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第三話 魔者の花嫁編
3ー20 ベッド強奪犯の夜明け
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「ごめんなさい~~」
ロワメールは小さくなって謝った。
朝、爽やかに目覚めてみれば、見慣れぬベッドで、しかもセツがソファで寝ている。
昨晩、自分がなにをしでかしたか理解した。
「んー? 昔ならお前も小さかったから一緒に寝れたが、これだけ育ったらなぁ」
「ごめんなさいー!!」
起き抜けに謝り倒され、セツはあくびを漏らしながら苦笑した。
「そうだなぁ……」
アイスブルーの目は、まだ寝惚けている。
「ゆっくり眠れたか?」
「……うん」
「ならよし」
そう言って、銀の髪をくしゃりと撫でてセツは笑った。
背中に流された銀の髪は、朝日を浴びてキラキラ輝いている。
「起こしてくれたらよかったのに」
ロワメールは肩身が狭かった。子どもの頃から、幾度となく繰返した失敗である。未だに治っていないとは、ロワメール自身がビックリだった。
「無茶言うな。あんなに気持ち良さそうに眠っているのに、起こせるわけないだろう」
この名付け親は、どこまでも甘い。
「ちょっと待ってて! すぐ戻るから!」
言うなり、ロワメールは部屋を飛び出した。寝起きのままの身なりで、カイがいたら血相をかえそうである。
近くからドアを開け閉めする音が聞こえ、そして言葉通りすぐに戻ってきた。
「はい、これ」
セツに手渡されたのは、小さな根付である。
「昨日言ってたお土産」
「スズメか」
コロンとまん丸く愛らしい二羽のスズメが寄り添っていた。
「はは、可愛いな。ありがとう、ロワメール」
セツは嬉しそうに、根付を財布に結びつけた。
二羽の仲の良いスズメが親子だということは、恥ずかしいので秘密である。
「さ、今日も頑張ってお姉さんを探そ!」
「ああ」
王子様と魔法使いは、気持ちを切り替えた。
一行は二手に別れて、ランスの姉を探した。
一日、二日、三日……と、なんの手がかりもないままに日にちだけが過ぎる。
そして四日目の午後、騎士隊からの一報がブレロー伯爵よりもたらされた。
「お探しの薬師と思しき女性の、目撃情報が入りました」
夕食の席、その知らせにロワメール達の顔が輝いた。魔者の脅威がちらつく中、炎天下の見知らぬ土地で人を探し続けるのは、肉体的にも精神的にも予想以上に負担が大きかった。
特にランスの消耗が激しい。
顔色が悪く、疲労を濃く滲ませながらも、目だけがギラギラとしていた。
絶対に姉を見つけ出す。
その強い意志が、過酷な状況でランスを支えているようだった。
しかし、その思いが焦りを生み、疲労に拍車をかけていた。
このままでは、ファイエットを見つけ出す前にランスが倒れてしまう。
日中はセツがしっかり休憩を取らせているが、夜な夜な街に探しに行っていることを皆が知っていた。
ランスとて戦闘職の魔法使い、脆弱ではない。しかし、精神的負荷は肉体を蝕む。
捜索人員を増やすことを検討しはじめた矢先の吉報だった。
「それで、どこで見つかったんです?」
「それが……」
言い淀むブレロー伯爵に、カイが怪訝に先を促す。
「なにか問題が?」
「目撃情報が二件ありまして。ひとつ目はカヤ市の東にある神殿群、もうひとつは南東にあるミクラ村です」
その二箇所の場所で、同日のおよそ同時刻に警ら中の騎士が見かけたとのことだ。
夕食の後、テーブルの上に地図を広げて、改めて伯爵が戸惑いを見せる理由がわかった。
カヤは、市の広さとしては皇八島一の面積を誇っている。ミクラと神殿群は距離が離れ、間には山もある。目撃されたのが同一人物とは思えなかった。
「つまり、どちらかの目撃情報は別人ってことか」
ロワメールの結論に、一行はランスに注目する。
どちらに行くか、と問うているのだ。
