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第三話 魔者の花嫁編
3ー18 ままならない彼ら
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「初々しいのは結構ですが、いいんですか?」
一部始終を見ていたカイが白けている。さり気なく背を向けて商品を見るフリをしながら、ジュールとは一旦距離を置いていた。
「わかってる! わかってるよ! けど、いざとなると、こう、恥ずかしくて」
顔を赤らめるロワメールは可愛いことこの上ないが、それでは困る。
「ヒューイの時は言えたでしょう?」
「翡翠は、なんていうの、ちょっと状況が特殊だったっていうか」
言い訳がましいロワメールに、カイは呆れた。
「ウルソン伯には上手く言わせたじゃないですか」
「言わせたって、人聞き悪いなぁ、もお」
「違いますね。あの場合は、籠絡した、が適切ですね」
「ちょっともう黙ってて!」
側近筆頭は言いたい放題である。
ロワメールがプンプンしながら視線を彷徨わせると、小さな木の留め具に目が止まった。
「根付だ。へー、色々ある」
ツバキの花を模った根付を手に取り、薄い花びらの細工を眺める。
「オーレリアンにですか?」
彩色はされていないが、冬に咲くその花は、赤い髪の侍従長
を思い起こさせた。
「うん。いいと思わない?」
「オーレリアンなんて、ロワ様にいただいた物ならそこら辺の石ころだって喜びますよ」
「安定してレリくんには冷たいなぁ。幼馴染みなのに」
「ご存知ですか? 幼馴染みは自分で選べないんです。母親同士が友人でさえなければ」
「はいはい」
立て板に水の側近筆頭の文句を適等に流しながら、ロワメールは根付を選んでいく。
「レリくんにツバキ。翡翠にはイヌ……」
「宮が懐かしいですねぇ」
わざとらしい一言を、ロワメールは聞こえなかったフリをした。
懐かしくない、と言えば側近達や父と兄に悪い。かと言って帰りたいかと言われれば、セツのそばを離れたくはないのである。
「金髪で青い目の、ファイエットという女性薬師をご存知ありませんか?」
レオへの土産を買いながら、ジュールが店主に尋ねる。
「いや、知らないねぇ」
「そうですか。ありがとうございました」
先々で聞くも、返事は一緒だった。ロワメールも目でずっと金髪の女性を探している。
(ロワサマは、本当にお優しい)
魔法使いは嫌いだと言いながら、暑い中、汗を流しながらランスの姉を探している。
(……もう、キヨウにお帰りになるのか)
土産を選ぶ整いすぎた横顔を見ていると、ロワメールの帰郷がジワリと現実味を帯びてくる。
(キヨウに帰られたら、二度と会えない)
そういう立場のお方だ。
本来なら、一生そのお姿を拝見することも、お声を耳にすることもない。まして言葉を交わすなんてありえない。
ジュールは着物の合わせを握りしめた。
(どうしよう……。ボクに時間は残されていない)
俯くジュールの前髪が、サラリと揺れる。ハッとして顔を上げると、目にかかる前髪を兄が指で流していた。
「どうした? 大丈夫か?」
「あ、うん。考えごとしてて」
納得してなさそうな眼差しに、余計な心配をかけまいと、嘘ではない言い訳を追加する。
「どうして兄さんは、カイサマと一言も喋らないのかな~って」
ジュールとロワメールの後ろに並んで歩いているのに、二人は目も合わせず、お互いの存在を見事に無視している。
「別に。話す理由がなければ、話す必要はない。おれもあいつも仕事だ」
もっともらしく聞こえるが、ただの詭弁である。他人ならともかく、実の弟はそんなものに騙されなかった。
「大人げない!」
ジスランは資料棟の一件以来、ジルとカイが度々食事に出かけているのが気に食わないのだ。
そこに恋愛感情があるのかはわからない。姉にはそういった感情があるのかさえ怪しく、カイはプライベートはおくびにも出さない。が、お互い憎からずは思っている、と言うのがジュールの想像だ。
魔法使いとは言え、貴族の子女である以上婚姻からは逃れられない。なのであれば、少しでも条件のいい相手を選ぶべきだ。
その思いは兄も共有しているはずだが、カイが気に食わない。
