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第三話 魔者の花嫁編
3ー21 ジュールの願い
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「二手に別れよう」
山神神殿の前で、ロワメールは提案した。
「だって、ここ、九神殿もあるんでしょ? それに、ひとつの神殿の聞き込みに四人もいらないんじゃない?」
あとから思えば、ランスの姉が見つかるかもしれない、その期待に気が急いていたのだと思う。
それにユフは花緑青の島。無体な魔族はいないはず。そんな安心感が、ロワメールの心のどこかにあったのかもしれない。
「いや、それは……」
「いいですね! そうしましょう!」
ジスランが反対する前に、ジュールが賛同する。
「でしたらボク達は反対側の火神神殿から、雪神神殿、雨神神殿、水神神殿、地神神殿を回りますね」
「なんで飛び石?」
奇妙な分担の仕方にロワメールが首を捻る。
反対側から順に回るのかと思ったが、陽神神殿と木神神殿が抜けていた。
「えーと、ですね」
ジュールは言い難そうに、視線を逸らした。
「ご存知かもしれませんが、魔法使いギルドと神殿って、仲悪いんですよ~」
それ以上は笑って誤魔化すが、あまり上手くできなかった。
色違いの瞳に見つめられて、あはは~という笑い声が尻すぼみに消えてなくなる。
ネガティブな話題なのでロワメールの耳には入れたくなかったが、仕方ない。
「……昔からなんですよ。いわゆる犬猿の仲ってやつです」
神殿は、神から授かりし魔力を金儲けの道具にしている、という見解でギルドを非難し。
魔法使い側は、労働に対価を得るのは当然の権利である、と真っ向から対立している。
皇八島の二大勢力のいがみ合いは、遥か昔から延々と続いていた。
「うん、まあ、仲が悪いのは知ってたけど……。そんなに険悪なの?」
「んーと、場所や神官によります」
シノンではギルドの影響が強く、魔法使いが神殿を参拝するのも普通で、キヨウなどの大都市でも参拝客が多いので、いちいち目くじらは立てられない。
また例外として、魔法の四属性の神を祭る火神、水神、風神、地神、そしてそれに連なる神々、例えば水に連なる海や川の神、水の上位魔法である氷や雪の神を祭る神殿は、魔法使いを広く受け入れていた。
ただ地方の神殿や、頑固な神官がいたりする神殿だったら、話はかわってくる。
ヘタをしたら満足に情報を得られないばかりか、門前払いをされる可能性もあった。
「そういう理由なら、別にぼくはそれでもいいけど……」
ロワメールはジュールの意思を汲んだが、ジスランは反対の姿勢を貫いた。
「いや、ダメだ。おれ達は護衛だ、ジュール」
護衛が警護対象者のそばを離れるわけにはいかない、と弟を諭す。
「でも、ボク達のせいで、ロワサマが不快な思いをされるのはイヤなんだ」
ロワメールが身分を明かせば話はかわるが、絶賛正体を隠してお忍び中である。
ここの神殿にはそんな偏狭な神官はいないかもしれないが、万一にも王子様に不愉快な思いをさせたくなかった。
ジスランの言い分が正しい。だがジュールの思いやりも、ロワメールは無碍にしたくなかった。
「山神神殿と火神神殿は、そこまで離れてるわけじゃないよね? ぼくは『黒霧』を持ってるし、カイもいる。なにかあったら急いで来てくれたらいいよ」
ロワメールもカイも剣の腕が立った。その上ロワメールの刀『黒霧』は魔剣である。もし魔獣と遭遇しても、レオール兄弟が到着するまでの時間は稼げる自信があった。
ジスランが肩を竦める。王子に言われては従うしかない。
カイも了承したのか、ロワメールの提案に異を唱えなかった。
「聞き込みが終わったら、そこのお茶屋で落ち合おう」
参道にあるお茶屋を指差し、ロワメールがしばしの別れを告げる。
こうしてロワメールとカイは山神神殿へ。ジュールとジスランは、参道の最奥に建つ火神神殿へと向かった。
「ねえ、兄さん。カヤを作ったブレロー伯爵のご先祖、なんて名前だっけ?」
「ジョゼフ・キャトル・ブレロー」
石畳の参道を火神神殿へと歩きながら、ジュールが兄に質問した。
