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第四話 王都次代編
4ー9 優しいメガネのお兄さん
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「窓閉めてー」
「え!? 閉めるんですか!?」
執務室に残ったカイ以外の側近三人が、ロワメールの指示に戸惑う。
蒸し風呂状態になるのがわかっている命令に、忠誠を誓った側近たちも躊躇いをみせた。
「せっかく良い風が入ってきていますが。まあ、閉めろって仰るなら閉めますけど……」
「扉も閉めてね」
再度命じられ、リアムも不承不承従う。
当然だ。月待月とはいえ、まだまだ太陽は力強く、その上盆地であるキヨウは蒸し暑い。
王子の意図が読めずに首を傾げながら扉をパタリと閉めると、リアムは不思議そうに室内を見回した。
「あれ? なんか涼しい?」
ムワリとした熱気が籠もると思い込んでいたのは、侍従見習いだけではない。オーレリアンとヒューイも、室内の変化を敏感に感じ取った。
「ロワさま、これはもしかして……」
オーレリアンが、ソファに座る魔法使いに視線を注ぐ。
「そう! セツの魔法だよ! 涼しいでしょ!」
「俺は暑さが苦手でな」
「なんと素晴らしい」
みるみる汗が引いていき、室温が快適になる。
来て早々、素晴らしい魔法で王子宮の面々にセツの株は爆上がりだった。
「そうでしょそうでしょ! なんてったって、セツは最強の魔法使いだからね! このくらい朝飯前だよ!」
ロワメールは側近たちにセツの凄さが認められて、嬉しくてしょうがない。
鼻高々に自慢した。
余談ではあるが、この魔法は世に知られていない。
夏が苦手なセツが編み出した魔法だが、論文で発表していないからだ。厳密にはできないのだと言う。
魔法使いは新たな魔法を作り出し、それに汎用性があり人々の役に立つものであれば、論文にして発表する。汎用性がなく、たいして役に立たなくても、凄い魔法ができたら、論文にして自慢する。
――どうして発表しないの?
――マスターの魔法の発動方法は、普通の魔法使いと違うんだ。
シノンのセツ家にいた時だ。
ロワメールとジュールを前に、セツはマスターと魔法使いの違いを説明した。
――魔法使いは魔法術式に従い魔力を操作し、魔法を発動させるだろ? マスターは、そもそも術式を使わないんだ。
――じゃあ、どうやって魔法を発動させてるんですか?
――なんかこう、シュッとかバッとか?
まさかの感覚論にジュールは絶句する。
――いやいや! 俺だけじゃないぞ! そもそも俺もそうやって師匠に教わったし、師匠も先々代もそうだったから、マスターはみんなそんな感じなんだよ!
めずらしく笑顔が消えたジュールに、セツが言い訳した。
ジュールはセツの許可を取り、この魔法の魔法理論を解明し、術式の構築に成功。そして論文にして発表し、後世の人にまで称えられるのだが、それは数年後の話である。
国王が他島に視察へ赴いているため、警戒していた勲章授与式もなく、セツはキヨウを存分に楽しんでいた。と言っても、王都観光ではない。セツは王子宮に引きこもっていた。
「王都はぼくが案内するね! とりあえず大急ぎで仕事終わらせるから、待ってて!」
一番の理由はロワメールにそう言われてせがまれたからだが、それだけではない。王子宮にはセツの心を掴む物があった。
セツはキヨウでの日々を、執務室のソファで読書に耽ることに費やしていた。
傍らではロワメールがせっせと政務に励んでいる。
続き部屋では側近たちが立ち働いており、執務室共々セツの魔法の恩恵に預かっていた。
「自分の家だと思って、ゆっくりしてね」とロワメールに言われたセツは、快適な環境を提供しながら本のページをめくる。
王子宮の書庫はさすがに収蔵する分野も幅広く、ギルドとは違った傾向の取り揃えだった。またロワメールが集めた魔法、魔法使いに関するものも多く、読みでがある。
それに加え、王宮図書室への自由な出入りもロワメールは取り計らっていた。
しばらくは、セツも退屈しない。
存分に読書生活を満喫していたセツの耳が、カチャリ、と陶器のなる音を拾った。同時に、鼻腔をくすぐる爽やかな香りがする。
目を上げると、オーレリアンがローテーブルに湯気の立つティーカップを置いていた。
白いカップに明るい水色のお茶が入っている。外の国の嗜好品、紅茶だ。
王子宮で一口飲んでから、セツはいたく紅茶を気に入っていた。
「本日はウバをご用意いたしました。ミルクが合いますので、よろしければお使いください」
「……美味いな。渋みにキレがある」
一口味合い、セツが目を細める。
「紅茶は、レリくんの方が淹れるの上手いんだよねー」
その様子を執務机から眺めていたロワメールが、ポツリと零した。
「恐れ入ります」
王子の褒め言葉に、侍従長は穏やかな微笑を浮かべる。
オーレリアンは優しげな風貌に似合った、物腰の柔らかな青年だった。
カイが笑顔を作らなくていい、貴重な相手でもある。
ロワメールの側仕えをオーレリアンが望んだ時、カイは隠すことなく不満を表した。
――わざわざロワメール殿下に仕えたいなんて、私へのいやがらせですか?