ニュアージュ侯爵家嫡男で、第二王子の側近筆頭。カイ以上の相手はいないはずだというのに、面白くないのである。
(一回の食事で終わると思ったのに、続いちゃってるのが予想外なんだろうなぁ)
妹が心配でならないのに、うまくいきそうなのも気に入らない。
面倒臭い兄である。
ランスの姉ファイエットは、左目の下に泣きぼくろがあり、ランスに似た面差しの綺麗な女性だそうだ。それで腕の良い薬師なら人々の記憶に残りやすいだろうとセツは思ったが、現実はそう甘くはない。
小さな地域とはいえ、人一人探し出すのは簡単ではなかった。
「すみません。マスターや殿下にまで手伝ってもらっているのに」
「気にするな。端からすぐ見つかるとは思っていない」
頭を下げるランスの背中を、セツは軽く叩く。
セツもマスターとして裏切り者を長い年月追ってきたが、それはあくまで魔法使いで、魔力を追えばいいだけだった。
けれどノンカドーであるランスの姉には、なんの手がかりもない。人探しの素人であるセツ達には知識も技術もなく、地道に探すしかなかった。
「まだ、たった一日探しただけじゃないか。まさか、もう音を上げたのか?」
「いえ! まさか!」
いつしか日が西に傾き、山陰に消えようとしている。
夜になれば、一気に気温が下がるだろう。
ランスからは色濃い疲労が見て取れた。
一刻も早く姉を見つけたい、ランスは焦燥を滲ませていた。焦り、不安に苛まれ、気ばかり急いている。
精神的疲労と暑さにより、体力を大きく消耗させていた。
「そろそろ子爵の屋敷に戻るぞ」
「マスターは先に帰っていてください。自分はもう少しだけ聞き込みを」
「ランス」
やや目つきの悪いアイスブルーの瞳に見つめられて、ランスは俯いた。
根を詰めすぎ、倒れては元も子もない。
ランスもわかっているはずだが、じっとしていられないのだ。
「長丁場になることを覚悟して、休む時はしっかり休むんだ。いいな?」
放っておけば食事も取らずに探し続けるだろう青年を休ませることも、自分の仕事だとセツは心得ていた。
▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽
❖ お知らせ ❖
読んでくださり、ありがとうございます!
3ー19 夜のしじまに は9/6(金)の夜、21時頃に投稿を予定しています。
一部始終を見ていたカイが白けている。さり気なく背を向けて商品を見るフリをしながら、ジュールとは一旦距離を置いていた。
「わかってる! わかってるよ! けど、いざとなると、こう、恥ずかしくて」
顔を赤らめるロワメールは可愛いことこの上ないが、それでは困る。
「ヒューイの時は言えたでしょう?」
「翡翠は、なんていうの、ちょっと状況が特殊だったっていうか」
言い訳がましいロワメールに、カイは呆れた。
「ウルソン伯には上手く言わせたじゃないですか」
「言わせたって、人聞き悪いなぁ、もお」
「違いますね。あの場合は、籠絡した、が適切ですね」
「ちょっともう黙ってて!」
側近筆頭は言いたい放題である。
ロワメールがプンプンしながら視線を彷徨わせると、小さな木の留め具に目が止まった。
「根付だ。へー、色々ある」
ツバキの花を模った根付を手に取り、薄い花びらの細工を眺める。
「オーレリアンにですか?」
彩色はされていないが、冬に咲くその花は、赤い髪の侍従長
を思い起こさせた。
「うん。いいと思わない?」
「オーレリアンなんて、ロワ様にいただいた物ならそこら辺の石ころだって喜びますよ」
「安定してレリくんには冷たいなぁ。幼馴染みなのに」
「ご存知ですか? 幼馴染みは自分で選べないんです。母親同士が友人でさえなければ」
「はいはい」
立て板に水の側近筆頭の文句を適等に流しながら、ロワメールは根付を選んでいく。
「レリくんにツバキ。翡翠にはイヌ……」
「宮が懐かしいですねぇ」
わざとらしい一言を、ロワメールは聞こえなかったフリをした。
懐かしくない、と言えば側近達や父と兄に悪い。かと言って帰りたいかと言われれば、セツのそばを離れたくはないのである。
「金髪で青い目の、ファイエットという女性薬師をご存知ありませんか?」
レオへの土産を買いながら、ジュールが店主に尋ねる。
「いや、知らないねぇ」