ロワメールに説明した時に濁したのは、ど忘れしたからだ。
ロワメールとカイは、淀みなく神殿群の観光案内をするジュールに感心してくれたが、実を言えば、昨晩シュエットゥ子爵家の使用人に色々教えてもらったのである。
「……やっぱり兄さんはすごいね」
「なにがだ?」
「ボクなんて、昨夜教えてもらったのに忘れちゃって……」
他人は兄をぐうたらと評すが、それは正確ではない。ジスランは優秀すぎるのだ。他の人間が必死に勉強しなければならないことも、兄は一度で覚えてしまう。懸命に取り組むことも、容易くこなしてしまう。だから本気になる必要もなく、余った時間を午睡で濁す。
そんなジスランの姿を見て、周りが勝手に怠け者だの不真面目だの言うのだ。
ジュールの知っている中で、ジスランほど頭が良く、なんでもできる人はいなかった。
「兄さんみたいだったら、ボクも……」
セミの鳴き声と葉擦れの音が、二人きりの参道を包む。
ジスランのように優秀なら、あるいはジュールの願いは叶えられるのかもしれない。
キラキラとした木漏れ日が、ジュールに降り注ぐ。
木の葉と陽光が、ジュールの顔に陰影を落とした。
「なにか、悩みがあるんじゃないのか?」
兄の声は静かだった。
石畳の上を彷徨っていた明るい水色の瞳が、不意を突かれて視線を上げる。
「どうしてわかったの!?」
「見てればわかるさ」
ジスランの綺麗な形の眉が下がっていた。
兄はいつから、ジュールを心配してくれていたんだろう。
しかし、ジュールは胸の内を明かすことを躊躇った。
この願いを口にするのは、危険かもしれない。ギルドへの裏切りと取られかねない願いだ。
だがジュール一人では、もう、どうしていいかわからなかった。
兄ならきっと、力になってくれる。
それに相談するなら、兄以上の人はいなかった。
ジスランに見つめられ、ジュールは迷いを振り払う。
迷っている猶予すら、ジュールにはなかった。
もうすぐロワメールは、キヨウに帰ってしまう。
「兄さん、ボク、ロワメール殿下にお仕えしたいんだ」
▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽
❖ お知らせ ❖
読んでくださり、ありがとうございます!
3ー22 ジスランの陰謀遊戯 は9/18(水)の夜、21時頃に投稿を予定しています。
山神神殿の前で、ロワメールは提案した。
「だって、ここ、九神殿もあるんでしょ? それに、ひとつの神殿の聞き込みに四人もいらないんじゃない?」
あとから思えば、ランスの姉が見つかるかもしれない、その期待に気が急いていたのだと思う。
それにユフは花緑青の島。無体な魔族はいないはず。そんな安心感が、ロワメールの心のどこかにあったのかもしれない。
「いや、それは……」
「いいですね! そうしましょう!」
ジスランが反対する前に、ジュールが賛同する。
「でしたらボク達は反対側の火神神殿から、雪神神殿、雨神神殿、水神神殿、地神神殿を回りますね」
「なんで飛び石?」
奇妙な分担の仕方にロワメールが首を捻る。
反対側から順に回るのかと思ったが、陽神神殿と木神神殿が抜けていた。
「えーと、ですね」
ジュールは言い難そうに、視線を逸らした。
「ご存知かもしれませんが、魔法使いギルドと神殿って、仲悪いんですよ~」
それ以上は笑って誤魔化すが、あまり上手くできなかった。
色違いの瞳に見つめられて、あはは~という笑い声が尻すぼみに消えてなくなる。
ネガティブな話題なのでロワメールの耳には入れたくなかったが、仕方ない。
「……昔からなんですよ。いわゆる犬猿の仲ってやつです」
神殿は、神から授かりし魔力を金儲けの道具にしている、という見解でギルドを非難し。
魔法使い側は、労働に対価を得るのは当然の権利である、と真っ向から対立している。
皇八島の二大勢力のいがみ合いは、遥か昔から延々と続いていた。
「うん、まあ、仲が悪いのは知ってたけど……。そんなに険悪なの?」
「んーと、場所や神官によります」
シノンではギルドの影響が強く、魔法使いが神殿を参拝するのも普通で、キヨウなどの大都市でも参拝客が多いので、いちいち目くじらは立てられない。
