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挿話集
55 ネイトの受難-緊急会議編-
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「もう少し体力をつけさせたい」
真面目な顔をして告げたコールに、ネイトは眩暈を感じる。緊急で話し合いたい案件があると言われて、図書室までわざわざリンクスを呼びに行かされた。
なぜか図書室の隅に座っているリンクスを見つけるのに苦労した。
「すみませんが、何のお話でしょうか」
首を傾げているリンクスの気持ちはわかるが、コールのことをまだわかりきっていないらしい。ネイトにはすぐに誰の体力をつけたいのかわかってしまう。
もしコールが王でなかったら、何言ってんだこいつと口にしてしまうところだ。
「クライス様とは話されたんですか?」
「いや、話してない」
一応、確認のために聞いた。けれど予想通り、クライスとは何も話していないらしい。
「なるほど、クライス様のお話ですか」
少し間が空いてから、リンクスが納得しように頷いている。微妙に嚙み合っていないというか、たぶん二人ともマイペースなのだと思う。
「確かにクライス様にもう少し体力があれば、何かあったときに安心だと思います」
言った後に何かを思い出したのか、また顔色が悪くなっている。諜者の訓練は受けたことがないが、精神面の訓練はなかったのだろうかと疑問に思う。
こんなに打たれ弱くて、どうやって仕事をこなしていたのか心配にもなってくる。さらに純粋に言っているのがわかるが、間違いなくコールが求めている効果は別にあると思う。
「春になってからの方がいいと思います」
雪の中で運動させたら風邪をひく可能性もあるし、足を取られてケガでもされたら大変なことになる。きっと今している本当にどうでもいい話が可愛く思えるほどに、面倒なことになるはずだ。
「春か……」
少し考えるコールの表情からして、さらに春まで待つのかと思っている。本当に民も他国の者も騙されている。
完璧な王だと言い出したのは、いったい誰なのだろうか。完璧な王は間違いなく部下を呼び出して、こんな話を真剣にしようとはしない。
部下としては本当に頭が痛くなってくる。
「では、運動は春からとして食事の見直しをするのはいかがですか?」
表情からしてコールが納得していないのを悟ったのか、リンクスが新たな提案をする。こういう点は有能なのに、本当にここ最近はどうしてしまったのか……。
「食事か……どういう物を食べさせたらいい?」
「そうですね、体力をつけるには肉や魚がいいかと思います。ただバランス良く食べることが大事なので、野菜も必要です」
アラガスタは基本的に魚を食べることが多いが、コールのように肉を好む者もいる。港があるおかげで、魚の方が安価に手に入ることも理由の一つだ。
けれどコールは肉派のため、城の食事は肉が多い。そしてたぶんだが、クライスは肉があまり好きじゃない。
よく食べているのは、木の実や野菜、チーズなどだ。そしてたまに出される魚料理は食べている。
「城の食事を全部魚に変えましょう」
もうこの話を続けるのも面倒だし、ネイトもどちらかというと魚派だ。
「……わかった。調理場にそう伝えてくれ」
「本気ですか?」
少し考えた後に、コールがした決断に思わず声を出していた。
「自分が言い出したことだろう」
「あ、いえ、そうですが……了解しました」
これは定期的に肉と魚の両方が出る日を用意した方がいいだろう。急に肉の仕入れがなくなれば、馴染みの商会も困ることになる。
コールのクライスへの執着は、どんどん増している。本来なら王が何かに熱中しのめり込むことは、いいこととは言えない。
けれどネイトにとっては、今のコールの方が人間らしくて安心する。クライスに出会うまでのコールは、何にも執着することがなかった。
王になると決める前から、面白いことには興味を示すが固執はしない性格だった。面白いと思うことも、誰かに迷惑がかかるのなら口にするだけで実行はしない。
本当に危険だと思えば、ネイトを巻き込むことも絶対にしない。完璧かは別にして、いい王であることは確かなのだろう。
「では、これで話は終わりということでいいですね」
もう今日はさっさと部屋に戻ってのんびりしたい。
「いや、もう一つ頼みたいことがある」
言われた瞬間、自然と物凄く嫌だという表情をしてしまう。間違いなく気づいているのに、なぜかコールは面白そうに笑うだけだ。
「温泉にクライスと行こうと思うのだが、どっちの方がいいか視察に行ってくれ」
「は……?」
思わず本音が漏れる。コールの肩眉が少し上がるのを見て、不敬罪云々を考えているのだと察する。
けれどネイトは従者であり、コールのそばにいるのが仕事のようなものだ。そしてリンクスは現在休職中扱いの身だ。
「最初は休職中のリンクスに、休暇も兼ねて視察に行かせようと思ったが気が変わった」
嫌な予感しかしない。
