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第三話 魔者の花嫁編
3ー17 みたらし、せんべい、肉味噌おにぎり
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「暑いー」
「暑いですね~」
四方を山で囲まれ盆地であるカヤは、高地であっても夏の暑さは厳しい。太陽が昇れば、ぐんぐんと気温が上がった。
手団扇でパタパタと風を送りながらも、ロワメールもジュールも汗いっぱいである。
「キヨウの夏も暑いけど、カヤも暑いなー」
「ロワサマは、カヤは初めてですか?」
「カヤっていうか、ヒノ領が初めて」
ロワメール、カイ、ジュールにジスランは、カヤの街でランスの姉ファイエットの捜索を開始した。
風魔法『飛行』で、山を越えられるセツとランスは、カヤの街から遠い地域を担当している。
四人は現在、カヤの中心になる商家町に来ていた。古い街並みが、カヤの観光名所のひとつでもある。
人が集まるなら、目撃情報も集まりやすいと考えたのだ。
三筋にも渡り、道の両脇に昔ながらの商家が並ぶ。一の筋には造り酒屋や茶屋、料理屋、伝統工芸品を扱った店などが軒を並べ、二の筋には名物のみたらし団子を売る団子屋や菓子屋、醤油屋、味噌屋、そして三の筋には地元の住民が利用する生活雑貨の店などが揃っていた。
色々な店先を覗くだけで楽しく、通りは観光客で賑わっている。
ロワメールとジュールは、早速みたらし団子を買い求めながら聞き込みを開始した。
「金髪で、ファイエットという名の女性薬師を探しています。ご存知ありませんか?」
ちなみにカイとジスランには、甘味は拒否された。
「い、いえ、知らない、です」
売り子の娘は顔を真っ赤に染めて返答を絞り出し、他ものより焼き目が綺麗な団子をロワメールに手渡した。
「あ、これ、醤油味だ。香ばしくて美味しいー」
ロワメールが一口齧り、感想を漏らす。
小ぶりの団子は一般的なみたらし団子のように甘くはなく、醤油をつけて焼かれた素朴な味わいだ。
「甘くないやつだよ。カイも食べたら?」
「私はお腹が空いていないので結構です」
他にも醤油屋の店頭で焼かれた醤油せんべいと、味噌屋で肉味噌焼きおにぎり、トダ牛の串焼きなどを平らげたが手がかりは得られない。得られないが、一行の注目度ばかりが無駄に上がっていく。
観光客らしい女性達が一行を眺めては囁きあい、通りすがりの男性陣も目が釘付けになっている。どころか店員も客引きを忘れて、ロワメール達に見惚れていた。
「なんてお綺麗な方かしら……」
「あら、あれはジスラン様ではなくて?」
「こんな場所でお会いできるなんて、奇跡ですわ!」
中でもご婦人方は、今にもジスランに突撃そうな構えである。
「あの方の護衛をされてるのではないかしら?」
「でしたら、お仕事の邪魔をしてはいけませんわね」
だがご婦人方は節度を守り、遠巻きに、けれどガッツリその目にジスランの姿を焼き付けるにとどめている。
「君の兄さん、目立ってるねー」
「あはは~、そーですか~」
ロワメールが感心すれば、ジュールは棒読みな返答をする。
確かにジスランは知名度が高いが、注目度はロワメールの方が上である。でもどうやら、王子様はその事実に気付いていなかった。
自分の美貌さをちょいちょい忘れるロワメールと、周囲の反応にはいっさい興味のないジスラン、自分も衆目に一役買っているとは露ほども思っていないジュール……。
やれやれ、とカイが密かに溜め息を零す。自身もずば抜けた長身で人目を引いている……とは、カイだけはちゃんと自覚していた。
三の筋、二の筋では空振りに終わり、一行は一の筋へとやってきた。
「カヤ彫りが気になりますか?」
ジュールがロワメールの視線を追う。
ロワメールは伝統工芸品を扱う土産物屋に目がいっていた。
カヤ彫りは、この地方に代々伝わる木工品である。店先には茶道具や置物、面などが並べられていた。
「カヤの名産なんでしょう? 宮のみんなへ買って帰りたいと思って」
ロワメールは、真剣な面持ちで土産を吟味している。
「……キヨウに、お帰りになるんですか?」
「うん。ギルドの祭りが終わったら」
なんの気なしに答えてから、ロワメールはギョッとした。
明るい水色の瞳が、零れ落ちそうなほど見開かれている。キヨウに帰る予定を知らなかったジュールが立ち尽くしていた。
(な、なんでそんな反応!?)