また例外として、魔法の四属性の神を祭る火神、水神、風神、地神、そしてそれに連なる神々、例えば水に連なる海や川の神、水の上位魔法である氷や雪の神を祭る神殿は、魔法使いを広く受け入れていた。
ただ地方の神殿や、頑固な神官がいたりする神殿だったら、話はかわってくる。
ヘタをしたら満足に情報を得られないばかりか、門前払いをされる可能性もあった。
「そういう理由なら、別にぼくはそれでもいいけど……」
ロワメールはジュールの意思を汲んだが、ジスランは反対の姿勢を貫いた。
「いや、ダメだ。おれ達は護衛だ、ジュール」
護衛が警護対象者のそばを離れるわけにはいかない、と弟を諭す。
「でも、ボク達のせいで、ロワサマが不快な思いをされるのはイヤなんだ」
ロワメールが身分を明かせば話はかわるが、絶賛正体を隠してお忍び中である。
ここの神殿にはそんな偏狭な神官はいないかもしれないが、万一にも王子様に不愉快な思いをさせたくなかった。
ジスランの言い分が正しい。だがジュールの思いやりも、ロワメールは無碍にしたくなかった。
「山神神殿と火神神殿は、そこまで離れてるわけじゃないよね? ぼくは『黒霧』を持ってるし、カイもいる。なにかあったら急いで来てくれたらいいよ」
ロワメールもカイも剣の腕が立った。その上ロワメールの刀『黒霧』は魔剣である。もし魔獣と遭遇しても、レオール兄弟が到着するまでの時間は稼げる自信があった。
ジスランが肩を竦める。王子に言われては従うしかない。
カイも了承したのか、ロワメールの提案に異を唱えなかった。
「聞き込みが終わったら、そこのお茶屋で落ち合おう」
参道にあるお茶屋を指差し、ロワメールがしばしの別れを告げる。
こうしてロワメールとカイは山神神殿へ。ジュールとジスランは、参道の最奥に建つ火神神殿へと向かった。
「ねえ、兄さん。カヤを作ったブレロー伯爵のご先祖、なんて名前だっけ?」
「ジョゼフ・キャトル・ブレロー」
石畳の参道を火神神殿へと歩きながら、ジュールが兄に質問した。
ロワメールに説明した時に濁したのは、ど忘れしたからだ。
ロワメールとカイは、淀みなく神殿群の観光案内をするジュールに感心してくれたが、実を言えば、昨晩シュエットゥ子爵家の使用人に色々教えてもらったのである。
「……やっぱり兄さんはすごいね」
「なにがだ?」
「ボクなんて、昨夜教えてもらったのに忘れちゃって……」
他人は兄をぐうたらと評すが、それは正確ではない。ジスランは優秀すぎるのだ。他の人間が必死に勉強しなければならないことも、兄は一度で覚えてしまう。懸命に取り組むことも、容易くこなしてしまう。だから本気になる必要もなく、余った時間を午睡で濁す。
そんなジスランの姿を見て、周りが勝手に怠け者だの不真面目だの言うのだ。
ジュールの知っている中で、ジスランほど頭が良く、なんでもできる人はいなかった。
「兄さんみたいだったら、ボクも……」
セミの鳴き声と葉擦れの音が、二人きりの参道を包む。
ジスランのように優秀なら、あるいはジュールの願いは叶えられるのかもしれない。
キラキラとした木漏れ日が、ジュールに降り注ぐ。
木の葉と陽光が、ジュールの顔に陰影を落とした。
「なにか、悩みがあるんじゃないのか?」
兄の声は静かだった。
石畳の上を彷徨っていた明るい水色の瞳が、不意を突かれて視線を上げる。
「どうしてわかったの!?」
「見てればわかるさ」
ジスランの綺麗な形の眉が下がっていた。
兄はいつから、ジュールを心配してくれていたんだろう。
しかし、ジュールは胸の内を明かすことを躊躇った。
この願いを口にするのは、危険かもしれない。ギルドへの裏切りと取られかねない願いだ。
だがジュール一人では、もう、どうしていいかわからなかった。
兄ならきっと、力になってくれる。
それに相談するなら、兄以上の人はいなかった。
ジスランに見つめられ、ジュールは迷いを振り払う。
迷っている猶予すら、ジュールにはなかった。
もうすぐロワメールは、キヨウに帰ってしまう。
「兄さん、ボク、ロワメール殿下にお仕えしたいんだ」
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