フェールの花-価値のない王子は完璧な王に愛される-

淡海のえ

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挿話集

50 冬の夜

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 微かに眉を寄せて考えている姿に、クライスは笑ってしまいそうになる。最近のコールの悩みは、鷹を愛でたいということだ。

 クリースとセラスが港に向かってアニタを出てからまだ数日。けれどすでにカイが懐かしくて堪らないらしい。

「もう自分で鷹を……」

 真剣に呟かれて、もう無理だった。我慢できずに笑い声を漏らしてしまう。

「コール、様、カイは特別……です、よ」

 何とか笑いながら言葉をかけると、片眉を上げたコールに掴まった。ソファーに座ったコールに引き寄せられて、向き合った形で上に座らされる。

「わかっている」

 ちょっとだけむすっとした顔で言われて、愛しさが込み上げてくる。普段はかっこいいと思うのに、ときどき子供のような姿を見せてくれる。

 心を許してくれているのかと思うと、嬉しくて幸せな気持ちになる。笑いが止まらなくて、必死に抑えているとぎゅっと力を入れて抱きしめられる。

 首に顔を埋められると、くすぐったくてまた笑いが出る。

「クライスは暖かいな」

「寒いんですか?」

 アラガスタにも本格的な冬が近づいているのがわかる。けれどフェールに比べたら、まだまだと言ったところだ。

 肺が痛くなるくらいな寒さは、たぶんアラガスタにはほぼないと思われる。この時期のフェールなら暖炉には絶えず火を入れなければいけないし、服も重ね着しなければ耐えられない。

 対してアラガスタでは、夜と朝に火を入れれば耐えられるかなという感じだ。

「オレは寒いのが好きじゃない」

 探るように服の上から、コールの手に体をなぞられる。服の隙間を見つけた手が中に入ってきて、肌に触れる。

「んっ……!」

「ほら、冷たいだろ」

「もう、暖炉の前でくつろいでください」

 ひんやりとしたコールの手に、肌がぞわっとしてしまう。ちょっとだけ睨んでみると、なぜかコールが嬉しそうな顔をする。

 どうしてコールはクライスが怒ると、喜ぶのだろう。

「クライスがそばにいてくれれば問題ない」

 コールの指が腰から背を撫でるように上がってくる。

「あっ……んぅ……」

 ぞくりとした感覚に、自然と声が漏れる。気づくとクライスの体を支えてくれていた片腕がなくなっている。

「あ、ちょっ……コール様!」

 前に回った手に服のボタンを外されていく。止めようとするが全く歯が立たないまま、前がはだけられる。

「ぼ、僕が寒くなります」

「いつも薄着のクライスならこのくらい平気だろ」

 言いながら顔が胸に近づいて行くのが見える。あ、ダメだと思った時には、高い声が溢れ出る。

 冷たい空気に触れて、微かに立ち上がっていた胸の突起が温かい粘膜に包まれる。ぬるりとした感触に力が抜けて、思わずすがるようにコールの頭を抱きしめてしまう。

「ひっ……んぅ……あっ!」

 声を堪えようとすると、わざとコールに強く突起を吸われる。体が勝手に反応して、快楽を逃がそうと腰が跳ねてしまう。

 味わうように丹念に舌を這わせられて、糸を引くような喘ぎ声が自然と溢れる。コールが相手だと、少し触られただけで力が抜けてしまう。

 ふとした瞬間に、そっと指と指が絡むだけで腰に甘い痺れを感じる。他の人と偶然に指が触れても、何ともないのに……。

 すでに視界を潤ませていると、胸の突起から口を離したコールに口付けられる。

「ベッドに行くか?」

 答えなんて聞かなくてもわかっているのに、わざと聞いてくるのが少し憎らしい。でも結局、コールの首に腕を回して抱きつく。

 すると体がふわりと浮いて、いつものように軽々と抱き上げられる。優しくベッドに下ろされて、見下ろしてくるコールの顔を見る。

 さっきまでの子供のような表情は、息を潜めている。手を伸ばして頬に触れると、コールの瞳が細められて気持ち良さそうに微笑んでくれる。

「コール様も、僕にとってはとても暖かいです」

「ならお互いくっついていれば、もっと暖かいな」

 すでに馴染んだコールの重みがかかる。お互いの体が近づくと、何とも言えない充足感に満たされる。

「冬も悪くないと思ったのは初めてだ」

「僕はもともと冬が好きですよ」

 特有の冬の空気は、確かに肺が痛くなるが身を清められるような気持ちになる。

「じゃあオレが好きになれるよう協力してくれ」

 何を言われているのかわからずに首を傾げていると、指で胸の突起をはじかれる。

「ひゃあっ!」

 無謀議だったせいで、大きな声が出てしまって慌てて口を塞ぐ。

「冬の夜は長いからな。すぐに好きになれそうだ」

「コール様!」

 どう協力しろと言われているのかわかって、思わず責めるように名を呼んでしまう。


「何だ? 協力したくないか?」

「……っ」

 協力したくないとは言いたくないが、協力したいとも言えない。クライスが答えを出せないとわかっていて、聞いているのがわかる。

「どっちだ? 返事がないなら了承ととるが?」

「い、意地悪です!」

「違う。可愛がっているだけだ」

 さらっとすごいことを言われて、何て返していいかわからず口を開いたり閉じたりしてしまう。すると口を塞がれる。

 開いてた口に、遠慮なく舌を入れられて絡ませられる。

「ふっ……ぅん……」

 同時に服の上から形を確かめるように、陰茎を触られる。すでに硬くなっているのに気づかれて、恥ずかしさに身を縮めてしまう。

「了承してくれただけあって、協力的だ」

 誰も了承なんてしてないのにと思うが、もう反論することもできなくなっている。直に陰茎を触られて、口から出るのは喘ぎ声だけだ。

「やっ……も、イっちゃ……」

「相変わらず感じやすい」

 ほぼ毎日触られていたら、コールの与える快楽に体が従順になるのは当たり前とも言える。冬の夜の長さを少しだけ、本当に少しだけ、恨みがましく思ってしまった。
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