も魔法も扱えない彼が憑依したのは、戦闘力ゼロの商人見習いの少年だった。 彼の武器は、知識と経験。商品を生み出し、人脈を築き、産業を広げていく。 「居場所を見つけたい」その願いが、やがて世界を変える力となる。 これは、一人の薬師が紡ぐ研究と開発、そして成長の物語。 【カクヨムでも掲載しています】 表紙は紹介文をもとに、ai【adobe firefly】で作成したものです。(参考程度に……)

「追放された雑用係の俺、《真理の鑑定眼》で隠れた天才を集めたら最強パーティになっていた」

きりざく
ファンタジー
ブラック企業で過労死した男は、異世界に転生し《真理の鑑定眼》を授かった。 それは人や物の“本当の価値”、隠された才能、そして未来の到達点までを見抜く能力だった。 雑用係として軽視され、ついには追放された主人公。 だが鑑定眼で見えたのは、落ちこぼれ扱いされていた者たちの“本物の才能”だった。 初見の方は第1話からどうぞ(ブックマークで続きが追いやすくなります)。 評価されなかった剣士、魔力制御に欠陥を抱えた魔法使い、使い道なしとされた職業―― 主人公は次々と隠れた逸材を見抜き、仲間に迎え入れていく。 やがて集ったのは、誰もが見逃していた“未来の最強候補”たち。 鑑定で真価を示し、結果で証明する成り上がりの冒険が始まる。 これは、見る目のなかった世界を置き去りに、 真の才能を集めて最強パーティへと成り上がる物語。

女性が少ない世界に転生した控えめ伯爵令嬢、なぜか五人の婚約候補に選ばれて少しずつ恋を知っていきます

ノッポ
恋愛
女性が極端に少ない異世界に転生した私は、気づけば伯爵令嬢になっていた。 前世は日本で普通に生きていたせいか、貴族令嬢らしい強気な振る舞いがどうしても苦手。 社交界デビューを迎えても、「どうして私が選ばれるの?」と戸惑うばかりだった。 けれど今年デビューする高位令嬢はわずか三人。 家同士の思惑も重なり、騎士団長家の息子、宰相子息、魔術師団長の息子、幼なじみの侯爵子息、そして英雄騎士―― 五人の若きエリートとのお見合いが次々と始まってしまう。 遠慮がちで控えめな性格は、この世界では珍しく、気づけば少しずつ距離を縮めていく彼ら。 異世界での恋愛に戸惑う日々。けれど出会いを重ねるたびに、私は少しずつ変わっていく――。 女性希少世界の社交界で、自分の幸せを選べるようになるまでの ほのぼの甘い逆ハーレム恋愛ファンタジー。

拝啓。私を追い出した皆様へ! 化け物と噂の辺境伯に嫁がされましたが噂と違い素敵な旦那様と幸せに暮らしています。

ハーフのクロエ
恋愛
 公爵家の長女のオリビアは実母が生きている時は公爵家令嬢として育ち、8歳の時、王命で王太子と婚約して12歳の時に母親が亡くなり、父親の再婚相手の愛人だった継母に使用人のように扱われていた。学園の卒業パーティーで婚約破棄され、連れ子の妹と王太子が婚約してオリビアは化け物と噂のある辺境伯に嫁がされる。噂と違い辺境伯は最強の武人で綺麗な方でオリビアは前世の日本人の記憶持ちで、その記憶と魔法を使い領地を発展させて幸せになる。

処理中です...