ランスは逸る気持ちを抑え、思考を巡らす。
「姉は、例え逃げている最中だとしても、薬師として人々の役に立つことを選ぶと思います。だから、自分はミクラ村を当たります」
そうして明日、セツとランスはミクラ村に、ロワメール達は神殿群に向かうことが決まった。
翌朝、朝一番にロワメールとカイ、レオール兄弟はシュエットゥ子爵の屋敷を発った。真っ直ぐ、カヤ神殿群に向かう。
カヤの街の東の山手、小高い丘陵地に歴史ある神殿群はあった。
「カヤ神殿群には、九つの由緒ある神殿が点在しています」
石畳の参道を歩きながら、ジュールがロワメールとカイに説明する。
「九神殿もあるんですか?」
「そうなんです。いっぱいでしょう?」
予想以上の数にカイが驚けば、ジュールも笑った。
神殿の数ならキヨウも負けていないが、カヤのように一所にまとまってはいない。
「カヤの街を作ったブレロー伯爵のご先祖が……東の山裾に、神殿を建立移築したのが始まりとされています」
このブレロー伯爵の先祖がキヨウをこよなく愛し、カヤを作る際もキヨウを手本とし、カヤは小キヨウと呼ばれるようになったのだという。
「山神神殿、月神神殿、地神神殿、木神神殿、水神神殿、雨神神殿、雪神神殿、陽神神殿、火神神殿と、全ての神殿がこの参道に沿って参拝できます」
真夏の午前中、参拝客はまばらだ。
緩やかな坂道を歩きながら、四人は最初の神殿、山神神殿を目指す。
四方を山に囲まれ、林業が盛んな山岳都市カヤにとって、山の神は切っても切れない神様だった。
「山神神殿はカヤ神殿群の中でも取り分け立派な神殿で、トダの匠の技を存分に堪能できる建築物です」
参道は掃き清められ、清涼な空気が満ちている。夏の陽射しは木々の枝葉に遮られ、地面に落ちる木漏れ日は美しかった。
街の喧騒は遠く、セミの声が降り注ぐ。
ランスの姉ファイエットは、この神殿群のどこかの神殿を参拝したと思われた。
▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽
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読んでくださり、ありがとうございます!
3ー21 ジュールの願い は9/13(金)の夜、21時頃に投稿を予定しています。
ロワメールは小さくなって謝った。
朝、爽やかに目覚めてみれば、見慣れぬベッドで、しかもセツがソファで寝ている。
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「ごめんなさいー!!」
起き抜けに謝り倒され、セツはあくびを漏らしながら苦笑した。
「そうだなぁ……」
アイスブルーの目は、まだ寝惚けている。
「ゆっくり眠れたか?」
「……うん」
「ならよし」
そう言って、銀の髪をくしゃりと撫でてセツは笑った。
背中に流された銀の髪は、朝日を浴びてキラキラ輝いている。
「起こしてくれたらよかったのに」
ロワメールは肩身が狭かった。子どもの頃から、幾度となく繰返した失敗である。未だに治っていないとは、ロワメール自身がビックリだった。
「無茶言うな。あんなに気持ち良さそうに眠っているのに、起こせるわけないだろう」
この名付け親は、どこまでも甘い。
「ちょっと待ってて! すぐ戻るから!」
言うなり、ロワメールは部屋を飛び出した。寝起きのままの身なりで、カイがいたら血相をかえそうである。
近くからドアを開け閉めする音が聞こえ、そして言葉通りすぐに戻ってきた。
「はい、これ」
セツに手渡されたのは、小さな根付である。
「昨日言ってたお土産」
「スズメか」
コロンとまん丸く愛らしい二羽のスズメが寄り添っていた。
「はは、可愛いな。ありがとう、ロワメール」
セツは嬉しそうに、根付を財布に結びつけた。
二羽の仲の良いスズメが親子だということは、恥ずかしいので秘密である。
「さ、今日も頑張ってお姉さんを探そ!」
「ああ」