――まさか。おれがお仕えしたいと思った方が、たまたまカイと一緒だっただけだよ。
オーレリアンの経歴は、なんの問題もないものだった。だからそんなカイの反応に、ロワメールは最初、首を傾げた。
――なにか性格に問題が?
――いいえ、逆さにして叩いても、ホコリひとつ出しませんよ。この国を端から端まで探しても、あいつほど良い奴はいません。
それはそれは嫌そうな顔で、褒めながら悪口を言う。
――仲良いんだ?
――あんな善人と、仲が良いわけないでしょう!?
ロワメールとしては人柄のいいオーレリアンを選びたかったが、揉めるのは目に見えている。わざわざ厄介ごとの種を抱えなくてもいいかと採用を断念しようとしたが、その決定をカイが反対した。
――あいつを手放すのは、王子として愚かな選択です。
カイは憮然としながらも、断言したのである。
こうして側近筆頭の幼馴染みは、王子宮に迎え入れられたのだった。
▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽ ▽
❖ お知らせ ❖
読んでくださり、ありがとうこざいます!
4ー10 はんばーぐ は、6/4(水)の夜、21時頃に投稿を予定しています。
「え!? 閉めるんですか!?」
執務室に残ったカイ以外の側近三人が、ロワメールの指示に戸惑う。
蒸し風呂状態になるのがわかっている命令に、忠誠を誓った側近たちも躊躇いをみせた。
「せっかく良い風が入ってきていますが。まあ、閉めろって仰るなら閉めますけど……」
「扉も閉めてね」
再度命じられ、リアムも不承不承従う。
当然だ。月待月とはいえ、まだまだ太陽は力強く、その上盆地であるキヨウは蒸し暑い。
王子の意図が読めずに首を傾げながら扉をパタリと閉めると、リアムは不思議そうに室内を見回した。
「あれ? なんか涼しい?」
ムワリとした熱気が籠もると思い込んでいたのは、侍従見習いだけではない。オーレリアンとヒューイも、室内の変化を敏感に感じ取った。
「ロワさま、これはもしかして……」
オーレリアンが、ソファに座る魔法使いに視線を注ぐ。
「そう! セツの魔法だよ! 涼しいでしょ!」
「俺は暑さが苦手でな」
「なんと素晴らしい」
みるみる汗が引いていき、室温が快適になる。
来て早々、素晴らしい魔法で王子宮の面々にセツの株は爆上がりだった。
「そうでしょそうでしょ! なんてったって、セツは最強の魔法使いだからね! このくらい朝飯前だよ!」
ロワメールは側近たちにセツの凄さが認められて、嬉しくてしょうがない。
鼻高々に自慢した。
余談ではあるが、この魔法は世に知られていない。
夏が苦手なセツが編み出した魔法だが、論文で発表していないからだ。厳密にはできないのだと言う。
魔法使いは新たな魔法を作り出し、それに汎用性があり人々の役に立つものであれば、論文にして発表する。汎用性がなく、たいして役に立たなくても、凄い魔法ができたら、論文にして自慢する。
――どうして発表しないの?