確かに言ってなかったのは悪かったけど。
まさかジュールがショックを受けると思わず、ロワメールは焦る。
「あ、あのさっ」
慌てて言いさしたが、後が続かない。
「あの、その」
「?」
「えーと、ジュールは、その……これからも、今のパーティーでやっていくの?」
なんと言っていいかわからず、無理矢理話題をひねり出した。咄嗟にでてきたのは、ロワメールがかねてから気になっていたジュールの将来だ。
ずいぶん無茶な方向転換だったが、ジュールは素直に首を振る。
「いえ。ちょうど属性が揃ってたので、とりあえずパーティーを組んだだけなんです」
在学中から仲は良く、卒業と同時にパーティーを組んだが、それはあくまで独り立ちするまでの協力関係だった。
「レオは長男なのでいつかは地元に戻るって言ってますし、リーズも親元に戻って結婚しないといけないって。ディアはご両親が亡くなっていて、ボクの姉さんのいるシノン本部に在籍したいって言ってたかな?」
レオは、ホクト島の米農家の五人兄弟の長男だ。家業は継がないが、親元に帰る予定である。リーズはキキ島ダイトの大店の一人娘で、魔法学校卒業後は結婚する約束で魔法使いになっている。
水司の熱烈なファンであるディア以外は、はっきりと将来が決まっているようだった。
「それで、君はどうするの?」
「まだ、決めてないです」
「あー、そうなんだ……」
ロワメールは歯切れ悪く返事をしたきり、明後日の方に視線が飛ぶ。
「でも、できたら」
「うん?」
「できたら……」
ジュールは色違いの瞳を見上げたまま、パクパクと口を動かすだけで声が出ない。
お互い無言で見つめ合い。
「あ、あははは~」
「はははー」
二人揃って、笑って誤魔化した。
▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽
❖ お知らせ ❖
読んでくださり、ありがとうございます!
3ー18 ままならない彼ら は9/4(水)の夜、21時頃に投稿を予定しています。
「暑いですね~」
四方を山で囲まれ盆地であるカヤは、高地であっても夏の暑さは厳しい。太陽が昇れば、ぐんぐんと気温が上がった。
手団扇でパタパタと風を送りながらも、ロワメールもジュールも汗いっぱいである。
「キヨウの夏も暑いけど、カヤも暑いなー」
「ロワサマは、カヤは初めてですか?」
「カヤっていうか、ヒノ領が初めて」
ロワメール、カイ、ジュールにジスランは、カヤの街でランスの姉ファイエットの捜索を開始した。
風魔法『飛行』で、山を越えられるセツとランスは、カヤの街から遠い地域を担当している。
四人は現在、カヤの中心になる商家町に来ていた。古い街並みが、カヤの観光名所のひとつでもある。
人が集まるなら、目撃情報も集まりやすいと考えたのだ。
三筋にも渡り、道の両脇に昔ながらの商家が並ぶ。一の筋には造り酒屋や茶屋、料理屋、伝統工芸品を扱った店などが軒を並べ、二の筋には名物のみたらし団子を売る団子屋や菓子屋、醤油屋、味噌屋、そして三の筋には地元の住民が利用する生活雑貨の店などが揃っていた。
色々な店先を覗くだけで楽しく、通りは観光客で賑わっている。
ロワメールとジュールは、早速みたらし団子を買い求めながら聞き込みを開始した。
「金髪で、ファイエットという名の女性薬師を探しています。ご存知ありませんか?」
ちなみにカイとジスランには、甘味は拒否された。
「い、いえ、知らない、です」
売り子の娘は顔を真っ赤に染めて返答を絞り出し、他ものより焼き目が綺麗な団子をロワメールに手渡した。
「あ、これ、醤油味だ。香ばしくて美味しいー」
ロワメールが一口齧り、感想を漏らす。
小ぶりの団子は一般的なみたらし団子のように甘くはなく、醤油をつけて焼かれた素朴な味わいだ。
「甘くないやつだよ。カイも食べたら?」
「私はお腹が空いていないので結構です」
他にも醤油屋の店頭で焼かれた醤油せんべいと、味噌屋で肉味噌焼きおにぎり、トダ牛の串焼きなどを平らげたが手がかりは得られない。得られないが、一行の注目度ばかりが無駄に上がっていく。