「そうですか。ありがとうございました」
先々で聞くも、返事は一緒だった。ロワメールも目でずっと金髪の女性を探している。
(ロワサマは、本当にお優しい)
魔法使いは嫌いだと言いながら、暑い中、汗を流しながらランスの姉を探している。
(……もう、キヨウにお帰りになるのか)
土産を選ぶ整いすぎた横顔を見ていると、ロワメールの帰郷がジワリと現実味を帯びてくる。
(キヨウに帰られたら、二度と会えない)
そういう立場のお方だ。
本来なら、一生そのお姿を拝見することも、お声を耳にすることもない。まして言葉を交わすなんてありえない。
ジュールは着物の合わせを握りしめた。
(どうしよう……。ボクに時間は残されていない)
俯くジュールの前髪が、サラリと揺れる。ハッとして顔を上げると、目にかかる前髪を兄が指で流していた。
「どうした? 大丈夫か?」
「あ、うん。考えごとしてて」
納得してなさそうな眼差しに、余計な心配をかけまいと、嘘ではない言い訳を追加する。
「どうして兄さんは、カイサマと一言も喋らないのかな~って」
ジュールとロワメールの後ろに並んで歩いているのに、二人は目も合わせず、お互いの存在を見事に無視している。
「別に。話す理由がなければ、話す必要はない。おれもあいつも仕事だ」
もっともらしく聞こえるが、ただの詭弁である。他人ならともかく、実の弟はそんなものに騙されなかった。
「大人げない!」
ジスランは資料棟の一件以来、ジルとカイが度々食事に出かけているのが気に食わないのだ。
そこに恋愛感情があるのかはわからない。姉にはそういった感情があるのかさえ怪しく、カイはプライベートはおくびにも出さない。が、お互い憎からずは思っている、と言うのがジュールの想像だ。
魔法使いとは言え、貴族の子女である以上婚姻からは逃れられない。なのであれば、少しでも条件のいい相手を選ぶべきだ。
その思いは兄も共有しているはずだが、カイが気に食わない。
ニュアージュ侯爵家嫡男で、第二王子の側近筆頭。カイ以上の相手はいないはずだというのに、面白くないのである。
(一回の食事で終わると思ったのに、続いちゃってるのが予想外なんだろうなぁ)
妹が心配でならないのに、うまくいきそうなのも気に入らない。
面倒臭い兄である。
ランスの姉ファイエットは、左目の下に泣きぼくろがあり、ランスに似た面差しの綺麗な女性だそうだ。それで腕の良い薬師なら人々の記憶に残りやすいだろうとセツは思ったが、現実はそう甘くはない。
小さな地域とはいえ、人一人探し出すのは簡単ではなかった。
「すみません。マスターや殿下にまで手伝ってもらっているのに」
「気にするな。端からすぐ見つかるとは思っていない」
頭を下げるランスの背中を、セツは軽く叩く。
セツもマスターとして裏切り者を長い年月追ってきたが、それはあくまで魔法使いで、魔力を追えばいいだけだった。
けれどノンカドーであるランスの姉には、なんの手がかりもない。人探しの素人であるセツ達には知識も技術もなく、地道に探すしかなかった。
「まだ、たった一日探しただけじゃないか。まさか、もう音を上げたのか?」
「いえ! まさか!」
いつしか日が西に傾き、山陰に消えようとしている。
夜になれば、一気に気温が下がるだろう。
ランスからは色濃い疲労が見て取れた。
一刻も早く姉を見つけたい、ランスは焦燥を滲ませていた。焦り、不安に苛まれ、気ばかり急いている。
精神的疲労と暑さにより、体力を大きく消耗させていた。
「そろそろ子爵の屋敷に戻るぞ」
「マスターは先に帰っていてください。自分はもう少しだけ聞き込みを」
「ランス」
やや目つきの悪いアイスブルーの瞳に見つめられて、ランスは俯いた。
根を詰めすぎ、倒れては元も子もない。
ランスもわかっているはずだが、じっとしていられないのだ。
「長丁場になることを覚悟して、休む時はしっかり休むんだ。いいな?」
放っておけば食事も取らずに探し続けるだろう青年を休ませることも、自分の仕事だとセツは心得ていた。
▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽
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