やさしい魔法使いの起こしかた

青維月也

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第三話 魔者の花嫁編

3ー16 逆差別反対!

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 カヤには、予定通り夕方遅くに到着した。カヤと言っても、正確にはヒノ領カヤ市カヤの街、である。
 カヤ市はシノンと同じく山に囲まれた山岳都市で、北東にはトダ山脈を望む。面積はシノンの倍以上だが、9割以上を山林が占め、人口は三分の一ほど。中核都市カヤの他は、ほとんどの街や村が山間にひっそりと点在してる。
 
 居酒屋で話を聞いた翌日、ランスとリュカはトマスを訪ねたが入れ違いで仕事に出ており、詳細を聞くことができなかった。
 トマスの言うカヤが、カヤの街なのかカヤ市のどこかなのかわからない以上、しらみ潰しに探すしかない。

「ロワメール殿下、ようこそおいでくださいました!」
 カイが王子のお忍びとの体裁を整えてくれたので、大々的な歓迎式典などは開催されなかったが、ヒノ領主ブレロー伯爵とカヤ市長シュエットゥ子爵が一行を出迎えてくれた。

 ブレロー伯爵は、小太りで五十代半ばほど。ヒノ領主として新年祝賀の儀で国王一家に挨拶は適うが、この機会に是非とも自分の評価を上げようと鼻息が荒い。対して王子の逗留先として屋敷を提供し、お世話係を仰せつかったシュエットゥ子爵は、三十代前半の線の細い男性で、緊張のあまり顔色が土気色になっていた。

「こ、このようなあばら家で、も、申し訳も、ござ、ございません!」
「こちらこそ、突然のお願いにも関わらず、快く受け入れてくれて感謝します」
 子爵は直立不動から直角に腰を曲げる。

 あばら家というのは無論謙遜であるが、まあ正直、セツ家の方が大きい。ロワメールは全く気にしないが、もし気にするとしたら、カイと、たぶんジスランだろうか。
(いや、カイは大丈夫か。ぼくと一緒に下町の食堂に通うくらいだし)

 側近筆頭は身分も爵位もガン無視の、完璧な実力主義者である。対して次期炎司候補はいかにも貴族然としているが、シノンのレオール家別邸よりもこじんまりとした子爵邸にも、案外平気そうだった。

「ご要望がございましたら! なんなりと! このブレローにお申し付けくださいませ! 身命を賭し! お役に立ってご覧に入れまする!」
「う、うん。ありがとう……」
 伯爵はいちいち大袈裟だが、必要以上に気負う地方貴族はめずらしくはない。

(そんな身構えないで、普通にしてくれたらいいのに)
 対照的な伯爵と子爵に、ロワメールは模範的な対応しながら内心では溜め息を漏らす。
 この国で五年ほど王子をしているが、十三歳まで騎士家の一般家庭で育ったロワメールの心は、立派な庶民である。
(まあ、王子にアピールしたくもなるし、気も遣うよね)

 野心に燃える伯爵の相手は側近筆頭に任せたが、大役に縮み上がっている子爵には申し訳なかった。
 しかし緊張の理由が、王子の身分だけでなくその美貌にあることは、ロワメールには誠に遺憾である。





 一悶着が起きたのは、ロワメールが王子の外面を最大限発揮して心尽くしの歓待を受けた、その後である。
 ブレロー伯爵もシュエットゥ子爵も退室し、室内にはロワメール、セツ、カイ、ランスにレオール兄弟が残っていた。
 今後の予定を話し合っていた時に、意見の相違が生じたのだ。

「は? なんでそうなるんだ?」
 セツが、めずらしく素っ頓狂な声を上げ。
「いや、だから、なんでそうなるわけ?」
 ロワメールも訳がわからないと疑問を訴える。

 ランスの姉捜索は明日の朝から、ということで皆納得したが、そこから先で問題が発生した。
「ロワメールは、カイとジュールとジスランを連れて、先にロロに行っていろ」
 セツとしては、別行動は至極当然のことである。
 王子に人探しをさせるわけにもいかないし、なにより魔者絡みだ。
 万にひとつも危険があるなら、ロワメールを参加させるなど以ての外である。

 しかし、ロワメールはその提案を拒否した。
「そんなの非効率だよ。人探しなら、人手はあったほうがいいでしょ」
 ジュールの予想通りになったわけだが、カイもそう言い出すことはわかっていたのか、諦めの境地で肩を竦めている。
 
 逆に、これに驚いたのはランスだった。王子殿下が平民のために御自ら動かれるなんて、常識では考えられなかった。
 しかもロワメールは、騎士隊の働きぶりを見たいから、という理由で、騎士隊へ協力要請まで出していたのだ。
「ぼく、騎士団統括最高責任者だから。どこかの騎士みたいな騎士失格者がいると、困るんだよねー」
 と、とってつけた言い訳をする。

「あ、あのっ! 殿下にそこまでしていただくわけには……!」
 これにランスは焦ったが、見越したようにロワメールは先手を打った。
「別に、騎士隊総動員で探してとかは命令してないよ。警ら中に、見かけたら教えてって言っただけ」
 ロワメールが命じれば騎士を総動員できるが、それはさすがに職権乱用である。

「で、ですが……」
 ランスが素直に好意を受けるには、ロワメールの身分が高すぎた。
 神にも等しい王族の方のご厚意を平民が拒否するのは畏れ多く、かと言って甘んじて受け入れるのも身に余り、困り果てるランスに、ロワメールは容赦なかった。
「なに? ぼくが王子だから、お姉さん探しをさせないわけ? そういうの逆差別だと思う」
 これにはさすがに、ランスも絶句した。
 もちろん王子だから仲間はずれにしてやろう、なんて意図はない。

「それに、カヤを見て回るついでだから。カヤはヒノ領の小キヨウって呼ばれる観光地だし、あー、カヤ巡り楽しみだなー」
 そう言って、さっさと大義名分を整えてしまう。
 名付け親に似て、王子様は言い訳が下手だった。

「ランス先輩、殿下はこういう方だから、諦めた方がいいと思いますよ」
 ジュールは笑顔で、ランスに諦観を促す。

「セツもわかった? ぼくは観光するから」
 これにはセツが盛大に反対すると思われたが、ジュールとジスランと行動することを条件に、あっさり許可した。
 ジュールだけでなくカイも当てが外れたようで、首を傾げる。
 だがその際、いつものように長ーい注意事項が言い渡されたのは、もはやお約束であった。

 

 ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽


 ❖ お知らせ ❖

 読んでくださり、ありがとうございます!


 3ー17 みたらし、せんべい、肉味噌おにぎり は8/30(金)の夜、21時頃に投稿を予定しています。

2024/10/25、加筆修正しました。
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