観光客らしい女性達が一行を眺めては囁きあい、通りすがりの男性陣も目が釘付けになっている。どころか店員も客引きを忘れて、ロワメール達に見惚れていた。
「なんてお綺麗な方かしら……」
「あら、あれはジスラン様ではなくて?」
「こんな場所でお会いできるなんて、奇跡ですわ!」
中でもご婦人方は、今にもジスランに突撃そうな構えである。
「あの方の護衛をされてるのではないかしら?」
「でしたら、お仕事の邪魔をしてはいけませんわね」
だがご婦人方は節度を守り、遠巻きに、けれどガッツリその目にジスランの姿を焼き付けるにとどめている。
「君の兄さん、目立ってるねー」
「あはは~、そーですか~」
ロワメールが感心すれば、ジュールは棒読みな返答をする。
確かにジスランは知名度が高いが、注目度はロワメールの方が上である。でもどうやら、王子様はその事実に気付いていなかった。
自分の美貌さをちょいちょい忘れるロワメールと、周囲の反応にはいっさい興味のないジスラン、自分も衆目に一役買っているとは露ほども思っていないジュール……。
やれやれ、とカイが密かに溜め息を零す。自身もずば抜けた長身で人目を引いている……とは、カイだけはちゃんと自覚していた。
三の筋、二の筋では空振りに終わり、一行は一の筋へとやってきた。
「カヤ彫りが気になりますか?」
ジュールがロワメールの視線を追う。
ロワメールは伝統工芸品を扱う土産物屋に目がいっていた。
カヤ彫りは、この地方に代々伝わる木工品である。店先には茶道具や置物、面などが並べられていた。
「カヤの名産なんでしょう? 宮のみんなへ買って帰りたいと思って」
ロワメールは、真剣な面持ちで土産を吟味している。
「……キヨウに、お帰りになるんですか?」
「うん。ギルドの祭りが終わったら」
なんの気なしに答えてから、ロワメールはギョッとした。
明るい水色の瞳が、零れ落ちそうなほど見開かれている。キヨウに帰る予定を知らなかったジュールが立ち尽くしていた。
(な、なんでそんな反応!?)
確かに言ってなかったのは悪かったけど。
まさかジュールがショックを受けると思わず、ロワメールは焦る。
「あ、あのさっ」
慌てて言いさしたが、後が続かない。
「あの、その」
「?」
「えーと、ジュールは、その……これからも、今のパーティーでやっていくの?」
なんと言っていいかわからず、無理矢理話題をひねり出した。咄嗟にでてきたのは、ロワメールがかねてから気になっていたジュールの将来だ。
ずいぶん無茶な方向転換だったが、ジュールは素直に首を振る。
「いえ。ちょうど属性が揃ってたので、とりあえずパーティーを組んだだけなんです」
在学中から仲は良く、卒業と同時にパーティーを組んだが、それはあくまで独り立ちするまでの協力関係だった。
「レオは長男なのでいつかは地元に戻るって言ってますし、リーズも親元に戻って結婚しないといけないって。ディアはご両親が亡くなっていて、ボクの姉さんのいるシノン本部に在籍したいって言ってたかな?」
レオは、ホクト島の米農家の五人兄弟の長男だ。家業は継がないが、親元に帰る予定である。リーズはキキ島ダイトの大店の一人娘で、魔法学校卒業後は結婚する約束で魔法使いになっている。
水司の熱烈なファンであるディア以外は、はっきりと将来が決まっているようだった。
「それで、君はどうするの?」
「まだ、決めてないです」
「あー、そうなんだ……」
ロワメールは歯切れ悪く返事をしたきり、明後日の方に視線が飛ぶ。
「でも、できたら」
「うん?」
「できたら……」
ジュールは色違いの瞳を見上げたまま、パクパクと口を動かすだけで声が出ない。
お互い無言で見つめ合い。
「あ、あははは~」
「はははー」
二人揃って、笑って誤魔化した。
▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽
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