王子様と魔法使いは、気持ちを切り替えた。
一行は二手に別れて、ランスの姉を探した。
一日、二日、三日……と、なんの手がかりもないままに日にちだけが過ぎる。
そして四日目の午後、騎士隊からの一報がブレロー伯爵よりもたらされた。
「お探しの薬師と思しき女性の、目撃情報が入りました」
夕食の席、その知らせにロワメール達の顔が輝いた。魔者の脅威がちらつく中、炎天下の見知らぬ土地で人を探し続けるのは、肉体的にも精神的にも予想以上に負担が大きかった。
特にランスの消耗が激しい。
顔色が悪く、疲労を濃く滲ませながらも、目だけがギラギラとしていた。
絶対に姉を見つけ出す。
その強い意志が、過酷な状況でランスを支えているようだった。
しかし、その思いが焦りを生み、疲労に拍車をかけていた。
このままでは、ファイエットを見つけ出す前にランスが倒れてしまう。
日中はセツがしっかり休憩を取らせているが、夜な夜な街に探しに行っていることを皆が知っていた。
ランスとて戦闘職の魔法使い、脆弱ではない。しかし、精神的負荷は肉体を蝕む。
捜索人員を増やすことを検討しはじめた矢先の吉報だった。
「それで、どこで見つかったんです?」
「それが……」
言い淀むブレロー伯爵に、カイが怪訝に先を促す。
「なにか問題が?」
「目撃情報が二件ありまして。ひとつ目はカヤ市の東にある神殿群、もうひとつは南東にあるミクラ村です」
その二箇所の場所で、同日のおよそ同時刻に警ら中の騎士が見かけたとのことだ。
夕食の後、テーブルの上に地図を広げて、改めて伯爵が戸惑いを見せる理由がわかった。
カヤは、市の広さとしては皇八島一の面積を誇っている。ミクラと神殿群は距離が離れ、間には山もある。目撃されたのが同一人物とは思えなかった。
「つまり、どちらかの目撃情報は別人ってことか」
ロワメールの結論に、一行はランスに注目する。
どちらに行くか、と問うているのだ。
ランスは逸る気持ちを抑え、思考を巡らす。
「姉は、例え逃げている最中だとしても、薬師として人々の役に立つことを選ぶと思います。だから、自分はミクラ村を当たります」
そうして明日、セツとランスはミクラ村に、ロワメール達は神殿群に向かうことが決まった。
翌朝、朝一番にロワメールとカイ、レオール兄弟はシュエットゥ子爵の屋敷を発った。真っ直ぐ、カヤ神殿群に向かう。
カヤの街の東の山手、小高い丘陵地に歴史ある神殿群はあった。
「カヤ神殿群には、九つの由緒ある神殿が点在しています」
石畳の参道を歩きながら、ジュールがロワメールとカイに説明する。
「九神殿もあるんですか?」
「そうなんです。いっぱいでしょう?」
予想以上の数にカイが驚けば、ジュールも笑った。
神殿の数ならキヨウも負けていないが、カヤのように一所にまとまってはいない。
「カヤの街を作ったブレロー伯爵のご先祖が……東の山裾に、神殿を建立移築したのが始まりとされています」
このブレロー伯爵の先祖がキヨウをこよなく愛し、カヤを作る際もキヨウを手本とし、カヤは小キヨウと呼ばれるようになったのだという。
「山神神殿、月神神殿、地神神殿、木神神殿、水神神殿、雨神神殿、雪神神殿、陽神神殿、火神神殿と、全ての神殿がこの参道に沿って参拝できます」
真夏の午前中、参拝客はまばらだ。
緩やかな坂道を歩きながら、四人は最初の神殿、山神神殿を目指す。
四方を山に囲まれ、林業が盛んな山岳都市カヤにとって、山の神は切っても切れない神様だった。
「山神神殿はカヤ神殿群の中でも取り分け立派な神殿で、トダの匠の技を存分に堪能できる建築物です」
参道は掃き清められ、清涼な空気が満ちている。夏の陽射しは木々の枝葉に遮られ、地面に落ちる木漏れ日は美しかった。
街の喧騒は遠く、セミの声が降り注ぐ。
ランスの姉ファイエットは、この神殿群のどこかの神殿を参拝したと思われた。
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