「リンクスと一緒に視察に行ってくるように。命令だ」
もう絶望しか感じなかった。
真面目な顔をして告げたコールに、ネイトは眩暈を感じる。緊急で話し合いたい案件があると言われて、図書室までわざわざリンクスを呼びに行かされた。
なぜか図書室の隅に座っているリンクスを見つけるのに苦労した。
「すみませんが、何のお話でしょうか」
首を傾げているリンクスの気持ちはわかるが、コールのことをまだわかりきっていないらしい。ネイトにはすぐに誰の体力をつけたいのかわかってしまう。
もしコールが王でなかったら、何言ってんだこいつと口にしてしまうところだ。
「クライス様とは話されたんですか?」
「いや、話してない」
一応、確認のために聞いた。けれど予想通り、クライスとは何も話していないらしい。
「なるほど、クライス様のお話ですか」
少し間が空いてから、リンクスが納得しように頷いている。微妙に嚙み合っていないというか、たぶん二人ともマイペースなのだと思う。
「確かにクライス様にもう少し体力があれば、何かあったときに安心だと思います」
言った後に何かを思い出したのか、また顔色が悪くなっている。諜者の訓練は受けたことがないが、精神面の訓練はなかったのだろうかと疑問に思う。
こんなに打たれ弱くて、どうやって仕事をこなしていたのか心配にもなってくる。さらに純粋に言っているのがわかるが、間違いなくコールが求めている効果は別にあると思う。
「春になってからの方がいいと思います」
雪の中で運動させたら風邪をひく可能性もあるし、足を取られてケガでもされたら大変なことになる。きっと今している本当にどうでもいい話が可愛く思えるほどに、面倒なことになるはずだ。
「春か……」
少し考えるコールの表情からして、さらに春まで待つのかと思っている。本当に民も他国の者も騙されている。
完璧な王だと言い出したのは、いったい誰なのだろうか。完璧な王は間違いなく部下を呼び出して、こんな話を真剣にしようとはしない。
部下としては本当に頭が痛くなってくる。
「では、運動は春からとして食事の見直しをするのはいかがですか?」
表情からしてコールが納得していないのを悟ったのか、リンクスが新たな提案をする。こういう点は有能なのに、本当にここ最近はどうしてしまったのか……。
「食事か……どういう物を食べさせたらいい?」
「そうですね、体力をつけるには肉や魚がいいかと思います。ただバランス良く食べることが大事なので、野菜も必要です」
アラガスタは基本的に魚を食べることが多いが、コールのように肉を好む者もいる。港があるおかげで、魚の方が安価に手に入ることも理由の一つだ。
けれどコールは肉派のため、城の食事は肉が多い。そしてたぶんだが、クライスは肉があまり好きじゃない。
よく食べているのは、木の実や野菜、チーズなどだ。そしてたまに出される魚料理は食べている。
「城の食事を全部魚に変えましょう」
もうこの話を続けるのも面倒だし、ネイトもどちらかというと魚派だ。
「……わかった。調理場にそう伝えてくれ」
「本気ですか?」
少し考えた後に、コールがした決断に思わず声を出していた。
「自分が言い出したことだろう」
「あ、いえ、そうですが……了解しました」
これは定期的に肉と魚の両方が出る日を用意した方がいいだろう。急に肉の仕入れがなくなれば、馴染みの商会も困ることになる。
コールのクライスへの執着は、どんどん増している。本来なら王が何かに熱中しのめり込むことは、いいこととは言えない。
けれどネイトにとっては、今のコールの方が人間らしくて安心する。クライスに出会うまでのコールは、何にも執着することがなかった。
王になると決める前から、面白いことには興味を示すが固執はしない性格だった。面白いと思うことも、誰かに迷惑がかかるのなら口にするだけで実行はしない。
本当に危険だと思えば、ネイトを巻き込むことも絶対にしない。完璧かは別にして、いい王であることは確かなのだろう。
「では、これで話は終わりということでいいですね」
もう今日はさっさと部屋に戻ってのんびりしたい。
「いや、もう一つ頼みたいことがある」
言われた瞬間、自然と物凄く嫌だという表情をしてしまう。間違いなく気づいているのに、なぜかコールは面白そうに笑うだけだ。
「温泉にクライスと行こうと思うのだが、どっちの方がいいか視察に行ってくれ」
「は……?」
思わず本音が漏れる。コールの肩眉が少し上がるのを見て、不敬罪云々を考えているのだと察する。
けれどネイトは従者であり、コールのそばにいるのが仕事のようなものだ。そしてリンクスは現在休職中扱いの身だ。
「最初は休職中のリンクスに、休暇も兼ねて視察に行かせようと思ったが気が変わった」
嫌な予感しかしない。
「リンクスと一緒に視察に行ってくるように。命令だ」
もう絶望しか感じなかった。
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