――マスターの魔法の発動方法は、普通の魔法使いと違うんだ。
シノンのセツ家にいた時だ。
ロワメールとジュールを前に、セツはマスターと魔法使いの違いを説明した。
――魔法使いは魔法術式に従い魔力を操作し、魔法を発動させるだろ? マスターは、そもそも術式を使わないんだ。
――じゃあ、どうやって魔法を発動させてるんですか?
――なんかこう、シュッとかバッとか?
まさかの感覚論にジュールは絶句する。
――いやいや! 俺だけじゃないぞ! そもそも俺もそうやって師匠に教わったし、師匠も先々代もそうだったから、マスターはみんなそんな感じなんだよ!
めずらしく笑顔が消えたジュールに、セツが言い訳した。
ジュールはセツの許可を取り、この魔法の魔法理論を解明し、術式の構築に成功。そして論文にして発表し、後世の人にまで称えられるのだが、それは数年後の話である。
国王が他島に視察へ赴いているため、警戒していた勲章授与式もなく、セツはキヨウを存分に楽しんでいた。と言っても、王都観光ではない。セツは王子宮に引きこもっていた。
「王都はぼくが案内するね! とりあえず大急ぎで仕事終わらせるから、待ってて!」
一番の理由はロワメールにそう言われてせがまれたからだが、それだけではない。王子宮にはセツの心を掴む物があった。
セツはキヨウでの日々を、執務室のソファで読書に耽ることに費やしていた。
傍らではロワメールがせっせと政務に励んでいる。
続き部屋では側近たちが立ち働いており、執務室共々セツの魔法の恩恵に預かっていた。
「自分の家だと思って、ゆっくりしてね」とロワメールに言われたセツは、快適な環境を提供しながら本のページをめくる。
王子宮の書庫はさすがに収蔵する分野も幅広く、ギルドとは違った傾向の取り揃えだった。またロワメールが集めた魔法、魔法使いに関するものも多く、読みでがある。
それに加え、王宮図書室への自由な出入りもロワメールは取り計らっていた。
しばらくは、セツも退屈しない。
存分に読書生活を満喫していたセツの耳が、カチャリ、と陶器のなる音を拾った。同時に、鼻腔をくすぐる爽やかな香りがする。
目を上げると、オーレリアンがローテーブルに湯気の立つティーカップを置いていた。
白いカップに明るい水色のお茶が入っている。外の国の嗜好品、紅茶だ。
王子宮で一口飲んでから、セツはいたく紅茶を気に入っていた。
「本日はウバをご用意いたしました。ミルクが合いますので、よろしければお使いください」
「……美味いな。渋みにキレがある」
一口味合い、セツが目を細める。
「紅茶は、レリくんの方が淹れるの上手いんだよねー」
その様子を執務机から眺めていたロワメールが、ポツリと零した。
「恐れ入ります」
王子の褒め言葉に、侍従長は穏やかな微笑を浮かべる。
オーレリアンは優しげな風貌に似合った、物腰の柔らかな青年だった。
カイが笑顔を作らなくていい、貴重な相手でもある。
ロワメールの側仕えをオーレリアンが望んだ時、カイは隠すことなく不満を表した。
――わざわざロワメール殿下に仕えたいなんて、私へのいやがらせですか?
――まさか。おれがお仕えしたいと思った方が、たまたまカイと一緒だっただけだよ。
オーレリアンの経歴は、なんの問題もないものだった。だからそんなカイの反応に、ロワメールは最初、首を傾げた。
――なにか性格に問題が?
――いいえ、逆さにして叩いても、ホコリひとつ出しませんよ。この国を端から端まで探しても、あいつほど良い奴はいません。
それはそれは嫌そうな顔で、褒めながら悪口を言う。
――仲良いんだ?
――あんな善人と、仲が良いわけないでしょう!?
ロワメールとしては人柄のいいオーレリアンを選びたかったが、揉めるのは目に見えている。わざわざ厄介ごとの種を抱えなくてもいいかと採用を断念しようとしたが、その決定をカイが反対した。
――あいつを手放すのは、王子として愚かな選択です。
カイは憮然としながらも、断言したのである。
こうして側近筆頭の幼馴染みは、王子宮に迎え入れられたのだった。
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